マーケティングリサーチ・市場調査は大きく分けると、「定量調査」と「定性調査」の2種類に分けられます。生活者のニーズや市場のトレンドを調査したいと考えているものの、どのような調査手法を用いればよいのか、どれだけの情報量を収集するべきなのか、迷っている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、定性調査と定量調査の違いをはじめ、定性調査に適したサンプルサイズの見極め方や、調査手法ごとのサンプルサイズの目安について解説しています。
定性調査とは?定量調査との違い
定性調査とは、数値では表せない生活者の心理や行動理由を探るための調査手法のことです。対象者の意見や感情、行動の背景や動機などを分析する際に役立つデータを収集する手段として用いられています。
はじめに、定性調査を実施する目的と、定量調査との主な違いをかんたんに整理しておきましょう。
定性調査の目的
定性調査を実施する目的を一言で表現するなら、「対象者から多様な意見を収集すること」といえます。数値化できない心理や、言葉のニュアンスも含めて調査したい場合に採用されるケースが多い調査手法です。
たとえば、新製品のコンセプトテストを実施する場合を考えてみましょう。簡易的なアンケート調査でも、製品コンセプトが「気に入った」「あまり気に入らない」といった大まかな感想は聴取できます。一方で、「具体的にどんなところが気に入ったのか?」「なぜ気に入らないと感じるのか?」といった詳細については、対象者がどう感じたのかを深掘りしてヒアリングしなければわかりません。このように生活者のインサイト(内面)を明らかにすることが、定性調査を実施する主な目的です。
定量調査との違い
定量調査とは、数値データの収集を目的とした調査手法のことです。回答が多い/少ないといった傾向を踏まえて、仮説を検証したり実態を把握したりするために用いられます。定性調査と定量調査の主な違いは下表のとおりです。
比較項目
|
定量調査
|
定性調査
|
分析データ
|
|
|
調査目的
|
|
|
主な調査手法
|
-
ネットリサーチ
-
会場調査
-
ホームユーステスト
-
郵送調査
|
-
デプスインタビュー
-
グループインタビュー
-
オンラインインタビュー
-
エスノグラフィー(行動観察調査)
|
より詳しくはこちらの記事でご確認ください。
サンプルサイズとサンプル数
定性調査に限らず、リサーチを行う際に耳にするのがサンプルサイズとサンプル数。どちらも収集する情報量を示すものですが、意味の違いを理解していないと正しいデータが収集できなくなってしまうので注意が必要です。
サンプルサイズ
サンプルサイズとは1つの調査において「何人にアンケートを取ったか」「何件のデータを集めたか」を表す数字です。たとえば、100人にアンケートを実施した場合、サンプルサイズは100になります。
サンプル数
サンプル数は、「何回の調査を行ったか」「いくつのグループに分けてデータを取ったか」を指します。たとえば、男女別や年代別など複数のグループでそれぞれ100人ずつ調査した場合、サンプルサイズは100、サンプル数はグループの数(例:2つ)となります。
サンプルサイズもサンプル数も多ければよいというものではありません。
調査は回収する回答数(=サンプルサイズ)で価格が変動するサービスがほとんどで、回収数が増えることで費用も回収にかかる時間も必要になります。
また集まった情報に十分な精度があれば、必要数以上回答を増やしても判断はほぼ変わりません。逆にグループ分けの条件(=サンプル数)が多すぎると、ノイズが入ったり分析や結論に影響する場合もあります。
定性調査の適切なサンプルサイズを見極める5つのポイント
定性調査を実施する際に重要になるのが、「どれだけの調査対象者数(サンプルサイズ)を想定すべきか」という点です。適切なサンプルサイズを見極めるために重要なポイントが5つあります。
ポイント1:調査目的
必要なサンプルサイズを左右する重要な要素として、調査を実施する目的が挙げられます。できるだけ多くの人の意見や感想を収集したい場合もあれば、調査目的によっては対象者が現実的に限られている場合もあるからです。
一例として、製品などのコンセプトや消費者インサイトに関する調査であれば、可能な限り多様な意見を集めておくのが望ましいでしょう。一方、ターゲットとなる市場が限られているニッチな製品・サービスや、テーマが限定的な商材の場合は、サンプルサイズが比較的少数でも調査として成立する可能性があります。
ポイント2:対象者の属性
対象者にどの程度の多様性を求めるのかによって、適切なサンプルサイズは変動します。年齢・職業・地域など、ターゲットの属性が幅広いほうがよいのか、特定の層に絞って調査したいのかによって、適切なサンプルサイズを見極めることが大切です。
