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デザインは装飾ではない

ライター:与安 紀之

公開日:2023年06月20日 | 更新日:2024年10月24日

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ブランドのロゴや広告、商品パッケージやウェブサイトのメインビジュアルなど、ブランディングやマーケティングにおいて、「デザイン」の力はとても重要です。

しかし、少なくない人が「デザイン」のことを誤解しているように思います。「かっこいいもの」「おしゃれなもの」=デザインだと思っていないでしょうか? もちろん、「かっこいいデザイン」「おしゃれなデザイン」はあります。しかし、デザインは決して、それだけではありません。目に見える部分だけが、デザインではないのです。

本コラムでは、「デザイン」とは何かについて改めて考えていきたいと思います。

「デザイン家電」は間違い!?

バルミューダのトースターやブルーノのホットプレート、プラスマイナスゼロ(±0)のコードレスクリーナーなど、インテリアにマッチするスタイリッシュな家電が人気を集めています。

こうしたおしゃれな家電のことを「デザイン家電」と呼ぶようですが、この言い方には違和感があります。グラフィックデザイナーの佐藤卓さんも、著書『塑する思考』(新潮社)の中でこう指摘しています。

 

『中には、「デザイン家電」などと、なかばデザインを小バカにしたような間違った言い回しが、つい最近まで蔓延っていました。』


佐藤さんは端的でニュートラルなデザインを特徴とするデザイナーで、代表的な作品に「明治おいしい牛乳」のパッケージデザインやエスビー食品のスパイス&ハーブシリーズのボトルデザインなどがあります。
そんな日本を代表するデザイナーが、「デザイン家電」という言葉に異を唱えているわけです。
そもそもすべての家電製品は、それぞれに必要なデザインが施されています。それを、あたかも特定の商品のみがデザインされているかのように、「デザイン家電」と呼ぶのは間違っていると指摘しているのです。
「もの」が「もの」として存在している段階で、すべてデザインが施されています。決して、意匠に凝っていること、おしゃれであること、かっこいいことが、「デザイン」ではないのです。こうした世の中の認識に対して、デザインを生業とする人々はどうしても違和感を抱いてしまうのです。

デザインの定義

かっこいいとかおしゃれだから「デザイン」されているわけではなくて、「『もの』が『もの』として存在している段階で、すべてデザインが施されている」ーー。

そういわれても、禅問答のようでなんだかよくわからない、と思う方が多いでしょう。デザインの定義について、もう少し考えていきましょう。
「Gマーク」でおなじみのグッドデザイン賞を主宰する日本デザイン振興会(JDP)はデザインを次のように定義しています。

 

「常にヒトを中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化する。」この一連のプロセスが我々の考えるデザインであり、その結果、実現化されたものを我々は「ひとつのデザイン解」と考えます。

(引用:JDP公式サイトより

 

この説明も少し、難しいかもしれません。

わかりやすく、ハサミを例に説明しましょう。ハサミは紙などを切る道具ですが、現在では種類も豊富です。

左利き用のものがあったり、グリップが大きくて疲れにくいものがあったり、軽く握るだけで切れるハサミもあります。

こうしたハサミは、何かしら困っている「ヒト」がいて、快適にものを切れるようにという「目的」を達成するために「実現化」されたのだと考えられます。

「ものを切りたい」という目的を達成するために生まれたハサミはそもそもデザインされているものです。そこからさらに、

 

  • 左利きの「ヒト」が使いやすいハサミはどういう構造なのか?
  • ハサミをよく使う「ヒト」が、疲れないようにするにはどんな工夫ができるのか?
  • 握力の弱い「ヒト」でもハサミを使えるようにするにはどうしたらいいのか?

 

「ヒト」を中心にものを切るという「目的」を達成するために考え、「実現化」したハサミはデザインされたものといえます。これがデザインの本質です。単純なその見た目の良し悪し=がデザインではない、ということをご理解いただけたでしょうか?

