マーケティングとは
マーケティングの定義
マーケティングはどのように定義できるでしょうか?よく聞くのは、マーケティングとはテレビCMなどの広告のこと、広報やPRのこと、ブランディングのことだ、という定義です。
しかし、それらはマーケティングが担う一部の領域にすぎません。
例えばマーケティングの大家、フィリップ・コトラーは「マーケティングは顧客を理解し、その顧客のニーズを満たす商品、サービスを提供すること」と定義しています。
また、日本マーケティング協会では、「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。」と定義しています。
このように、マーケティングとは、広告やPRよりも広い領域を担う活動であることがわかるかと思います。
マーケティングとは、商品が自然に売れ続ける仕組みを作ることです。そして、商品が自然に売れ続ける状態を作るために、消費者に選ばれる必然を作ることがマーケターの仕事です。
「営業(セールス)」との違いについても紹介しておくと、営業は「商品を売ること」、そのための活動です。一方でマーケティングは「商品が売れるようにすること」を目的にした活動です。マーケティングがしっかりと機能すれば、営業が商品を売りやすくなる状態を作ることができます。
ビジネスへの影響とマーケティング戦略の重要性
会社にはビジョンやミッションといった大きな目的があります。そして、それを実現するための全社戦略、事業戦略があり、それらを数値的な指標に落とし込んだ、達成しなければならない日々のビジネス目標があります。
手元にあるリソース(ヒト、モノ、カネ)を使って、いかにビジネス目標を達成するか、私たちは日々頭を悩ませるわけですが、ここで大きな問題があります。
それは、リソースが常に不足しているということです。
日々の業務でご経験があるかと思いますが、目標に対して十分なリソースが与えられていることはほぼありません。たとえ一時的にリソースが増えたとしても、その分求められる目標も上がるのが企業の常です。結局、カバーしなければならない領域が増え、リソース不足の状態に戻ってしまいます。
ビジネス目標を達成するためには、限られたリソースをどこに投下するか、戦略が求められます。
マーケティング戦略では、ビジネス目標の達成を目指すために、限られたリソースをどのように投下すれば売れる仕組みを作れるかを考えます。
成功事例から学ぶインスピレーション
マーケティングは仮説を作り検証する試行錯誤の連続です。型となるマーケティングの考え方はあるものの、実際の現場においては情報を集めて分析し、仮説を立て、施策を実行し、検証していくしかありません。
とはいえ、実際に成功を収めたマーケティングの戦略、施策の事例が参考になります。過去に実績を残してきたマーケターが、おかれた環境でどのように課題と向き合い、マーケティングに取り組んできたかということからも、あなたがマーケティングに取り組むうえで得られるものがあるかと思います。
マーケティングの成功事例と担当者へのインタビュー
現場で活躍しているマーケターへのインタビュー
マーケティングプロセス
ここからはマーケティングのプロセスを、シンプルに紹介していきます。
一言でいうと、マーケティングプロセスでは、誰に(Who)どのような価値を(What)どうやって届けるか(How)を決めていきます。
マーケット理解
まずは自社を取り巻くマーケットについて、情報を集め、理解を深める必要があります。精度の高い戦略を立て意思決定を行うためにも、このマーケット理解は欠かせません。
マーケット理解は、政治(法律改正、規制など)、経済(市場構造、消費傾向)、人口動態(年代、性別)、技術などのマクロの環境分析も含みますが、これらは頻繁に変化するものではありません。
マーケット理解でメインとなるのは、自社(Company)・消費者(Consumer)・競合(Competitor)の3Cと呼ばれる対象です。その中でも特に消費者理解の程度によって、マーケティングの成果は大きく変わります。
