行動観察調査とは?事例紹介|メリットや失敗しないために大切なこと
ライター:株式会社ネオマーケティング
公開日:2019年03月04日
| 更新日:2024年10月22日
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マーケティングリサーチ
ここ4~5年ほど前から、「デザイン思考」などの新しい概念から注目をされるようになっているリサーチ手法に「行動観察調査」があります。マーケティングリサーチとしては以前からある手法ですが、なぜ今になって注目を集めているのでしょうか?そもそも行動観察調査とは何で、他の調査手法と比較しどのようなメリットがあるのでしょうか?
今回は、行動観察調査を用いて企業の商品開発に深く関わってきた弊社のリサーチャーが、行動観察調査が注目されるようになった背景にふれながら、期待できる成果やメリットに関して事例を交えながら説明します。
行動観察調査とは
あらためて行動観察調査について簡単に説明をすると、調査対象者の自宅に訪問してその行動を観察し、話を聞きながら、対象者と同じ環境に一定期間身を置く手法のことをいいます。街にぶらりと出かけ、人の行動を観察するような手軽にできるものも行動観察調査の範囲であり、その定義は幅広くとらえられています。
世の中は成熟し、豊かといえる反面モノ余りの時代と呼ばれるようになりました。類似商品が数多く市場に並び、それは生活者が違いを見出せないほどいずれも品質がよく、選んで買う理由が希薄になってきている時代といえます。企業側は機能での違いを出すのが難しくなると、今度は情緒で違いを出すことに活路を見出し、パッケージの見せ方などに注目が集まりました。しかし、そういったマーケティング活動も本筋ではないことから、生活者の目が肥えてくると、それだけで成長を描くには限界があります。
リサーチに話を戻します。
これまで定性調査といえはグループインタビューやデプスインタビューといった手法が代表的でしたが、インタビュー調査を数多く実施してきている企業の中には、これらのインタビュー結果から期待できるインプットが想定の範囲を超えないようになってきています。すなわちグループインタビューやデプスインタビューも、コモディティ化したサービスになってきているといえます(特にグループインタビューはコモディティ化してきている印象を受けます)。
このような調査トレンドも手伝ってか、最近では行動観察調査が注目されるようになってきているわけです。
なぜ行動観察調査なのか?
このように注目を集めていますが、なぜ行動観察調査なのか?
あらためてこの問いから考えることが出発地点として大切なことだと思います。比較材料としてグループインタビューやデプスインタビューの特徴を述べると、対象者本人が自覚していることを言語化し、それを分析のメイン対象とします。この“対象者が自覚していること”が、インタビュー調査のポイントです。
行動観察調査はその名のとおり、言葉だけではなく動作やその環境を実際に観察することです。つまり言葉だけではなく、人の行動がもつ情報を得ることができます。人はひとつひとつの動作を考えて行っているわけではなく、無意識な状態で行動していることが多々あります。行動を観察し、言葉ではない情報から新たな気づきを得ることが、行動観察調査のポイントです。
具体的に私が考える行動観察調査のメリットを3つ記載します。
メリット①:思いがけない発見にあいやすい
既に社会に存在している商品やサービスに関するものであれば、実際に普段使用する様子を観察することが可能です。この情報は言葉よりもとても意義があります。特にその対象となる商品やサービスを使用している行動だけではなく、その前後の少しの時間をどうしているのか?また、その時の周囲の状況は何があるのか?このような点が発見に非常につながりやすいのです。
以前、ある家庭で台所での調理を観察した時のことです。その家庭の女性は友人を呼んで料理をふるまうのが好きで、調理に対する想いが強い方でした。
しかし、調理部分よりも後片付けに思わぬ行動をみることができました。この方は片付けの最後に熱湯を沸かし、消毒のためにそのまま熱湯をシンクやまな板にかけたのです。しかもこの作業を3回繰り返していました。
これは、今ここに書いている言葉だけでは伝えにくいのですが、この方の菌に対する恐れを強く印象づけたものでした。調理にフォーカスしていたら、おそらくこのような実態にたどり着くことはできなかったと思います。この女性のこのような行動は食品やキッチンのあり方、キッチン用具にいたるまでヒントを与えてくれます。
メリット②:話をする環境の違いは回答内容にも影響がある
通常のインタビューはリサーチ会社併設のインタビュールーム(あるいは専用インタビュールーム)で行うことが一般的です。
しかし行動観察調査は訪問先で行います。あくまでも経験的なものにすぎませんが、普段の生活環境に身をおいた状態とマジックミラーがついているインタビュールームでは、対象者の頭の中の状態が違うと感じます。自宅での対象者はリラックスしていて、普段の飾らない言葉や態度が期待できます。そもそも自宅内を見られている状態ですから、飾る意識は最初からずいぶんと抑えられているものと思われます。例えば、冷蔵庫の中はとても生活感があふれている場所です。冷蔵庫を見ながら話を聞いていくと「素の状態」があらわれていると感じることができます。
メリット③:同じ空間に身をおくことで対象者に共感しやすい
経験上の学びとして、私はこれが最も重要な行動観察調査とインタビューとの違いだと考えています。
いくら言葉を聞いても、また写真などの画像を見ても、その空気感はわかりません。
