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失注分析のやり方|商談が負ける本当の理由をデータで突き止める方法

ライター:加藤 賢大

公開日:2026年11月05日

カテゴリー:
目次

「見込み顧客の反応は良かったのに、最終的に受注できなかった」「失注理由を聞いても『検討した結果、見送りになりました』としか言われない」——BtoB営業の現場で、こうした悩みを抱えている方は少なくないのではないでしょうか。


失注分析は、単に「負けた商談を振り返る」作業ではありません。感覚や印象ではなく、データと仮説検証に基づいて「なぜ商談が負けたのか」を特定し、再現性のある改善につなげるための手法です。

失注分析とは? — 「価格」「その他」で終わる失注分析が機能しない理由

 

失注分析とは、商談が受注に至らなかった要因を特定し、営業活動やマーケティング施策の改善につなげる取り組みです。SFA/CRM上に蓄積された失注理由のデータを分析し、自社の提案や営業プロセスのどこに課題があるのかを明らかにします。

 

多くの企業が失注分析に取り組んでいるものの、実際にはうまく機能していないケースも少なくありません。その典型が、失注理由を「価格」「タイミング」「その他」といった大まかなラベルで記録して終わってしまうパターンです。

 

実際にBtoB営業経験者を対象にした調査でも、失注理由として「価格が高かった」「競合との差別化ができなかった」(ともに22.0%)、「提案内容が顧客の期待に合っていなかった」「担当者との信頼関係を築けなかった」(ともに16.0%)が上位に挙げられています。競合に負けた決め手としても「価格」が46.0%と突出しており、現場の感覚とも一致する結果です。

 

※出典:株式会社NEXER Groupと営業支援カンパニー「CLF PARTNERS」による調査(2026年7月実施、BtoB営業経験者50名対象/調査結果の詳細はこちら)

 

ただし、こちらは50名規模の自己申告ベースの調査であり、あくまで参考値です。また「価格が高い」という回答だけを集計していても、その背後にある本当の要因(費用対効果への納得感なのか、他に優先すべき課題があったのか等)までは見えてきません。
実際に、ネオマーケティングの自社データでも近い傾向が確認できます。若手営業3名が半年間に経験した失注39件を分類したところ、予算・価格を理由とする失注が12件(約31%)と最多で、NEXER調査と同様の傾向が確認できました。

 

【自社の実践】半年間の失注39件の理由内訳

興味深いのは、「価格」の次に多い理由です。社内の優先度・体制変化(5件)と音信不通による商談消滅(5件)が、それぞれ全体の約13%、合わせて約26%を占めていました。この2つは、選択式の理由コードでは「その他」に埋もれやすく、NEXER調査のような外部のアンケート調査にも表れにくいカテゴリです。

 

※このデータは3名の若手営業担当者による半年間の記録であり、企業全体やBtoB業界全体を代表するものではありません。また理由の分類は営業担当者自身が商談後に記入した一次コメントに基づくため、NEXER調査と同様に自己申告バイアスを含みます。

 

それでも、「音信不通」や「社内都合によるタイミングのずれ」が無視できない割合を占めるという事実は、失注理由を「価格」の一言で片づけてしまうと、本来は営業プロセス側で手を打てたかもしれない商談まで「仕方のない失注」として見過ごしてしまうリスクを示しています。

 

例えば「価格が高いと言われた」という失注理由は、本当に価格そのものが障壁だったのか、提案した効果に対して価格が割高に感じられたのか、あるいは別の理由を言い出しにくかっただけなのかによって、打つべき対策はまったく異なります。表層的な理由コードを集計しているだけでは、営業プロセスの改善にはつながりません。

 

失注分析を機能させるには、理由を記録するだけでなく、「なぜそう判断されたのか」を一段深く掘り下げて検証する仕組みが必要です。

 

失注分析を「診断」として設計する — 科学的検証の3ステップ

 

失注分析を機械的な集計作業で終わらせないためには、医師が症状から原因を特定していく診断のプロセスのように、仮説を立てて検証を重ねる進め方が有効です。ここでは3つのステップに分けて解説します。

 

失注分析を「診断」として設計する3ステップ◆ STEP1:データを収集し、構造化する

失注分析の土台になるのは、SFAやCRMに蓄積された商談データです。まずは次のような情報を、商談ごとに最低限記録できる状態にします。

 

・失注理由:
顧客からの一次情報(営業担当者の推測ではなく、できる限り顧客の言葉を記録)

・失注フェーズ:
初回提案前/見積提示後/最終検討段階など、どの工程で失注が確定したか

・競合の有無:
競合が存在したか、存在した場合はその企業名

・社内の担当者:
商談に関わった営業担当者・インサイドセールス担当者

・顧客属性:
業種・企業規模・商談相手の役職

 

ポイントは、「その他」で逃げられる選択肢を極力減らすことです。選択式の理由コードを設計する際は、現場の営業担当者にヒアリングし、実際によく聞かれる失注理由をベースに項目を作ると運用に乗りやすくなります。



◆ STEP2:仮説を立てて検証する

データが集まったら、集計して終わりにせず「なぜそうなったのか」を仮説として立て、他のデータと照らし合わせて検証します。例えば「価格」が理由とされた商談が多い場合、次のような仮説を検証します。

 

・同じ価格帯で受注できた商談と、失注した商談とで、提案内容や商談回数に違いはないか
・価格を理由に失注した商談は、特定の業界・企業規模に偏っていないか
・競合が存在した商談と存在しなかった商談とで、失注率に差はないか

 

定量データ(商談フェーズ・競合有無・受注率など)と、商談メモや営業担当者へのヒアリングといった定性情報を組み合わせることで、表層的な理由の裏にある構造的な要因が見えてきます。

 

 

