企業が現状把握のために行う様々なアンケート調査は、人の心理状態を測定する目的で頻繁に行われます。そしてアンケートによる質問項目を設定する際、よく用いられるのがリッカート尺度です。
今回は、そんなリッカート尺度について、特徴や調査例、5段階や7段階の違いについて詳しく解説します。
リッカート尺度とは?
リッカート尺度とは、アンケートにおいて対極関係にある回答を両極に置きつつ、どの程度の強さでその意見をもつかを尋ねることを指します。リッカートとは、この尺度法を生み出したアメリカの社会学者の名前が由来となっています。企業がアンケート調査を行う際に、リッカート尺度は最もスタンダードなスケール(尺度)として幅広く利用されています。
たとえば「賛成」か「反対」かを尋ねるアンケートの場合、リッカート尺度としてよくあるのは、上図の「賛成」「やや賛成」「どちらともいえない」「やや反対」「反対」のように、5段階のスケールを使った質問が一般的です。アンケートによっては、7段階などより多くの回答選択肢を設けることもありますが、その場合も賛成寄りと反対寄りの選択肢は同数に設定されます。(非常に賛成、とても賛成、やや賛成、どちらともいえない、やや反対、とても反対、非常に反対)
リッカート尺度の特徴
リッカート尺度の最大の特長は、選択肢が「満足」「不満」のみのような二者択一の質問と比べて、より細かい心理的状況について知ることが可能である点です。同じ「満足」でも、「非常に満足した」と「少しだけ満足した」とでは、満足度に大きな違いがあるといえますが、こうした差を浮き彫りにできるのが、リッカート尺度の大きな利点です。
このような程度の差を把握できるリッカート尺度の活用は極めて重要といえます。たとえば顧客に対して自社商品の満足度を尋ねるアンケート調査を行う場合、「どちらかといえば満足」と「非常に満足」とでは、顧客が感じている満足度に大きな差があると判断できます。
「どちらかといえば満足」との回答割合が多ければ、自社商品に改善の余地が多数あると考えられるのに対し、「非常に満足」との回答が多ければ、現状の自社商品が顧客ニーズにより適合していると考えられます。企業にとってリッカート尺度は、調査対象者の微妙な心理状況を把握できる極めて有用な手法であるわけです。
●中立的尺度「どちらでもない」
リッカート尺度を用いるうえで大きな論点となるのが、中立的尺度の問題です。中立的尺度とは、リッカート尺度の中で設置される「どちらともいえない」という回答項目を指します。
一般的に顧客満足度調査や従業員満足度調査では、質問の両極に「満足」「不満足」などの項目が置かれますが、真ん中に「どちらともいえない」の選択肢が置かれます。実は、リッカート尺度でアンケートを行った場合、この「どちらともいえない」との回答数が最多となるケースが少なくありません。回答者が満足か不満足か明確な意見をもっていない場合、あるいはその場でどちらかを選ぶ決断を短期間で行えない場合などに、手っ取り早く回答するためにとりあえず「どちらともいえない」を選ぶケースが多いのです。「どちらともいえない」ばかりに回答が集中してしまうと、お金と時間をかけて調査をしたのに、十分な分析ができないという事態になる恐れもあります。
しかし、裏を返せば、中立的尺度があるにもかかわらず、「満足」や「不満足」、あるいは「賛成」や「反対」といった項目を選択した回答者は、それだけ選択した意見を強くもっていることを意味します。
また、中立的尺度がなければ、満足か不満足かを強く意識していないのに、「とりあえず満足を選んでおく」といった回答をすることになるため、アンケートによって正確な心理状況を把握できないリスクがあります。
リッカート尺度のメリット・デメリット
次に、リッカート尺度のメリット・デメリットを紹介し、デメリットについては対策も紹介します。
■メリット
リッカート尺度のメリットは、5段階で収集することで細かいデータを収集できるのはもちろん、集計方法を変えることで全体的な傾向としての意見も把握できる点にあります。
下図のように、リッカート尺度で集計しても、(「どちらともいえない」という選択肢があるものの)二者択一の場合と同じように「賛成」「反対」の2分類で集計することが可能です。
