マーケティングに携わっていると、しばしば「ブランディング」という言葉を耳にします。
ブランディングとマーケティングは互いに密接に関わり会っているものの、本来は異なる概念を表す言葉です。
両者を明確に区別しつつ、互いにどう関わり合っているのか把握できているでしょうか?
今回は、ブランディングとマーケティングの違いや相互の関係性についてわかりやすく解説します。
ブランディング・マーケティングによく活用されるフレームワークとあわせて押さえておきましょう。
ブランディングとは
はじめに、ブランディングの定義や目的、ブランディングを構成する3要素について解説します。
なぜブランディングが必要なのかを明確に理解しておくことが大切です。
ブランディングの定義
ブランディングとは、自社商品や企業そのものの価値やイメージを高めようとする戦略や施策、活動のことを指します。
ブランドと聞くと高級ブランド品などをイメージするかもしれませんが、ブランディングは必ずしも高級品に限った戦略や施策ではありません。
たとえば、飲み物のコーラと聞くと「コカコーラ」や「ペプシコーラ」といった具体的な商品名を連想する人が大勢いるように、
ある分野において特定の商品・サービスが想起されるケースは少なくありません。
「この商品なら間違いなさそうだ」「よく知っているし効果がありそうだ」といったイメージを形成することがブランディングと捉えてください。
ブランディングの主な目的
ブランディングの主な目的は、企業や商品の志・体験・評判によって記憶されるイメージを形成することにあります。
コーラが飲みたいと思った際に「コカコーラ」または「ペプシコーラ」を思い浮かべる人が多いように、
自社の商品を真っ先に連想してもらうことがブランディングに取り組む目的と考えてください。
顧客が「購入したい」「欲しい」と思ったとき、すでに頭の中には買い求める商品が具体的に浮かんでいるケースが少なくありません。
裏を返すと、この段階で候補に挙がっていない商品は選ばれない可能性が高いのです。
いかにして顧客の記憶に残し、最初に連想してもらえる商品/サービス・企業になるかがブランディングの本質といえるでしょう。
ブランディングの3要素
ブランディングは「マインド・アイデンティティ」「ビジュアル・アイデンティティ」
「ビヘイビア・アイデンティティ」の3つの要素から構成されています。各要素の主な目的は次の通りです。
・マインド・アイデンティティ(MI):企業の存在意義や理念を言語化して届けること
・ビジュアル・アイデンティティ(VI):ロゴやカラーなどの要素によって視覚化すること
・ビヘイビア・アイデンティティ(BI):理念を実践するために施策へと落とし込むこと
ブランディングを強化したいからといって、ブランドロゴやブランドカラーを形式的に決めたとしても、
MIに立脚していない・BIに結びついていないようならブランディング施策として有効とはいえません。
ブランディングの戦略や施策を策定する際には、3要素をバランスよく検討していく必要があります。
マーケティングとは
次に、マーケティングの定義や目的について解説します。
マーケティングの基本的なプロセスとあわせて確認しておきましょう。
マーケティングの定義
マーケティングとは、市場調査や広告宣伝、販売促進といった企業の諸活動やそれらの仕組み作りのことを指します。
リサーチやプロモーションといった一つひとつの活動を「点」で捉えるのではなく、
売るための仕組みを「線」で捉えた概念がマーケティングと考えてください。
「良い商品のはずなのに売れない」といった悩みを抱える事業者の方は少なくありません。
良い商品かどうかは顧客が商品の存在を認知し、実際に利用してみなければ判断できないのが実情です。
この「存在を知ってもらう」「手に取ってもらう」「購入してもらう」といったプロセスを実現するための仕組み作りがマーケティングといえるでしょう。
マーケティングの主な目的
ドラッガーの有名な言葉に「マーケティングの目的は営業を不要にすることである」というものがあります。
売れる仕組み作りができていれば、商品を提案する・売り込むといったことをしなくても売れ続けていくという意味です。
このように、売れる仕組みを作ることがマーケティングの主な目的といえます。
反対に、一時的・短期的に売るためだけの施策を講じることはマーケティングとはいえません。
どのようにして自社商品の認知を高め、興味を持ってもらうかがマーケティングの重要なポイントといえるでしょう。
マーケティングのプロセス
マーケティングの基本的なプロセスは次の通りです。
・1. 市場分析
現在の市場動向や競合他社の実態などを調査し、状況を把握します。