ターゲットの選定(Who)
先に述べたように、投下できる予算やリソースは有限です。市場のすべての消費者を相手にビジネスを行っていては、リソースはすぐに尽きてしまい、十分な成果を上げることはできません。目的を達成するために、ターゲットとする消費者は絞る必要があります。
ターゲットを絞るのには加えて2つの理由があります。
1つは、通常、すべての消費者が同じ量や頻度で商品を購入しているというわけではなく、どこかの消費者は多く購入していたり、少なく購入しているという状態にあります。つまり、顧客となりえる対象には偏りがあるので、ターゲットを絞ることで、リソースをより有効に活用することができます。
もう1つの理由は、消費者のニーズは多様化していて、全員を満足させることはできないということです。よく言われていることですが、基本的なニーズがすでに満たされモノであふれた社会において、消費者が求める価値は多様化します。できるだけ多くの消費者の需要を満たそうとした結果、誰のニーズからも少しずれてしまう中途半端な商品になってしまうのです。
ターゲット消費者の理解
ターゲットとする消費者を絞った後は、その消費者を量的にも質的にも理解する必要があります。ここでいう量的とは、数値データを通して全体としての大きな傾向をつかむことです。質的とは、ターゲットとする消費者一人ひとりの深層心理を理解することです。
量的な理解では、ターゲット消費者の年齢・収入などのデモグラフィックな情報に加え、商品・サービスの認知度、購入頻度、情報収集経路やブランドイメージなどの情報を把握します。
特に重要なのは質的な理解で、「インサイト」を理解することがゴールになります。インサイトとは、消費者自身も意識していない・気が付いていない意識/行動・動機全般のことを指します。この消費者のインサイトをとらえた商品や施策が、消費者の頭にブランドをつよく印象付け、大きく心を動かすことができます。
インサイトについては奥が深いため、以下の内容も参考にしてください。
・インサイトとは
・ビジネスにおけるインサイトの意味・重要性と効果的な創り方とは?
・インサイトと潜在意識・無意識の関係
・よいクリエイティブにはインサイトがある。
提供価値の定義/ブランド戦略(What)
消費者にとってどのような価値(What)を提供するかを決めるフェーズです。ターゲット消費者の理解を通して得た、消費者が本当に欲しているものを満たすように、提供価値を決めます。
ここで選んだ提供価値は、消費者がそのブランドを選ぶ強い理由になります。ブランドの提供価値が消費者に浸透すると、最終的にはその提供価値からブランドが想起される状態になります。
例えば、「吸引力が変わらない掃除機」というブランドメッセージが有名なダイソンは、その価値が浸透した結果、「吸引力=ダイソン」というように消費者は想起するようになります。
また「吸引力」が掃除機を購入する際に消費者が重視する価値であれば、掃除機というカテゴリにおいては、ダイソンは消費者に想起されやすい強いブランドになります。
このように消費者が購入時に想起するブランド群のことをエボークトセットと呼びます。ブランド戦略はこのエボークトセットにいかに入るか、ということを目指して行っていくため、消費者への提供価値が密接に関わってきます。
※エボークトセットについては、以降の章で改めて解説致します。
マーケティングミックスと実行(How)
消費者に価値(What)を届けるフェーズです。Whatまでの工程がどんなに良くても、最終的に適切な形で消費者に届けられなければすべてが無駄になってしまいます。このHowが弱ければ、どんなに立派なWhatも意味がないのです。
Howの領域は非常に多岐にわたります。ブランドと消費の接点のほとんどすべてがHowであると言ってよいかもしれません。商品そのもの、商品のパッケージ、価格、流通、広告、SNSなどもこのHowの領域に該当します。
