ABMは、対象とするアカウント数とアプローチの個別化度合いによって、大きく3つのアプローチに分類されます。
※「ABM」という呼び方自体は、2003年に業界団体ITSMA(Information Technology Services Marketing Association)のBev Burgess氏が提唱したとされ、One to One/One to Few/One to Manyという3分類も、同氏らが整理した枠組みがもとになっています。
※出典:Account-based marketing(Wikipedia)
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アプローチ
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対象アカウント数の目安
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特徴
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向いている企業・商材
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One to One
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数社程度
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最重要アカウント1社ごとに専任チームを置き、個別にカスタマイズした提案・コンテンツで徹底的にアプローチする
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商談単価が非常に高く、戦略的に落としたい大型アカウントが明確な企業
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One to Few
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数十社程度
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似た業種・課題を持つアカウントをいくつかのクラスター(グループ)に分け、クラスター単位でアプローチを設計する
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ターゲット業種がある程度絞られており、クラスター単位で共通の訴求が作れる企業
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One to Many
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数百社以上
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MA・CRM等のツールを活用し、スコアリングによる優先順位付けと、テクノロジーを使った準パーソナライズなアプローチを広い対象に展開する
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ターゲット企業数が多く、テクノロジーを活用した効率的なアプローチが必要な企業
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多くの企業では、この3つを単独で使うのではなく、「最重要アカウントの数社はOne to Oneで」「準重要アカウント群はOne to Fewで」「それ以外の対象はOne to Manyで」というように、階層的に組み合わせて運用するのが実践的です。
ABMを「診断・処方・経過観察」として設計する3ステップ
ABMは、3つのアプローチを理解しただけでは「知っているつもり」で終わりがちです。医師が診断・治療・経過観察を繰り返すように、仮説を立てて検証し、改善につなげるプロセスとして設計することで、感覚ではなくデータに基づいて運用できます。ここでは3つのステップに分けて解説します。

◆ STEP1:アカウントを「診断」する
最初のステップは、「どの企業にアプローチするか」を定義することです。売上規模・業種・従業員数などのファーモグラフィック情報と、既存の優良顧客に共通する特徴(ルックアライク)を基に、ICP(Ideal Customer Profile:理想的な顧客像)を定義し、アプローチ対象となるアカウントリストを作成します。
この診断の精度を左右するのが、社内(営業・マーケティング)の合意形成です。選定したアカウントリストについて、営業・マーケティング双方で「なぜこの企業を優先するのか」の認識をすり合わせます。ABMはマーケと営業の協働が前提のため、この合意形成を軽視すると、せっかく診断した結果が現場で運用に定着しにくくなります。
診断の精度を高める具体的な視点については、後述の「ターゲットアカウント選定で重要な視点」で詳しく解説します。
◆ STEP2:一貫した「処方」を設計する
診断(ターゲットアカウントの選定)が終わったら、そのアカウントが抱えていそうな課題を仮説として設計し、課題に合わせたコンテンツ・接触チャネル・トークを用意します。これが、診断結果に基づく「処方」にあたる工程です。
ここで重要なのは、アカウント内にいる複数の関与者(決裁者・現場担当者・情報システム部門など)に対して、役職ごとに切り口を変えながらも、アカウント全体としては一貫したメッセージを複数のチャネル(Webサイト、広告、メール、展示会、商談)で繰り返し届けることです。One to Oneの重要アカウントほど、個別性の高い処方設計が求められます。
なぜ『一貫して繰り返し届ける』ことがそこまで重要なのか、その理由は次の章で行動経済学の視点から詳しく解説します。
◆ STEP3:効果を「経過観察」し、優先順位を見直す
処方を実行したら、その効果を経過観察し、必要に応じて診断内容そのものを見直します。商談化率・受注率などアカウント単位のKPIをモニタリングし、ターゲットアカウントの選定基準やアプローチ内容を定期的に見直します。
一度決めたアカウントリストや処方内容を固定化せず、PDCAを回す前提で運用することが、ABMを単発の施策ではなく継続的な仕組みとして機能させるポイントです。
一貫した複数接点が効く本当の理由=単純接触効果
STEP2で触れた『アカウント内の複数関与者に、一貫したメッセージを複数チャネルで繰り返し届ける』という設計は、感覚的な工夫ではなく、行動経済学・社会心理学で知られる単純接触効果(Mere Exposure Effect)という心理傾向で裏付けることができます。
単純接触効果とは、人は特定の対象に繰り返し接触するほど、その対象への好意度が高まるという心理傾向のことです。心理学者ロバート・ザイアンスが1968年に発表した実証研究で示されたもので、見慣れた単語・図形・人の顔など、対象の種類を問わず広く確認されている現象です。その後の208件の実験を対象にしたメタ分析でも、効果の頑健性が確認されています。
※出典:Zajonc, R. B. (1968). Attitudinal Effects of Mere Exposure. Journal of Personality and Social Psychology Monograph Supplement, 9(2, Pt. 2), 1–27.