デザインは整理整頓

ポスターや広告といったグラフィックデザインについても、基本的にデザインの定義は変わりません。「常にヒトを中心に考え、目的を見出し、その目的を達成する計画を行い実現化する。」のがデザインです。
ただ、ハサミのようなプロダクトデザインと比べると、グラフィックデザインはもの自体がないため、イメージしにくいかもしれません。よりわかりやすくするならば、平面のグラフィックについては、「デザイン=整理整頓」と考えてみてはいかがでしょうか。
たとえば、伝えたいことがたくさんあるからと、メッセージをすべてタイポグラフィにしたポスターを制作したとします。駅前の雑踏の中、立ち止まってたくさんの文字がぎっしり並んでいるポスターをじっくり読む人はどれだけいるでしょうか。

街角で人々がポスターに目をやる時間など一瞬です。長くても5秒程度。その間に商品やサービスのイメージを訴求するという「目的」を達成するためには、整理整頓が必要です。

 

  • どんな「ヒト」に伝えたいのか? 
  • 伝える「目的」は何なのか? 
  • どんな表現をするとその目的を達成できるのか? 


メインとなるメッセージを決めて、それをシンプルにもっとも伝わりやすいよう表現していく、こうした整理整頓の過程そのものがデザインです。
お金を出して広告を展開するときやウェブサイトを立ち上げるときなど、あれもこれもと、いろいろ詰め込んでしまうことがよくあります。その気持ちはわかりますが、盛り込みすぎて誰にも伝わらないものになったら本末転倒です。
極端なことをいってしまうと、伝えたいことは何か、一言二言に集約するまで整理整頓ができると、いいデザインになります。


一方で、「誰に」「何を」いちばん伝えたいのかが曖昧なまま、なんとなくの雰囲気で、おしゃれっぽいポスターを作ったとしても、「何を伝えたいのかわからない」「一体、なんのポスターなのかわからない」ということになってしまいます。これでは、デザインとして成功しているとはいえません。
ターゲットは誰なのか? 何を伝えたいのか? このビジュアルを展開する目的は何なのか? 優先順位を明確にして考えていきます。それはビジュアルだけではありません。コピーも同様です。どういう文章、どういう言葉使いなら、ターゲットに刺さるのか?を考え抜きます。
表層に現れたものの裏には考え抜かれたロジックがあります。それがデザインをする、ということです。「デザイン=整理整頓」という意味がご理解いただけたでしょうか?

誰もがデザインをしている

「デザイン=整理整頓」という定義に則れば、誰かに何かを伝えるため、考えて工夫して、整えているものはすべて、デザインされているものになります。

 

  • パワーポイントで絵素材も添えながらわかりやすく作った営業用の資料。
  • A4用紙1枚に、議題を端的にまとめた会議のレジメ。


これらも立派なデザインです。みなさんも、普段から当たり前のようにデザインをしているのです。デザインを特別視する必要はまったくありません。
使う写真やイラスト、文字のフォントやサイズ、スペースの取り方、線の質感や全体の色味などなど、表現によって伝わるニュアンスが変わります。ただ、それもコンセプトから誰に何を伝えたいのかを踏まえ、考えたうえで選ばれた表現手段であり、“デザインの一部”です。目的があって、整理整頓をした結果として、その表現があるわけです。


マーケターの立場で、ウェブサイトのLPやメインビジュアルなど、デザインに対してジャッジする機会もあるでしょう。そんなとき、見た目の印象も大切ではありますが、「整理整頓がうまくできているか?」という点で判断してみてください。誰に向けて、何の目的で実現されるものなのか? その視点をもつだけで、見え方はずいぶんと変わってくるはずです。

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与安 紀之
WRITER
与安 紀之
クリエイティブ・デザイン業界歴15年超。 多摩美術大学情報デザイン学科卒業後、グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタート。 広告代理店、制作会社を経て、現在に至る。 主に、広告クリエイティブのデザイン・撮影のディレクションなどを担当。ブランディングにおけるビジュアル構築に関わる。

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