マーケティングのプロセスにおいては下流に位置しますが、各領域で非常に高い専門性が求められ、作業量も多いフェーズです。
マーケティングのフレームワークについて
マーケティング戦略を考えるうえで、特に重要なフレームワークを2つ紹介します。
STP
STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)はマーケティングプロセスの中で、ターゲットの選定(Who)と価値提供の定義(What)を行うために実施します。
セグメンテーション
セグメンテーションとは、市場をいくつかのセグメントに分解することです。
繰り返しになりますが、マーケティングで投下できるリソースには限りがあります。市場全体から自社が勝てる特定市場を選択するために、まずは市場を同質と思われるいくつかのセグメントに分解します。
同質と思われるセグメントに分解する理由は、同質でないとマーケティングミックス(How)の焦点がセグメント内で分散し、効率的に機能しないためです。
ターゲティング
セグメントした中から、実際にマーケティング予算を投下するターゲットを選びます。
選択したターゲットには中長期的なコミュニケーションを通して、ブランドを認識してもらえるよう働きかけるため、一度選んだターゲットは通常頻繁に変えることはありません。
そのため、ターゲットの条件は狭くしすぎないことが重要です。ターゲットを絞りすぎてしまうと、確かにHowは効率的に機能しやすくなりますが、そもそもの市場規模がビジネス目標を達成するのに不十分である可能性があります。
市場規模はターゲット条件から推計することが可能なので、選んだターゲットが十分な市場規模を有しているか、確認しておくのがよいでしょう。
・ネットリサーチを活用した市場規模推計のすすめ
・市場規模とは?調べ方・推計する方法・活用の仕方をわかりやすく解説
ポジショニング
ポジショニングとは、消費者の頭の中にある自社と競合との相対的な位置づけのことです。
消費者の頭の中で、選ばれる理由となる要素に近いポジションをとれている商品サービスが、購入されやすいブランドとなります。
競合との違いを理解してもらうためにも、自社の商品サービスの「強み」を訴求していきますが、この時の「強み」は、消費者の頭の中で選ばれる理由となる要素に合致している必要があります。セグメンテーションとターゲティングを行いターゲット消費者の理解を深めた後に、自社の商品サービスが提供すべき価値は明らかになるため、一般的にはセグメンテーション→ターゲティング→ポジショニングの順で実施することが多いです。
4P(Product、Price、Place、Promotion)について
「4P」とはどのように消費者の価値(What)を届けるか、Howを具体化するためのフレームワークで、マーケティングミックスとも呼ばれます。マーケティングミックスは、対象となるWhoとWhatが決まってから着手できるものなので、STPの後に実施します。
4Pのうち、どれか一つでも消費者の視点からずれたものになってしまうと、マーケティング戦略は機能しなくなります。常に消費者にとって効果的な内容になっているか、必要であれば都度ターゲット消費者にヒアリングをして、確かめながら進めるようにしましょう。
製品(Product)
顧客に提供する価値(What)を満たす製品開発、スペック、商品名パッケージなどを、消費者理解に基づいて検討し、社内の各部署へ指示を出します。
実際には、マーケティング部門の中に製品開発部門が内包されているケースは稀です。そのため、マーケティング部門から製品開発部門への情報連携を強化し、消費者への提供価値が間違った方向へいかないように調整する必要があります。
マーケターがどんなに流通やプロモーションをうまく実行できても、製品開発が本来の提供すべき価値からずれてしまうと取り返しがつきません。そのような場合は、消費者理解の場に製品開発部門を積極的に巻き込んでいきましょう。
・商品開発の流れとは?6ステップの進め方と役立つノウハウを紹介