また、「賛成」か「反対」、「満足」か「不満足」という二者択一の場合、明確な意見をもっていない回答者にとっては、どちらに回答すべきか迷ってしまい負担に感じてしまう可能性があります。その結果、回答者がそこでアンケートをやめてしまい、回答者数が減ることに繋がりかねません。
リッカート尺度であれば、明確な意見がない人でも比較的回答しやすいわけです。
■デメリット
デメリットは、リッカート尺度は二者択一と比べて選択肢が多いため、回答者によっては「選択肢間の差がわかりにくい」と感じる可能性があるという点です。「満足」と「やや満足」は、満足度に強弱があること自体はわかりますが、何を基準・境界として回答が分かれるのか曖昧に感じる回答者もいる、ということです。
また、日本人は極端な回答を避ける傾向にあるといわれています。「非常に満足」「かなり満足」などといった、いわゆる強意語がある項目は選択されづらく、結果「やや」「どちらかといえば」という選択肢に回答が寄ってしまう可能性があるということです。
■デメリットの対策方法
デメリットを解消するために、ネオマーケティングでは以下のように選択肢を設定することを推奨しています。
- 7段階評価を避け、5段階評価にする
- 「とても」「非常に」といった表現を用いず、「賛成」「やや賛成」~「やや反対」「反対」という並びにする
上記2点に従って選択肢を設定することで、①度合の違いが分かりづらい②強意語が含まれる選択肢が選ばれづらい といったデメリットが極力解消されると考えています。
冒頭でお伝えしたように、リッカート尺度は細かく分析するのに適性のある尺度であることは間違いありません。しかし、必要以上に細かくしてしまったり、何も考えずに選択肢の表現を設定してしまうと、実態とアンケート結果に乖離が発生してしまい、誤ったマーケティング施策が導き出される可能性があります。
どの程度細かく分析したいのか、設定した選択肢で自身で適切な分析が可能かを検討したうえで、7段階と5段階のどちらをつかうのか、選択肢の表現をどのように設定するか、という点を考慮することをおすすめします。
リッカート尺度が用いられるアンケート調査例
次に、リッカート尺度が頻繁に用いられる調査例を2つご紹介します。
■顧客満足度調査(CS調査)
顧客満足度調査とは、自社の新商品・サービスに対する顧客の印象を調査するために行われるアンケート調査です。形式としては、まずは全体的な満足度の度合いを尋ねた上で、商品・サービスの細かい特徴に対する印象を聞き取り、どの特徴が全体的な満足度と高い相関関係にあるのかを調べるのが一般的といえます。
自社商品・サービスに対する満足度を尋ねる際に、「満足」「やや満足」「どちらともいえない」「やや不満足」「不満足」といったリッカート尺度が用いられるのが通例です。
顧客満足度調査について詳しい記事を読む
■従業員満足度調査(ES調査)
従業員満足度調査とは、従業員を対象に実施される、自社に対する満足度を調べる調査のことです。従業員満足度調査も、全体的な満足度の度合いに対して、待遇、福利厚生、職場の人間関係といった、個別項目の中で最も大きく影響を与えている項目は何かを調べるのが基本的な方法です。
全体的に「不満足」との回答を行った従業員の多くが、「福利厚生」の項目にも「不満足」との回答をしていれば、企業としては従業員のモチベーションを高めるために、福利厚生の改善が必要であることが把握できるわけです。この従業員満足度調査においても、リッカート尺度が多く利用されます。
従業員満足度調査について詳しい記事を読む
まとめ
以上が、リッカート尺度についての紹介となります。回答者の心理を細かく分類することに非常に適正のある尺度である反面、深く考えずに選択肢を設定してしまうと、前述したように実態とかけはなれた結果となる可能性があります。そうならないように、以下の3点に注意して、リッカート尺度の利用有無、選択肢の数や表現を決めていきましょう。
- 細分化して聴取する必要がある設問か(二者択一でも問題ないのではないか)
- 選択肢の表現が適切か(度合いの違いが分かりづらい表現がないか)
- 中立的尺度は必要か(YES/NOの判断がつきにくい設問なのか、どちらでもないという人がどのくらいいるのだろうか)
ネオマーケティングでは、課題と目的に応じて設問の設計からご対応させていただいております。
アンケート調査をご検討なさる際は、お気軽にご相談くださいませ。