たとえば、ターゲットが明確に絞られている商材であれば、サンプルサイズは比較的少なくても問題ないケースが多いでしょう。サンプルサイズをむやみに増やしてしまうと、ターゲットに含まれない人物の回答が多くなるおそれがあるからです。
ポイント3:リソース
自社が調査に投じられる時間や予算、人員といったリソースは、重要な制約条件となり得ます。あくまでも調査目的の達成が重要課題ではあるものの、現実的に実施可能な範囲で調査を実施しなければならないからです。
また、インタビューであればモデレーターやファシリテーターといった役割を担える人材が必要になります。自社にこうしたノウハウの蓄積がない場合や、適任と思われる人材が在籍していない場合、外部の調査会社を活用するといった手段も視野に入れて検討していく必要があるでしょう。
ポイント4:飽和点
一般的に、定性調査のサンプルサイズが増えるにつれて得られる回答が重複する確率が高まっていきます。飽和点とは、回答の重複が発生する時点のことです。飽和点を大きく上回るサンプルサイズを確保しても、得られる情報のバリエーションは限られてしまいます。
前述した調査目的や対象者の属性を見極め、飽和点前後のサンプルサイズを確保するのが理想です。サンプルサイズを増やしすぎないことは、定性調査の費用対効果を高めるためにも重要なポイントといえます。
ポイント5:調査手法
採用する調査手法によって、適切なサンプルサイズは異なります。一度に複数名に対してインタビュー調査を実施する場合と、1対1で調査を実施する場合とでは、時間あたりに調査できる人数が異なるからです。
1対1で実施する調査の対象者数が過大だった場合、調査期間が長期化したり、調査に労力やコストがかかりすぎたりするおそれがあります。できるだけ多人数から多様な声を収集したいのか、少数であっても各々の意見や感想を深掘りしたいのかによって、必要なサンプルサイズを見極めることが大切です。
代表的な調査手法におけるサンプルサイズの目安
次に、調査手法別に見た場合のサンプルサイズの目安について解説します。
デプスインタビューの場合
デプスインタビューとは、調査対象者一人ひとりに対して個別に実施するインタビューのことです。1対1のためインサイトを深掘りしやすい反面、調査に時間がかかります。
適したサンプルサイズは調査目的や調査対象によって異なりますが、一般的な目安として10~20名程度(1セグメントあたり3~5名)が推奨人数です。予算や人員に余裕があればサンプルサイズを増やすことも可能ですが、飽和点を超えると得られる情報が重複しやすくなり、費用対効果の悪化が懸念される点に注意が必要です。
グループインタビューの場合
グループインタビューとは、4〜6名程度の対象者へ同時に実施するインタビューのことです。一度に複数名の対象者に質問ができるため効率よく調査を進められる一方で、個々人の意見や考えを深掘りしにくい傾向があります。また、健康や金銭といったデリケートなテーマを扱う調査に関しては、グループインタビューが向かない場合も多いのが実情です。他の調査対象者に知られたくない・公共の場で発言しにくいテーマに該当していないか、慎重に検討する必要があります。
一般的には、3〜4グループを対象に調査を実施するケースが多く見られます。したがって、サンプルサイズの目安としては12〜24人程度を想定しておくとよいでしょう。
エスノグラフィーとは、対象者が特定の環境下でどのような行動をとるのかを一定期間にわたって観察する調査のことです。比較的長い期間にわたって対象者を観察する必要があることから、サンプルサイズとしては5~10名程度にとどめるのが得策でしょう。
エスノグラフィーに関しては、サンプルサイズの多さよりも十分なインサイトを得られるかどうかが重要なポイントとなります。サンプルサイズが限られていても、十分な調査期間を確保すれば対象者の行動パターンを分析することは可能です。
オンラインインタビューの場合
オンラインインタビューとは、ビデオ会議システムを活用して実施するインタビューのことです。地理的要因や会場キャパシティの制約を受けないため、対象者を比較的集めやすい点がメリットといえます。
ただし、対象者のインサイトを把握するには、各々との対話を通じてフィードバックを収集することが重要です。物理的な制約がないとはいえ、サンプルサイズは10~20名程度(1セグメントあたり3~5名)が推奨されています。
調査手法に応じて適切なサンプルサイズを見極めることが重要
定性調査を効果的に実施する上で、適切なサンプルサイズを確保することは非常に重要なポイントです。サンプルサイズが不足していると得られる意見や感想が偏ったり、十分に検証ができなかったりするおそれがあります。
反対にサンプルが過大だと、重複する回答が目立つようになり費用対効果が悪化する要因となりかねません。今回紹介したサンプルサイズはあくまでも1つの目安ですが、調査手法ごとに適切なサンプルサイズを検討する際の手がかりとなるでしょう。調査手法に応じて適切なサンプルサイズを見極め、定性調査の効果を最大限に引き出してください。