・商品開発における未充足ニーズとその見つけ方
・エクストリームユーザーとは?調査方法と商品開発への活用事例を紹介
価格(Price)
商品の値付けは、消費者の需要、競合価格との比較、価格の弾力性などを考慮したうえで、ブランドが目指すポジションに適した価格を決めます。
以下のコラムを一通り読んでいただけたら、価格設定の方法をつかんでいただけるかと思います。
・プライシング(価格戦略)の考え方と価格調査の分析方法
・PSM分析とは?活用方法やメリット・デメリット、進め方を解説
・価格調査・プライシング(価格戦略)の新しいアプローチ
・価格をキメルならバリューベースプライシングリサーチ
・ブランド価値と利益を向上させるバリューベースプライシングとダイナミックプライシング
流通(Place)
どんなによい商品でも消費者の手元に届かなければ意味がありません。いかに効果的に商品へのアクセスを提供するか、その流通経路を設計します。卸売や小売りなどのステークホルダーが関与してくる領域です。
最近では実店舗を持たずオンラインで販売し、オンラインでアクセスできない消費者にリーチする目的で実店舗を遅れてオープンするようなケースもあります。
プロモーション(Promotion)
いわゆる消費者へのコミュニケーション、情報伝達を扱う領域です。消費者に効率的にリーチできる媒体(メディア)を選定し、具体的なコミュニケーション施策を検討し実施します。
どのメディアでどのようなメッセージの広告を行うか、PRはどのように行うか、どのような販売促進のキャンペーンを行うかなど、狭義のマーケティングとして認識される領域が該当します。
・プロモーションに必要なクリエイティブとは
ブランディングについて
ブランディングとは
消費者のニーズや価値観が多様化することに伴い、ブランドの重要性は増しています。
ブランディングとは、消費者の頭の中に、競争に有利になる自社のブランドイメージを築き、消費者に選ばれる必然を作り上げる活動のことです。マーケターにとって最重要ともいえる仕事です。
ブランディングの領域は、単にロゴやデザインを管理することでも、かっこいいコピーやブランドメッセージを作ることだけにとどまりません。消費者のブランドへの印象は、商品のデザイン、価格、使用感、販売員、サポート体制など、消費者がブランドと接するあらゆるタッチポイントを通して作られます。
ブランディングは、消費者に競合との違いを明確に認識してもらい、ブランドが提供する価値とともに消費者の頭の中でイメージされる存在になることを目指して行います。
・クリエイティブ視点でとらえる4つのブランディング
・タグライン・ステートメントの重要性
・ブランドベース開発のメリット
・ブランド調査とは?方法と設計ノウハウ、結果の活用について
ブランディングについては、その方向性と効果検証に関する課題を多く聞きます。ブランドがどの方向性を目指せばよいかわからない、競合との差別化をどのようにすればいいかわからない、ブランディングの効果を測定するのが難しい、といった内容です。
その時に道標となる考え方が、エボークトセットという概念です。
エボークトセットとは
エボークトセットとは、消費者が「○○をしたい」「○○を買いたい」と思ったときに、頭の中で購入時の選択肢にあがってくるブランド群のことです。
このエボークトセットに入っているとブランドが購入されやすくなり、特に第一想起と呼ばれる最初に想起されたブランドは購入検討時の最有力ブランドになります。
ブランディングの目的は、このエボークトセットに入ることと言いかえることができます。
自社商品が属する商品カテゴリで消費者に想起してもらえるようになれば、購入検討されやすくなります。
・エボークトセットとは? 選ばれるブランドとなるための必須戦略
・ブランド管理の課題を解決する新指標「エボークトセット調査」
・カテゴリーエントリーポイント(CEP)の重要性。ブランド想起の入り口を果たすその役割とは?