自社が戦うことになる「土俵」を明らかにするのが市場分析を実施する主な目的です。
・2. STP分析
市場を属性やニーズに応じて細分化(セグメンテーション)し、その中から自社商品を売るべき相手を見極め(ターゲティング)、
ターゲットにとっての自社の立ち位置を見極める(ポジショニング)の工程を経て、マーケティング戦略を策定します。
・3. マーケティングミックス
製品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・広告(Promotion)から構成される「4P」や、
顧客価値(Customer Value)・価格(Cost)・利便性(Convenience)・コミュニケーション(Communication)から構成される「4C」にもとづき、商品を売るための仕組みを構築します。
・4. 実行/フィードバック
策定したマーケティング施策に則って顧客へのアプローチを実行し、
その効果を測定することにより課題点や改善点を明らかにします。
PDCAサイクルを回して施策を改善していくことが重要です。
ブランディングとマーケティングの違い
ブランディングとマーケティングには、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
5つの観点から、両者の違いを整理していきましょう。
目的の違い
ブランディングに取り組む主な目的は、顧客との関係作りにあります。
顧客との良好な関係を築き、「この商品はこの企業のものを購入する」
といった信頼や好感を抱いてもらうことがブランディングのポイントです。
マーケティングの主な目的は、顧客の購買行動を喚起することにあります。
商品やサービスの存在を認知してもらい、興味を引き、
実際に購入するという行動を起こしてもらうことがマーケティングのポイントです。
追求する対象の違い
ブランディングが追求するのは、自社や自社商品の存在意義です。
顧客にとって、あるいは世の中にとって自社はどのような存在なのか、
商品・サービスにどのようなイメージを持たれているのかを検証し、
理想像へと近づけていくことがブランディングの主な目的といえます。
マーケティングが追求するのは、商品やサービスを売るための手段・方法論です。
実際にどうすれば商品・サービスを手に取ってもらえるのか、購入に至るのかを検討し、戦略を立てて実行していきます。
着眼点の違い
ブランディングが着目するのは、顧客の深層心理です。
ある分野の商品群について顧客がどのようなイメージを持っているのか、
自社の商品・サービスにどのような印象を持っているのか、といった点を重視します。
自社が狙うイメージと、顧客が実際に抱いているイメージを近づけていくための活動ともいえるでしょう。
マーケティングが着目するのは、顧客の潜在・顕在ニーズです。
顧客は自身の課題や悩み事に気づいている場合と、明確に気づいていないものの実は解決を望んでいる場合があります。
潜在ニーズをいかに顕在化させ、具体的な購買行動へとつなげるかがマーケティングの鍵を握っているのです。
プロセスの違い
ブランディングを成功させるには、「ファン層の形成」が重要なポイントとなります。
どの企業が提供する商品でもよいのではなく、「この企業の商品を買い続けたい」と考えるファンが増えることによって、
ブランド価値が向上していくからです。
一方、マーケティングを成功させるには顧客に商品への理解を促していくことが重要です。
商品の存在を知ってもらい、なぜ必要なのか気づいてもらうこと、
必要性を感じて実際に購入することがマーケティングに取り組む目的といえます。
期間の違い
ブランディング戦略は企業や商品の存在意義と深く関わっていることから、頻繁に変更されるものではありません。
むしろ、いかに普遍的な価値を提供し、その価値を広く知ってもらうかが鍵を握ります。
市場に供給する商品が変わったとしても、基本的なブランディング戦略が大きく変化するわけではありません。
これに対して、マーケティング施策は商品ごと・時期ごとに方針が変わる可能性があります。
同じ企業が販売する商品でも日用品と嗜好品では売り方が異なるように、「何をどのように売るのか」を考えるのがマーケティングだからです。
ブランディングとマーケティングの関係性
ブランディングとマーケティングはもともと異なる概念ですが、両者はまったく関係ないわけではありません。
むしろ、ブランディングとマーケティングは密接に関わり合っていることを押さえておくことが重要です。
両者の関係性について解説します。
究極的な目的は共通している