※効果の大きさは接触対象や状況によって幅があり、接触回数が極端に多くなると効果が頭打ち・微減する場合があることも確認されています。

ABMにおいては、同一アカウント内の複数の関与者それぞれに対して、Webサイト・広告・メール・商談といった複数のチャネルを通じて、一貫したメッセージを繰り返し届けることになります。これはまさに、単純接触効果が働きやすい条件そのものです。バラバラな企業に対して単発でアプローチするリード型の施策では、この『繰り返しの接触』が生まれにくく、好意形成の機会を活かしきれません。
さらに、ABMでは同じ企業の中の複数の関与者が、互いに似たコンテンツやメッセージに触れることになります。社内の複数人が同じような情報に接していること自体が、検討の場での「社外から一貫した情報が届いている」という安心感にもつながりやすく、単純接触効果に加えて、合意形成を後押しする副次的な効果も期待できると考えられます。
つまり、ABMが『アカウント単位でまとまってアプローチする』という設計そのものが、個人単位でバラバラにアプローチするよりも、心理学的に好意・信頼を築きやすい構造になっているといえます。
ターゲットアカウント選定で重要な視点
ABMの成否は、STEP1の「診断」にあたる、「どのアカウントを狙うか」の精度に大きく左右されます。
選定の際に重要な視点を4つ紹介します。
・ファーモグラフィック(企業属性):
業種、従業員数、売上規模、拠点数など、企業の基本的な属性情報。自社の商材が刺さりやすい企業の傾向を整理する出発点になる
・既存顧客との類似性(ルックアライク):
既に受注・活用が進んでいる既存顧客に共通する特徴(業種、導入の背景、組織体制など)を分析し、似た特徴を持つ未アプローチの企業を抽出する
・意思決定関与者の構造:
ターゲット企業の中に、どのような役職・部門の関与者がいて、どのように意思決定が進みそうかを事前に想定しておく。関与者が多く複雑な企業ほど、アプローチの設計に時間をかける価値がある
・エンゲージメントシグナル:
資料ダウンロード、Webサイトの閲覧、ウェビナー・展示会への参加など、すでに関心を示している行動データ。ファーモグラフィックだけでは見えない「今、検討熱が上がっている企業」を見つける手がかりになる
【自社の実践】重点アカウントの絞り込みに取り組んだ事例
ネオマーケティングでは、社内の有志による取り組みの一つとして、新規商談の獲得を効率化するためにターゲットアカウントの絞り込み方を整理するプロジェクトが行われたことがあります。
具体的には、過去の商談データと企業属性(業種・規模など)を軸に、どのような特徴を持つ企業へのアプローチが商談化につながりやすいかを整理し、優先順位付けの考え方をまとめるという内容でした。
この取り組みから得られた気づきとして、次の2点が挙げられます。
・「闇雲にアプローチ先を広げる」より「過去の実績から優先順位をつける」方が効率的だった:
すべての企業に同じ熱量でアプローチするのではなく、過去の商談データから見える傾向を基準に優先順位をつけることで、限られたリソースの配分を検討しやすくなった
・属性データだけでなく『社内の経験・感覚』を定性的に組み合わせることが重要だった:
数値データだけで優先順位を決めきれない部分は、実際に商談を経験している営業メンバーの感覚とあわせて整理することで、より実態に近い優先順位付けができた
この事例自体は特定の商材やキャンペーンに限定した社内の取り組みであり、そのまま一般化できるものではありませんが、「過去の実績データ」と「現場の感覚」の両方を組み合わせてターゲットアカウントの優先順位を考える、という視点は、ABMにおけるSTEP1「診断」の精度を上げる考え方として、一般的なアカウント選定にも通じるものだと捉えています。
ABM導入でよくある失敗・注意点
Q. ABMは大企業向けの手法で、中小企業には向いていないのでしょうか?
A.
ABMの考え方自体は企業規模を問わず適用できます。重要なのは対象アカウント数とリソースのバランスです。リソースが限られている場合は、まず数社〜数十社のOne to One/One to Fewから小さく始め、成果が見えてから対象を広げるという進め方が現実的です。
Q. 高度なマーケティングオートメーションツールがないと、ABMは始められませんか?
A.
One to Manyのように広い対象にスコアリングを行う場合はツールの活用が効果的ですが、One to OneやOne to Fewのように対象アカウント数が少ない場合は、エクセルでのアカウントリスト管理や営業・マーケの定例ミーティングなど、既存の体制の延長で始めることも可能です。
まずは『ターゲットアカウントを診断し、営業とマーケで認識をすり合わせる』というABMの考え方自体を小さく実践することが重要です。
Q. ABMを導入すると、今までのリード獲得施策(展示会・広告・資料DLなど)はやめるべきですか?
A.
両立は可能です。ABMは『誰を優先してアプローチするか』という優先順位づけの考え方であり、リード獲得施策そのものを否定するものではありません。既存のリード獲得施策で得られた情報(エンゲージメントシグナル)を、ターゲットアカウントの優先順位づけの材料として活用するなど、組み合わせて運用している企業も多くあります。
まとめ
・ABMとは:
個人(リード)ではなく企業(アカウント)を単位として、営業とマーケティングが一体となってアプローチする手法である
・3つのアプローチ:
対象アカウント数とアプローチの個別化度合いに応じて、One to One・One to Few・One to Manyがあり、多くの企業はこれらを階層的に組み合わせて運用している
・診断としての設計:
①アカウントを「診断」する(選定・合意形成)→②一貫した「処方」を設計する(コンテンツ・接点設計)→③効果を「経過観察」し見直す、という3ステップで運用度を感覚ではなくデータで把握できる
・行動経済学からの裏付け:
アカウント内の複数関与者へ一貫したメッセージを繰り返し届けるABMの設計は、単純接触効果という心理傾向と整合しており、好意・信頼を築きやすい構造になっている
・自社実践からの発見:
「過去の実績データ」と「現場の感覚」を組み合わせて優先順位を考えることが、診断の精度を上げるうえで有効だった
ABMは一度仕組みを作れば終わりというものではなく、ターゲットアカウントの選定基準やアプローチ内容を継続的に見直していく、地道な取り組みです。「どのアカウントを優先すべきか判断に迷う」「営業とマーケでの連携の仕組み化まで手が回らない」という場合は、外部の支援を活用するのも一つの方法です。
ネオマーケティングでは、調査・インサイトを起点としたBtoBマーケティング支援を幅広く行っています。ABMの導入・設計でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。