ネオマーケティングでは様々なカテゴリのエボークトセットを調査し、その結果をまとめています。
EvokedSet共同研究プロジェクト
エボークトセットを活用したブランド戦略
ターゲットとなる消費者を深く理解することで、消費者が購入時に重視する価値要素は把握できますが、現実にはすでにそのポジションは業界ナンバーワンの競合ブランドに取られてしまっているケースが多々あります。
そればかりか、その商品カテゴリに関する多くの価値要素をナンバーワンの競合ブランドが占めているというケースもあります。
このような場合のブランド戦略は2つあります。
1つは、サブカテゴリーと呼ばれる、メインの価値要素から少しずらしたニッチカテゴリでエボークトセットに入ることを目指すことです。
・生活者に“記憶”され、選ばれるブランドに変える新戦略
そしてもう1つは、消費者がカテゴリーにいだくネガティブな認識(パーセプション)をポジティブに変換することで、新たな市場を創る活動です。消費者が潜在的に抱える「アタリマエ」から共感の種を見つけ出し、新しい訴求内容として拡散していくことで、これまでとは異なる市場を確立していきます。
・共感ドミノ現象「そう、それ!現象」を創る ~ブランド戦略の新たなアプローチ~
どちらの方法をとるにしても、提供価値の明確化、他社との差別化、消費者の頭の中にブランドのイメージを形づくる、長期で一貫したコミュニケーションが必要になります。
コミュニケーションとプロモーション
コミュニケーションの目的
消費者の購買行動を説明するモデルとして、購買プロセスモデルというものがあります。
代表的な例でいうと、AIDMA(アイドマ)、AISAS(アイサス)、DECAX(デキャックス)などがあり、消費者の購買行動の変化とともに進化し続けています。
コミュニケーションの役割は、消費者の購買プロセスを後ろのフェーズに進めることにあります。どのようなコミュニケーションを行えば、それぞれのターゲットを動かすことができるかを考え、情報を出す場所、情報の出し方を決めます。
ブランディングという観点ではコミュニケーションにおける「一貫性」も重要です。消費者へのメッセージがコロコロ変わるようでは、消費者の頭の中にブランドのイメージを育ててもらうことは到底できません。目指すべき消費者の頭の中のブランドポジションを狙って、一貫したコミュニケーションが求められます。
コミュニケーションの種類
企業から消費者に情報を伝えることをコミュニケーションと定義すると、広告やPRなどのプロモーションも、コミュニケーションに含まれます。
ここでは主なコミュニケーションのアプローチを3つ紹介します。
広告
まず企業から消費者へのコミュニケーション手段として、広告があります。
交通広告、新聞広告、テレビ広告などから、インターネット広告など、様々な媒体があり、コストさえかければ消費者に確実に届けることができる点が特徴です。
日本の広告費は新型コロナウイルスの感染拡大があった2020年に少し落ち込んだものの、微増傾向にあり、中でもインターネット広告の利用は拡大し続けています。2021年にインターネット広告がテレビ広告をはじめとするマス広告4媒体の広告費を抜いたことは記憶に新しいのではないでしょうか。
総務省|令和4年版 情報通信白書|広告 (soumu.go.jp)より作成
インターネット広告は費用対効果が見えやすく、効率よく購買までつなげることができますが、アプローチできる母数という観点で見ると、依然としてテレビ広告のもつ優位性は変わりません。マス広告が一見不向きなBtoB領域でも、各種交通広告やテレビ広告を打つ企業が増えています。商品サービスのフェーズや媒体の組み合わせによって、広告は今まで以上に活用の幅を広げています。
PR
メディアに情報を取り上げてもらうことで、消費者に情報を届けようとする施策です。広告と違い、PRではメディアにお金は払いません。そのため、PR施策を実施したからと言って確実にメディアに取り上げてもらえる保障はなく、また情報の出し方もメディアの編集が入るため、完全にコントロールすることはできません。
しかし、メディアが発信する情報は話題になりやすく消費者に届きやすい、といった特徴もあります。広告ではブームや強固なブランドイメージを築けないといわれることもありますが、市場の空気を作り、消費者の認識を大きく変える爆発力を持っているのがPRです。
・広告・広報・PRの違いとは?今後重要性が高まる戦略PRとは
・戦略PRとは?押さえておきたいポイントや注意点などを解説
・戦略PRで大切な5つのこと