ブランディングもマーケティングも、生活者に価値を届けることを目指しているという点では共通しています。
アプローチの仕方こそ違うものの、どちらも究極的な目的は同じと捉えてよいでしょう。
裏を返せば、ブランディングを推進することによってマーケティングが進めやすくなり、
マーケティングに取り組む上でブランディングが必要になる、といった関係ともいえます。
ブランディングとマーケティングはそれぞれ独立した概念として捉えるのではなく、互いに密接な関わりがあることを念頭に置くことが大切です。
ブランディングによってマーケティングの効果が増幅される
ブランディングに取り組むことでマーケティングの効果が増幅されます。
たとえば、スマートフォンを買い替えたいと思ったとき、どのような機種名がまず頭に浮かぶでしょうか。
iPhoneやPixel、Xperiaなど連想される機種名は限られているはずです。
反対に、この段階で想起されなかった機種は購入の候補に挙がらない可能性が高いと考えられます。
多くの人が想起する機種は、ブランディングに成功しているといえます。
消費者が「スマートフォン」と聞いて真っ先に思い浮かべる候補に入っているからこそ、
売るための施策(マーケティング施策)が有効に機能し、売上へとつながっていくのです。
ブランディング:Why・マーケティング:How
ここまでの話をまとめると、ブランディングは企業や商品・サービスの存在意義や理念・哲学などに関わる「Why」の概念と言い表すことができます。
消費者や顧客にとってその企業・商品・サービスがどう捉えられているのか、何をイメージさせるのかがブランディングの目指すところといえるでしょう。
一方、マーケティングは具体的にモノやサービスを売るための手段・方法論を扱う「How」の概念といえます。
理念だけがあって売る仕組みが確立されていなければ、売上にはつながりません。
反対に、売る仕組みだけを充実させても意義や理念が浸透していなければ、他社との差別化を効果的に図ることはできないはずです。
このように、ブランディングとマーケティングは両輪の関係にあることから、両者をバランスよく考えていく必要があります。
ブランディング戦略の立案に活用されるフレームワーク
ブランディング戦略の立案によく活用されているフレームワークの例を紹介します。
イメージの形成や理念の浸透に役立つフレームワークは次の通りです。
3C分析
3C分析とは、Customer(顧客)・Competitor(競合)・Company(自社)の視点から市場環境を分析するためのフレームワークです。
・Customer(顧客):顧客ニーズ、消費行動、市場規模、市場の成長性など
・Competitor(競合):他社のシェア率、業界内のポジション、想定される消費者行動など
・Company(自社):自社の強み、理念・ビジョン、商品の強み、自社のリソースなど
これらの3要素を分析することにより、自社の課題や成功するための要因を導き出しやすくなります。
市場の中で自社がどのような立ち位置にあり、何がブランドとしての存在意義となるのかを見極める際に用いられる手法です。
PEST分析
PEST分析とは、Politics(政治的要因)・Economy(経済的要因)・Society(社会的要因)・Technology(技術的要因)の4要素から、
自社のブランディングにもたらされる外的要因を分析するためのフレームワークです。
たとえば、「高級感・ステータス感があり消費者の所有欲を満たせる」といったブランドイメージは、経済的要因によって良くも悪くもなり得る要素といえます。
あるいは、技術的な優位性は決して高くなくても、環境負荷に配慮して製造された製品であることが自社の強みになる場合もあるでしょう(社会的要因>技術的要因)。
PEST分析を通して、自社の独りよがりではない客観性の高いブランディング戦略の立案が可能となるのです。
SWOT分析
SWOT分析とは、自社の現状から成功するための要因や脅威となり得る要因を見つけるためのフレームワークです。
|
プラス要因 |
マイナス要因 |
内部環境 |
Strength(強み) →自社特有の長所・強み |
Weakness(弱み) →自社が克服すべき短所 |
外部環境 |
Opportunity(機会) →目標達成に資するチャンス |
Threat(脅威) →目標達成の障害となる事象 |
外部・内部環境のそれぞれについて、プラス要因・マイナス要因を漏れなく可視化しておくことにより、競争環境がより明確になります。
結果として、市場にインパクトを与え得るプラス要素を効果的に伸ばしていくことができるのです。
ポジショニングマップ
