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リサーチの成否を分ける「与件整理」の誤りとその解決法

ライター:吉原慶

公開日:2024年10月02日 | 更新日:2024年10月18日

カテゴリー:
目次

マーケティングリサーチは単なるデータ収集ではなく、戦略的な意思決定を支える重要なプロセスです。

そのためには、明確な目的、調査課題、そして具体的なゴール設定が不可欠です。

本コラムでは、これらの要素がいかに重要であるか、それらをどう整理していけばよいかを解説します。

目的と調査課題

リサーチを始める前に、まずは目的を明確にしましょう。何を達成したいのか、そのためにどのような調査課
題が存在するのかを整理することが重要です。
調査課題は、具体的な疑問形で設定することが求められます。
疑問形がよいのは、ゴール達成のために知るべきことの整理がしやすくなるからです。

ゴール設定の重要性

調査課題が明確になったら、それに基づいて具体的なゴールを設定します。
ただ「資料に活用する」「戦略を決める」といった抽象的なゴールは、実際のリサーチにおいては無意味で
す。
ゴールは具体的でなければなりません。

よくある失敗例

1. ●●調査をしたい

「認知度調査をしたい」という依頼があった場合、そのままブランドの認知度やイメージを調査してしまうことがよくあります。しかし、このアプローチでは、売上が伸びない原因や必要な施策が不明確なまま進めてしまうリスクがあります。

 

結果として得られるのは「こうだった」という事実だけで、それがどのようなアクションにつながるのかが曖昧なまま終わってしまいます。(so what)

 

2. ●●を改良したい

「パッケージを改良したい」という相談があった場合、現行商品のパッケージ評価をそのまま行ってしまうこともあります。この場合、調査の目的が不明確で、評価を通じて何を明らかにしたいのか、なぜその評価が必要なのかが理解されていません。

 

結果として、「パッケージのこの部分を変えるべき」という結論に至ることが多いですが、それが本当に意味のある改善なのかどうかは疑問です。もし、売上が落ちている理由がパッケージにない場合、ターゲット設定やメッセージ、価格設定など他の要因を見落としてしまうことになります。

 

3. 目的とゴール設定が曖昧

目的が「実態を把握する」となっている場合、調査は単なる情報収集に終始しがちです。そもそも「実態」とは何か、何を持って実態把握とするのかの定義がなければ、抜け漏れが生じる可能性があります。ゴールが「戦略を立てる」としても、具体的にどのような戦略を導き出したいのかが明確でなければ、結果は意味を持ちません。

 

4P(Product、Price、Place、Promotion)に加え、人(People)やパッケージ(Package)を加えた6Pで整理することが重要です。具体的に6Pのどの要素を決めるのかを明確にすることが求められます。目的とゴールの設定が曖昧であれば、調査結果がどのように活用されるべきかも見えてこないため、実際のアクションにつながらない危険性があります。

情報整理の手順

多くの場合、お客様は「新商品を調査したい」といった「したい相談」を持ちかけます。 

この時、以下のステップで確認・整理することで、より効果的なリサーチが可能になります。

 なぜそれをしたいのかを確認

 理由を明確にすることで、本質的な問題を見逃さずに済みます。

 
 いつまでに、どうなりたいのか?を確認
ゴールの期限を設定することで、方向性が明確になります。
 
 これまでにやってきたことを確認
既存のデータや施策を考慮することで、重複や無駄を省けます。
 
 前提条件として、できること、できないことを確認
パッケージ変更や価格変更など、実行可能な施策を見極めます。
 
 現状確認:ターゲットは?提供価値は?売り方は?
現状を正確に把握することで、必要な調査が明確になります。
----------
このように整理することで、マーケティング課題とリサーチ与件の整理ができます。
 
【マーケティング課題】
目指す姿:お客様が最終的に達成したい目標や状態。ビジネスにおける理想のゴールや成果を指します。
例:
・売上を前年比20%増加させる。
・市場シェアを5%拡大し、競合に対して優位性を持つ。
・顧客満足度を80%以上に向上させ、ロイヤル顧客を増やす。
 
現状:お客様が現在直面しているビジネス状況や市場環境。目指す姿に対して現時点でのポジションや課題を具体化します。
例:
・現在の売上は昨年比5%減少している。
・市場シェアは競合の新製品投入により2%減少している。
・顧客満足度は70%に留まり、顧客離れが増加している。
 
課題:お客様が直面している問題や障害。現状から目指す姿に到達するために解決しなければならない具体的な問題点です。
例:
・オンライン販売チャネルの強化が進んでおらず、競合に遅れを取っている。
・コスト削減が遅れており、利益率が低下している。
・マーケティング予算が限られており、新規キャンペーンが実施できない。
 