・PRにおけるストーリーテリングの重要性について
販売促進
サンプリングやクーポンなど、実際に消費者に商品を手に取ってもらうための施策です。商品を実際に体験してもらうこと、購入してもらうことを目的としています。
その他に、企業が自社でオウンドメディアを開始して情報発信する例、UGC(User-Generated Content:ユーザー生成コンテンツ:近年マーケティングにおける重要性が注目されている)の発生を狙ってコミュニケーションを行うこともあります。
コミュニケーションとプロモーションに必要な視点
コミュニケーションとプロモーション施策に共通して言えることは、万能なアプローチはなく、購買プロセスのフェーズに合わせて、ターゲットに適切なメディア選定とメッセージの伝え方を検討する必要があるということです。
例えば、ブランドへの興味関心が低い消費者を購買プロセスの次のフェーズに進んでもらうのに、広告施策が有効だとは限りません。そのような消費者に対しては、企業が発信する情報よりも、メディアやUGCなどの「企業の売り込み感」を感じさせない情報のほうが受け入れてもらいやすいでしょう。一方で、購入意欲が高まっている消費者にはインターネット広告や販売促進施策で、背中を押してあげることが有効でしょう。
そもそもコミュニケーションを考えるうえで、メッセージ、商品サービスが消費者のインサイトをついた提供価値(What)に紐づいていることが前提にあります。Howの部分が優れていても、提供価値がずれていれば元も子もないのです。
コミュニケーションのアプローチごとの特性を理解したうえで組み合わせて活用し、提供価値をターゲットに即して適切に伝えるようにしましょう。
チャネル戦略と実行計画
コミュニケーションの種類も様々あるように、情報の発信場所(チャネル)も様々あります。テレビや雑誌という媒体はもちろん、SNS、オウンドメディア、ブランドに触れるという意味では店頭などもチャネルになりえます。
チャネル戦略を考えるときも、コミュニケーション上のターゲットがどこで情報収集しているか、どこで情報に触れることが効果的かなど、顧客理解がベースとなります。ターゲットが普段どのような媒体で情報収集しているか、余暇時間にどのようなサービスを使っているか、SNSでどのようなアカウントを閲覧しているかなどの情報は、実際に調査してみないとわからないことばかりです。想像ではなく事実として把握することが大切です。
コミュニケーションの内容とチャネルは、セットで考える必要があります。チャネルごとに伝えられる情報量にも違いがありますし、それを見る消費者のモチベーションも異なります。チャネルの特性に応じて、コミュニケーションの内容も変えるのです。
チャネルの特性とそれに適したコミュニケーション施策をターゲットごとに設計するのは非常に難易度が高いため、マーケティング支援会社や広告代理店にはコミュニケーションプランナーという専門職が在籍しています。
成果測定と改善サイクル
マーケティング戦略は一度策定すれば終わり、というわけではありません。マーケティングには再現性が求められます。実施したマーケティング施策の効果を正しく分析しなければ、再現性のある打ち手を見つけることはできません。
マーケティング戦略と施策の評価
採用したマーケティング戦略が正しかったのか、マーケティング目標の達成度を見て評価します。戦略(リソースの使い方)の正解は1つではないので、目標を達成できていればその戦略は正しかったと言えます。
施策の分析と改善のためにも、あらかじめウォッチするKPIを決めておきましょう。ある程度の期間で施策がうまく機能しているかを見るKPIと、施策ごとのKPI、どちらも取得し評価するのが望ましいです。
弊社では長期的にブランディングがうまくいっているか、長期のKPIとしてエボークトセットを指標とすることを推奨しています。例えば広告施策の効果測定であれば、広告実施後に、広告接触者と非接触者で認知度や好感度を比較する、といったものがあります。施策ごとに見るべき指標は異なるため、適切なKPIを選択しましょう。
・ブランド管理の課題を解決する新指標「エボークトセット調査」
・広告効果測定とは?測定方法と評価指標の項目について徹底解説
・広告・プロモーションの効果測定と評価指標
データ分析と対策検討
取得したデータを分析し、なぜ成功したのか、失敗したのかの理由を明確にします。場合によってはこの分析と対策案の検討に時間がかかる場合もあります。対策案を実行するためにオペレーション上の改善が必要だったり、他部署との連携が必要だったりと、一筋縄ではいかないことも多いです。