◆ STEP3:改善アクションへ実装し、PDCAを回す

検証した仮説をもとに、営業プロセスや提案内容、トークスクリプトなどの改善アクションに落とし込みます。重要なのは、一度の分析で終わらせず、改善後の商談データを再度分析し、効果を検証するサイクルを継続することです。
失注分析は単発の調査ではなく、営業組織に根づかせる運用プロセスとして設計する必要があります。

 

「価格が高い」の裏にある本当の競合=現状維持バイアス

 

失注理由の多くが「価格」や「検討の結果見送り」に集中する背景には、行動経済学で知られる現状維持バイアス(Status Quo Bias)が関係していると考えられます。

 

現状維持バイアスとは、人が意思決定において、変化を伴う選択肢よりも現状を維持する選択肢を好む傾向のことです。この概念は、経済学者のウィリアム・サミュエルソンとリチャード・ゼックハウザーが1988年の論文で実証的に示したもので、新しい選択肢の期待価値が現状より高い場合でも、人は変化に伴う不確実性やコストを重く評価し、現状維持を選びやすいことが指摘されています。

 

※出典:Samuelson, W., & Zeckhauser, R. (1988). Status Quo Bias in Decision Making. Journal of Risk and Uncertainty(Harvard Kennedy School, Richard Zeckhauser氏 論文公開ページ)

 

 

この傾向は、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが1979年に提唱したプロスペクト理論における「損失回避(Loss Aversion)」とも関係しています。プロスペクト理論では、人は同じ大きさの利得よりも損失を大きく感じる傾向があるとされており、新しいツールやサービスの導入によって得られる利得よりも、導入に伴う変化・移行コストや「失敗したときのリスク」を大きく評価してしまうと考えられます。

 

※出典:Kahneman, D., & Tversky, A. (1979). Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk. Econometrica(The Econometric Society 公式ページ)

 

 

BtoBの購買においては、現状の業務フローやツールを変えないことは、表面的には「コストがかからない」選択に見えます。しかし実際には、導入を見送ったことで得られなかった効果(機会損失)が存在するにもかかわらず、意思決定者はその機会損失よりも、変化に伴う心理的・業務的コストを強く意識してしまいます。

 

現状維持バイアスが働くときの「天秤」つまり、失注理由として記録される「価格が高い」「検討した結果、見送り」という言葉の背後には、競合他社に負けたのではなく、「何もしない」という選択肢に負けているケースが一定数含まれている可能性があります。この視点を持つことで、失注理由の再分類や、提案内容の見直しに新しい切り口が生まれます。

 

失注分析が形骸化する3つの落とし穴

 

失注分析の重要性は多くの企業で認識されているものの、運用が定着せず形骸化してしまうケースも目立ちます。代表的な3つの落とし穴を紹介します。

 

 

◆ 落とし穴1:「その他」に逃げてしまう

理由コードの選択肢が不十分だったり、入力が営業担当者の手間になっていたりすると、「その他」を選ぶケースが増え、分析可能なデータが集まらなくなります。

 

 

◆ 落とし穴2:犯人探しになってしまう

失注分析が「誰の提案が悪かったのか」を特定する場になってしまうと、営業担当者が失注理由を正直に書かなくなります。失注分析は個人の評価のためではなく、営業プロセス全体の改善のために行うものだという前提を、あらかじめチーム内で共有しておく必要があります。

 

 

◆ 落とし穴3:分析して終わり、PDCAが回らない

失注理由を集計してレポートを作成するところまでで止まってしまい、具体的な改善アクションに落とし込まれないケースも多く見られます。分析の目的は「気づき」を得ることではなく、次の商談の受注率を上げることです。

 

失注データを「次の受注」につなげる活用法

 

◆ 現状維持バイアスを前提にした提案設計

現状維持バイアスを踏まえると、提案においては「導入によって得られるメリット」を伝えるだけでなく、「変化に伴う不確実性やコストをどれだけ小さくできるか」を具体的に示すことが重要になります。
段階的な導入プラン、小規模なトライアル導入、導入後のサポート体制の明示などは、顧客が感じる「変化のコスト」を下げるアプローチの一例です。

 

 

◆ 失注リードの再アプローチ設計

一度失注した商談でも、顧客の状況や検討タイミングが変わることで再び商談化する可能性があります。
失注理由とあわせて、再アプローチに適した時期やトリガー(予算編成のタイミング、契約更新時期など)を記録しておくことで、失注リードを将来の商談機会として活用できます。

 

 

◆ 営業・マーケティング間でのナレッジ共有の仕組み化

失注分析から得られた知見は、営業担当者個人にとどめず、マーケティング部門とも共有することが重要です。どのようなリードが失注しやすいかが分かれば、リード獲得施策やナーチャリングの設計を見直すきっかけにもなります。

 

まとめ

 

失注分析は、単に失注理由を記録・集計する作業ではなく、仮説検証を繰り返しながら営業プロセスを改善していく科学的なプロセスです。また、失注理由の多くが「価格」や「検討の結果見送り」に偏っている場合、その背景には現状維持バイアスという、顧客の意思決定に関わる構造的な要因が隠れている可能性があります。

感覚や経験だけに頼らず、データと行動経済学の視点を組み合わせて失注分析に取り組むことで、再現性のある受注率改善につなげていきましょう。


 

 

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加藤 賢大
WRITER
加藤 賢大
マーケティングリサーチャ―としてキャリアをスタートし、BtoB、BtoCかかわらずマーケティングの戦略立案や施策実行を支援。自社マーケティングにおいても、戦略提案や業務提携、ウェビナー登壇やコラム執筆などを担当。その後、自社D2Cのブランドマネージャーを経て、現在はBtoB企業様に伴走してBtoBマーケティング領域を支援。

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