前提条件:解決策や施策を設計する際に影響する外的・内的な制約や条件。提案を行うための環境要因を含みます。
例:
・新しいマーケティングキャンペーンを実施するための予算は500万円以内。
・新システム導入までの期間が3ヶ月しかない。
・SNS運用、パッケージデザイン開発は内製化している。
・マーケティングリサーチ担当者が退職したため不在。
 
【リサーチ与件】
調査目的(Why):調査を行う理由や背景。調査が何のために行われ、どのような目標を達成したいのかを明確にする部分です。
例:
なんのための調査なのか?:新商品の市場導入における潜在顧客のニーズを把握するため。
なぜ調査をするのか?:競合商品との差別化ポイントを明確にするため。
なんのために調査をするのか?:新製品のマーケティング戦略を最適化し、売上を最大化するため。
 
調査課題(What):調査で明らかにすべき具体的な問題や質問。目的を達成するために、何を理解すればよいのかを特定する。
例:
何がわかれば目的を果たせるか?
・消費者の認知度は?
・主要な購入チャネルは?
・消費者にとっての商品価値は?
・商品に対するターゲット層のボリュームは?
・誰がターゲットなのか?
  
ゴール(How):調査結果を基に、具体的に何をすべきか、何ができるのかを示す。
        調査の結果を実際のアクションに結びつけるための最終目標。
        抽象的ではなく具体的であるほどよい。
商品価格の最適化を行う
⇒決めることを具体化
 ターゲット層の価格帯の許容範囲を明確にする。
 
ターゲット層に向けたプロモーション戦略を策定する
⇒決めることを具体化
 ・年齢、性別、所得、ライフスタイルなどのデモグラフィック情報。
 ・ターゲット層のニーズやペインポイント、価値観。
 ・ターゲット層が使用しているメディア、プラットフォーム。
 ・ターゲット層が抱える課題や欲求に応じたペルソナ設定。
 
パッケージデザインを改良し、ターゲットに強くアピールする
⇒決めることを具体化
 ・商品の特徴(機能性、ベネフィット)をわかりやすく伝えるラベルやパッケージコピーを作成する。
 
リサーチ与件は「目的(Why)」「調査課題(What)」「ゴール(How)」という3つのステップを通じて構成され、目的に沿った実践的な調査計画を立てる基盤となります。
このように、事前の情報を整理できることで、意義のある、マーケティングリサーチが実現します。
 
ポイント!
マーケティング課題の整理なく、リサーチの与件のみ整理をすると、リサーチの目的もゴール設定も
曖昧になります。
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設計に入る前に
与件整理ができたら、設計に入りますが、その際のポイントを簡潔にまとめます。
 
 サンプル設計
 最初にサンプルサイズを決めるのではなく、対象者条件と割付を決めます。
 誰に聞いて、誰の意見をみるべきか、誰と比較すべきかを明確にします。
 正)条件・割付⇒サンプルサイズの決定、
 謝)サンプルサイズの決定⇒条件・割付の決定
 
 設問作成
 「誰に」が決まったら、調査課題を明らかにするための設問を考えます。
 
 捕捉設問
  調査課題に深みを持たせるための捕捉設問を考えます。
 
 課題と設問の整理
  調査課題とそれに対応した設問を整理しておくことをおススメします。これをしておくことで、結果が上がった時に、必要な情報整理速度を早めることができます。
 
【調査課題と設問の対応表】
 
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結論

マーケティングリサーチの成功には、与件整理が不可欠です。
目的を明確にし、具体的な調査課題を設定することで、リサーチの方向性を定めることができます。

 

さらに、明確なゴールを設定することで、調査結果を具体的なアクションに結びつけることが可能となります。
よくある失敗は、目的やゴールが不明確なまま調査を進めることです。
これにより、本質的な問題を見逃し、実際の施策に活かせない結果に繋がることが多いです。

従って、リサーチを成功させるためには、与件整理を徹底し、サンプル設計や設問作成、調査課題と設問の対応表作成が重要です。
しっかりとした基盤があれば、得られた情報を迅速かつ的確に活用でき、戦略的な意思決定を支えるリサーチが実現できるのです。

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吉原慶
WRITER
吉原慶
マーケティング会社を経て、上場企業のマーケティングリサーチ会社に移籍。 リサーチャーのチームを立ち上げ、マネージャーとして後進の育成や社内外での勉強会やセミナーの開催、新サービスの開発を担当。 2022年ネオマーケティング(エキスパートグループ)に合流し、現在はストラテジックリサーチャーとして「リサーチを起点に、デジタルマーケティング・PRグループとのシナジーを生み出す」ことをミッションにしている。

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