しかし、こういう地道な分析と改善、他部署との関係性構築を一つ一つ積み重ねていくことでしかマーケティングの勝ち筋を築くことはできません。根気強く、やっていきましょう。
デジタルマーケティングとトレンド
ここでは、デジタルマーケティングをめぐる市場背景とトレンドについて触れていきます。
オンラインプレゼンスの重要性
今や情報収集から商品サービスの購入までをオンラインで完結させることが可能になりました。検索エンジンやSNS、動画プラットフォームで情報を収集し、そのままECサイトで購入。使用感をSNSや口コミサイトに投稿し、同時に情報収集も行う。そういった消費者の行動が当たり前になっています。
そのため、オンラインで認知される仕組み作り、興味関心の醸成、購入したいと思ってもらうための施策を通してオンラインでのプレゼンスをあげることが、ブランドにとって非常に重要になっています。
デジタルツールの活用
マーケティングにおいても様々なデジタルツールを活用し、生産性向上が図られるようになりました。代表的なものには以下のようなものがあります。
・マーケティングオートメーション(MA)
マーケティングオートメーションは、新規顧客情報の獲得から既存顧客へのコミュニケーションを自動化するツールです。顧客の行動トラッキングデータや属性データをもとに、コミュニケーションを最適化することが可能になります。顧客の興味関心が高まった状態を検知したら即座にメールを送信する、といったアナログには対応できないことも可能になります。
・顧客管理ツール(CRM)
顧客の情報、行動履歴、コミュニケーションの履歴、自社との関係性を一元管理することができるツールです。顧客に関するあらゆるデータを紐づけて管理するデータベースという理解がイメージしやすいでしょう。マーケティング活動と営業活動において、必須級のツールとなっています。
・アクセス解析ツール
ウェブサイトを訪問したユーザーの行動を分析するためのツールです。ウェブサイトの訪問ユーザーの数、ユーザー属性、サイト内行動など、ウェブサイト上のあらゆるデータを可視化、分析することを可能にします。
・BIツール
直感的に理解しやすいよう、様々なデータを各種グラフや表にビジュアル化できるツールです。企業が保有するあらゆるデータと連携させることで、リアルタイムでの集計分析が可能になります。
インターネット広告のトレンド
今後のインターネット広告で注目すべきは、プライバシー、動画広告、運用自動化です。
まずプライバシー領域については、2024年後半よりGoogleも段階的にサードパーティCookieの廃止を行う予定です。これにより、今後のプライバシー保護の流れは一気に加速することになります。サードパーティCookieを利用したリターゲティング広告や、ターゲティング広告は今と同じようには使えなくなると予想されるため、今からでも代替策を考えておくのがよいでしょう。
次に、YouTube、TikTokという動画メインのプラットフォームが利用ユーザーを伸ばしている背景から、動画広告の利用がますます拡大していくことが予想されます。
そもそも画像広告と動画広告は、反応するユーザー層が完全には一致しないため、併用することでより多くのターゲットにアプローチできるようになります。
以前は動画クリエイティブの作成に時間とコストがかかっていましたが、それらも安価に作成しやすくなっています。まだ動画広告を活用していない場合は、今後のトレンドも踏まえ、運用を検討するとよいでしょう。
最後に運用の自動化についてです。各種プラットフォームは生成AIを利用したクリエイティブ領域の自動化はもちろん、将来的にはターゲティングや入札機能などの完全自動化を目指すことになるでしょう。そして広告運用ノウハウによる差がつきにくくなると予想されるため、より一層消費者への提供価値(What)の重要性が増すのではないでしょうか。
ソーシャルメディア、コンテンツマーケティングの重要性
ZMOT(ゼロモーメントオブトゥルース)、DECAXなどは、ソーシャルメディアやコンテンツマーケティングが主流になった時代に提唱されるようになった購買プロセスモデルです。
ソーシャルメディアは、情報の拡散、UGCの生成、消費者との相互コミュニケーション、広告配信などを行うチャネルとして、ブランドの構築やマーケティング活動において重要な役割を果たしています。今後もその重要性は変わらないでしょう。
