広告・プロモーション担当者にとって、生活者へのアンケート調査やリサーチを行うのは「リサーチPR」を作成するときくらいかもしれません。しかし、それだけではもったいない! 本コラムでは、リサーチをクリエイティブに活かす方法とそのメリットについて、事例とともに解説します。
広告・プロモーション担当者にとってのリサーチ
自社の商品やサービスに関連した生活者の関心事についてアンケート調査を行い、その結果を一般的なニュースとしてリリースする「リサーチPR」。広告戦略の一つとして、実施している企業も多いでしょう。
世間では何が主流になっているのか、みんながどんな価値観をもっているのか、“世の中事”として報じることで、広く関心を集めることができます。また、客観的なデータは信頼性・中立性が高く、ストレートなプレスリリースよりもメディアに取り上げられやすいというメリットもあります。
生活者を対象としたリサーチをもとに、リサーチPRは作成されます。広告・プロモーション担当者にとって、リサーチといえばこのリサーチPRのものという印象が強いかもしれません。しかし、リサーチはCMや広告など、クリエイティブの制作にも活用できるのです。
30代女性の心をつかんだ車内ステッカー の事例
では、具体的な事例で見ていきましょう。
<資生堂ニュースリリースより>
これは2012年に資生堂のスキンケアブランド「エリクシール」美容乳液のプロモーションで使用された車内ステッカーです。他にいくつかのバージョンがあり、その中にはこんなキャッチコピーのものもありました。
36歳の私が
夕方40.4歳に
なっていたなんて
おそらく、商品のターゲットである30代女性を対象に、「1日が終わって、夕方には何歳ぐらい老けたように思いますか?」といった調査をしたのでしょう。その結果が4.4歳だった。それをストレートにコピーで表現しています。
朝、しっかりメイクをしても、夕方になると肌のコンディションはどうしても落ちてしまう。1日中、キレイをキープしたいのに、それがなかなか難しい…というターゲット層の悩みを、具体的な年齢で示したのです。
もちろん、数字を出さずとも、「夕方になると、顔に疲れがでませんか?」「夕方の肌に自信がもてますか?」といったコピーでも、30代女性のインサイトに寄り添うことはできます。
しかし、「36歳が40歳に」と具体的な数字で表現することで、共感も危機感もより強いものになっています。しかも、それが通勤で使う電車内のステッカーで掲げられ、帰路に見た人は「今の自分のことだ」と刺さる。シチュエーションも含め、考えぬかれた広告展開だといえます。
低い認知度を逆手にとった自虐プロモーション の事例
続いては、兵庫県にある複合レジャー施設「姫路セントラルパーク」の広告です。「日本一心の距離が遠い」をメインキャッチコピーにしたプロモーションを、CMやウェブサイトなどで展開しています。
<姫路セントラルパークHPより>
姫路セントラルパークの広告の特徴は徹底した「自虐」です。
西日本最大のプールは、32年営業しているのに、関西人の90%近くに存在を知られていなかった。
年間50万人の来場はあるけれど、「人がいない」と思われている。
こうしたネガティブな情報を数字を用いて訴え、さらには「甲子園球場48個分の広さを誇る姫路セントラルパークならではの『錯覚』」だと、ふざけたりもしている。
最初から広告制作のためにリサーチを行なったのか、それともマーケティングの一貫で行なった認知度調査を広告に活用したのか、その経緯はわかりません。
いずれにせよ、「認知率10%」という厳しい現実を最大の特徴としてPRに用いたわけです。楽しさ、面白さを提供するアミューズメント施設ということもあり、こうした自虐も遊び心として好意的に受け入れられました。
見た人は、クスッと笑いながら「姫センって知らなかったけど、一体、どんなところなんだろう?」と気になります。広告としての目的は十分に完遂。さらに、自虐とこのおふざけ感は話題になり、メディアに取り上げられ注目を集めることにもつながりました。プロモーションとしては、大成功といえるでしょう。
リサーチの調査結果を公表する、PRや広報に活用する。そんなとき、企業としては誇らしいデータを使いたいものです。また、そうでなければいけないと考えているかもしれません。しかし決して、そんなことはありません。
「これだけ知られていないものを、あなたは知っていますか?」という呼びかけに使えますし、姫路セントラルパークのように逆手にとることだってできる。
どんなリサーチでも、目的や意図から結果を想定し、そこから逆算して調査を実施します。ただし、その結果が必ずしも想定通りかどうかはわかりません。それも、リサーチの面白さ。一見、悪い結果でも、それもまた人の気持ちを引きつけるポイントになりうるのです。
「事実」は強い
リサーチをクリエイティブに活用する最大のメリットは、客観的なデータに裏付けられた「事実」を提示できることにあります。
「○%の人に支持されている」「Aの意見よりBの意見を支持する人が○ポイント多い」「利用者は1年間で○割増加した」――。
データというエビデンスのある事実には説得力があります。事実はやはり強いのです。
SNSなどを通じ、誰もが情報を発信できる時代になっています。溢れる情報の中で、真偽や出どころのわからない情報も少なくありません。流れてくる情報が果たして正しいのかどうか、判断できないこともある。だからこそ、明らかな事実は力を持ちます。イメージだけで世界観を伝えるクリエイティブもありますが、ファクトへの要望が社会的に増すなか、リサーチの活用は今後、一般的になるのではないでしょうか。
リサーチの可能性
リサーチが活かせるのは、広告やCMだけではありません。たとえば、自社サイトに「○%の人が選んでいる」「○割の人が***と考えている」とエビデンスのあるデータを添える。また、Web動画の冒頭や最後に「○人中○人が***」といったワンシーンを差し込む。こうした、ちょっとした工夫によって、興味を引き、納得感を高めることができます。
広告・プロモーションに重要なのは、関心を抱いてもらい共感を得ることです。そのための方法はいくつかあり、代表的なのはタレントやインフルエンサー、専門家や大学教授などが解説する、といったものでしょう。リサーチはその代替として使うことができます。しかも、リサーチは著名な人を起用するよりも、費用的にリーズナブルに行えます。
クリエイティブを制作するコピーライターやクリエイターは、自分の過去の経験や感覚、センスを集約して制作を行います。どうしても、自分の中から生まれるもので表現したい。そこにクリエイターとしての力量が現れますから、こだわりたいと思うのも当然のパッションです。
しかし、だからこそ、リサーチをクリエイティブに活用していこうという発想になりにくいのかもしれません。まずは、広告・プロモーション担当者にリサーチの面白さと可能性を知ってもらいたいと考えています。
リサーチは生活者の興味・関心を引くコンテンツとしてさまざまに有効活用できます。ネオマーケティングはリサーチの実施から結果の分析、そして、各種クリエイティブへのアウトプットまでソリューションしています。広告・プロモーションの施策にリサーチを取り入れていきませんか?