ポジショニングマップとは、自社のブランドイメージや商品の立ち位置を可視化し、客観的に把握するための2次元マップのことです。
自社がどのようなポジションでブランディング戦略を推進していくべきかを見極める上で重要なフレームワークといえます。
具体的には、「価格とサイズ」「機能性とデザイン性」のように、商品の価値を決定づける重要な要素を縦軸・横軸に取り、
自社ならびに競合他社の商品をプロットしていきます。市場において競合関係が熾烈な領域や、
まだ比較的空いている領域を見つけやすくなり、自社が戦っていくべきフィールドを見極めやすくなるでしょう。
マーケティング施策の立案に活用されるフレームワーク
次に、マーケティング領域でよく活用されているフレームワークを紹介します。
商品やサービスを売るための仕組み作りに役立つフレームワークは次の通りです。
AIDMA
AIDMAとは、消費者がある商品を認知し、購入するまでのプロセスを段階別に分析するための行動モデルです。
・Attention(注意):企業や商品の存在を認知する
・Interest(興味・関心):「知っている」から「興味がある」へと段階が上がる
・Desire(欲求):「興味がある」から「手に入れたい」「購入したい」へと段階が上がる
・Memory(記憶):機会があれば購入しようと思うようになる
・Action(行動):実際に購入する
各段階で講じるべき施策は異なります。
たとえば、商品を認知している消費者が少ない段階で詳細な機能や特徴をアピールしても、
そもそも知らない・興味がないと感じる人が大半でしょう。
一方、機会があれば購入したいと考えている見込み顧客に対しては、最後の段階として「背中を押す」ための施策が求められます。
AISAS
AISASとは、インターネットの利用者が増加したことに伴い、AIDMAに「検索」「共有」のプロセスを加えた行動モデルのことです。
・Attention(注意):企業や商品の存在を認知する
・Interest(興味・関心):「知っている」から「興味がある」へと段階が上がる
・Search(検索):商品についてインターネットで調べる・他社商品と比較する
・Action(行動):実際に購入する
・Share(共有):感想や評価を表明・共有する
消費者による感想や評価が一個人のものに留まらず、別の消費者の検索段階に影響を与えていく点が大きな特徴といえます。
商品そのものの売り方だけでなく、Webサイト上での見せ方や好意的な感想・評価を得るためのアフターフォローを含めた施策が求められるでしょう。
SIPS
SIPSとは、SNSの利用を前提とした消費者行動プロセスを表したモデルです。
・Sympathize(共感する):企業のストーリーや商品のコンセプトに共感する
・Identify(確認する):詳細な情報や評判を調べる
・Participate(参加する):ファンコミュニティなどに参加する
・Share & Spread(共有・拡散する):体験や感想をSNSに投稿する
AIDMAやAISASとは異なり、当事者が実際に商品を購入するかどうかは重視しておらず、コミュニティへの「参加」に重きを置いている点が大きな特徴です。
購入に至らないSNSユーザーであっても、商品の販売に間接的な影響を与え得ることを強く意識した行動モデルといえるでしょう。
バリューチェーン分析
バリューチェーン分析とは、原材料の調達から顧客の手元に商品が届くまでの活動を一連の価値として捉える分析手法です。
企業活動を購買物流・製造・出荷物流・マーケティング/販売・サービスといった「主活動」と、
原材料調達・技術開発・労務管理などの管理業務からなる「支援活動」の2つに分け、
一連の流れが自社にとって価値を生み出す活動となることを目指します。
主活動と支援活動の全体像を捉えることにより、
どのプロセスで多くの付加価値が創出されているか・費用対効果が思わしくないプロセスはどこであるかが可視化されます。
こうした分析を通して、自社の強みが発揮できるプロセスやコスト削減が必要なプロセスを明らかにしていくのです。
まとめ
商品や企業の価値・イメージを向上させるための「ブランディング」と、売るための仕組み作りにあたる「マーケティング」は、それぞれ異なる概念です。
一方で、ブランディングとマーケティングは相互に密接な関わりがあり、補完し合っていくことで各戦略の強化につながります。
今回解説したポイントや紹介したフレームワークを参考に、ぜひ効果的なブランディング戦略ならびにマーケティング施策を講じてください。
※このコラムは「マーケのカチスジ」で2023年12月4日に公開された記事を移行したものです。