例えば友人・知人の家を訪問した時、玄関口でその家庭への最初の印象などを抱くことはないでしょうか。また、置いてあるモノの配置や壁に掛けられている(貼られている)家族の写真やカレンダーなどは、その空気と一緒に体験することで、その家庭ならではの独自の生活を感じることができます。
先ほど紹介した女性の自宅のキッチンはきれいに整理されていましたが、調理スペースのすぐ上の目立つ場所に小さな棚をわざわざひっかけて、レトルトカレーを数種類おいていました。
これは夫が1人で自宅にいてお腹をすかせたときに、わかるようにしているとのことでした。冷蔵庫の上段も夫専用の棚になっており、夫への配慮と共にキッチンや冷蔵庫を夫から荒らされるのが嫌なのだと感じることができます。それはきれいに整理されたキッチンに自ら立ってみることで、このように感じることができるのです。
デメリット:事実を引き起こす背景や理由に関するデータは得られない
行動観察調査のメリットを3つ挙げましたが、デメリットについてもふれておきたいと思います。それは事実情報を確実に得られる反面、その事実を引き起こした理由や背景に関しては、調査担当者の解釈に依存するという点です。
前述の女性宅のキッチンの例で述べると、冷蔵庫の上段が夫専用の棚になっていた背景として、私は「冷蔵庫をきれいに保っておくため(夫に荒らされたくないため)」と解釈しました。しかし、これはあくまでも私自身が感じたことであり、他の訪問スタッフが同じように感じたとは限りません。もちろん質問して行動の意図を本人に確認することはできますが、全ての行動について逐一尋ねるのは行動の妨げになりますし、本人も無意識のうちに行動に至っている場合も往々にして存在します。
そのため、なぜそのような事実に至ったのかは調査担当者の解釈に委ねられる部分が多く、解釈次第でデータの価値が変わってしまう恐れもあります。思い込みには注意が必要です。しかしながら受け止め方・感じ方は様々でよく、むしろその違いを後で話し合うことで、さらにその人物像がみえてきます。ですから訪問観察は1名ではなく、複数名で訪問することを推奨します。
行動観察調査を行うための心構えとは
デメリットで述べたような、担当者の解釈が確かな正解であると捉えないようにするためにも、行動観察調査に必要な心構えについてお伝えします。
■先入観・固定観念を捨て、俯瞰して物事を捉える
人にはそれぞれ価値観があり、物事の良し悪しを判断するための自分なりの基準を持っています。自分と全く同じ価値観を持った人とは滅多に出会えないことでしょう。行動観察調査においてはそうした先入観・固定観念を排除しなければ、調査対象者の本心に迫ることができません。相手を受容し、どうしてそのような行動をとったのか、相手の思考を探りながら俯瞰して観察しましょう。
これは行動観察調査のみならずインタビューなどその他の調査でも、調査対象者と相対する場合には同様の意識で臨む必要があります。自身の価値観に基づいて行動の理由を尋ねてしまうと、調査対象者としては自分の行動が間違っていたのかと不安になったり、自信がなくなって本音を出してくれなくなったりします。あくまでフラットな目線で調査対象者の行動を捉える姿勢が求められます。
■仮説をあらかじめ立てておく
調査対象者が普段しているであろう行動や、抱えているであろう課題といった「仮説」については、事前にクライアントとすり合わせておきましょう。クライアント側にしか想像し得ない悩みが存在しているかもしれません。行動に対し一定の基準を設定しておくことにより、観察時の目線合わせができ、深く追求すべき事柄を明確化できます。
もしも調査対象者が仮説通りの行動をしなかった場合には、重要な要素をこれまで見逃していた可能性があります。この場合の聞き取りは、仮説との乖離の大きかった行動を中心に行いましょう。
■目的・行動・結果の3要素を掴む意識を持つ
たとえ無意識であったとしても、人の行動には必ず目的が存在しているものです。さらに行動に至った後に、結果としてどうなりたいのかが隠れています。行動観察調査ではこの「目的」、「行動」、「結果」の3要素を意識して取り組みましょう。
前述の女性の場合、「冷蔵庫の上段を夫専用の棚にした」という行動から、おそらく「冷蔵庫をきれいに保つ」という目的があることが推察されました。その結果として「夫に冷蔵庫を荒らされずに済み、自分がイライラしない生活が送れる」ことを目指していたのかもしれません。
しかしこれが別の女性が同じ行動をとっていたとした場合、状況判断から「毎日飲むためのビールを常に確保しておいてほしいと夫から頼まれている」ことが目的と判断できるかもしれません。その結果として得たいのは単純に「夫の満足」である可能性もあります。
すると、同じ行動パターンでも、調査対象者によって目指したい結果は異なることがわかります。そのため観察する際には、対象者に合わせてこの3要素が変わることを押さえておきましょう。
まとめ
このように行動観察調査のメリットについて説明をしてきましたが、言葉だけに頼らず、観察により人を理解することの重要性が注目されている理由だと考えられます。
また、行動だけでもなく、環境だけでもなく、それぞれのつながりを意識することが重要です。インタビューでも同様のことは言えると思いますが、物事を点でとらえず全体を俯瞰してみることが結果として、人の理解に役立つことといえるでしょう。
■執筆者紹介
マーケティングソリューションディビジョン リサーチャー K.N氏
調査歴20年。日用品・食品メーカーから金融サービスまで幅広くリサーチ業務に携わる。近年はリサーチを活用した企業の商品開発の支援を行っており、リサーチの効果的な活用法を提案している。
【参考】サービスメニュー『訪問調査』の詳細はコチラ
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