成功しているソーシャルメディアの企業アカウントには、ストーリー性がある、消費者視点である、という共通点があります。
・ZMOTは想起の入り口~なぜZMOTが重要か~
・SNSを活用したストーリー発信に有効な3つのインサイト
コンテンツマーケティングは、消費者の共感を得られる情報や求められている情報をコンテンツとして発信することを通して、商品サービスへのパーセプション(認識)を構築し、最終的に購入へとつなげる手法です。
コンテンツマーケティングが扱うのは、インターネット上の記事コンテンツだけではありません。以前は検索エンジンで情報収集することが主でしたが、今は欲しい情報の種類によって、ソーシャルメディアや動画プラットフォームなど、情報収集のチャネルを使い分けるのが一般的です。発信するコンテンツも発信先のプラットフォームに合わせて作成します。
コンテンツマーケティングの活用
世の中にあるコンテンツの量が多くなるほど、コンテンツの価値が高まるという逆転現象が発生しています。有象無象のコンテンツが量産され、絶え間ない企業からのマーケティングメッセージにさらされた結果、消費者自身が、自身にとって価値のあるコンテンツを選別するようになりました。
消費者自身で取捨選択できないほどの情報に触れているため、信頼しているブランドの情報以外は受け取らない、見ないようにする、そういった行動もみられるようになりました。結果、「良いコンテンツ」だけが消費者に認知され共有されるようになっています。
消費者にとって「良いコンテンツ」は、ブランドに対する消費者の頭の中のイメージに影響を与えます。「良いコンテンツ」が共感を促し、コンテンツの発信者へのエンゲージメントを高めることにつながります。
少し大げさに言うと、コンテンツには、消費者に対するブランドの姿勢が表れます。作成者の意思が宿ります。だからこそ、「良いコンテンツ」は人の心を動かすことができるのです。そのコンテンツが作られた背景に思いを巡らせ、ブランドの姿勢に感心し、コンテンツに触れた消費者自身がストーリーを想像することで、ブランドへの共感が生まれます。
“Content is King”、まさにそういう時代になっているのです。
マーケティングのトレンドと新たなアプローチ
マーケティングというと、企業to消費者の「1対多」というイメージが強いかと思いますが、One to Oneマーケティングという概念があります。
当然ですが、消費者の求めるものや価値観は一人ひとり違います。そのため個々の消費者にあった価値を提供することが理想です。しかしリソースの問題で実現は難しいため、同質な消費者でセグメンテーションしターゲティングする、というのがマーケティング戦略の定石でした。
基本的にこの方法に変わりはないのですが、ことデジタルのプロモーション領域においては、購買行動データとユーザーデータの紐づけや、データ分析を可能にするツールの進化によって、個々人に最適化するOne to Oneマーケティングが可能になりつつあります。
代表的なのは企業と消費者のOne to Oneのコミュニケーションを可能にする、マーケティングオートメーションの進化です。
マーケティングオートメーションは顧客管理ツール(CRM)と連携し、消費者の購買行動データや、自社コンテンツへの接触履歴、属性データなどをもとにコミュニケーション最適化を図ることで、消費者のブランドへのエンゲージメントを高めることが可能です。
消費者が情報を必要としているタイミングで、求めている情報をまとめたコンテンツを紹介するような、消費者視点でのコミュニケーションを行うことができます。コンテンツマーケティングとの相性も良く、直接のコミュニケーションにおいては必須のマーケティングツールだといえます。
エンゲージメントを高めるプロセスは「ナーチャリング」と呼ばれますが、この言葉を「企業が消費者を育成する」という意味あいで理解すると、企業視点のコミュニケーションとなりやすく、少し危険です。
基本的に消費者は企業の意図した通りにブランドを認識したり、行動をすることは少ないため、購買プロセスを進めてもらうためにコミュニケーションは行うが「消費者の中でブランドへのエンゲージメントが育つ、その手助けをする」という理解が適していると言えます。
持続可能性とマーケティングの関連性
環境に与える影響を最小限に抑え、社会的な価値観に合致するような取り組みが企業に求められています。
グリーンマーケティングとは、製品やサービスの開発、販売、広告などのプロセスにおいて、環境への配慮を重視するアプローチです。
様々な調査で、あらゆる年代の消費者の環境意識の高まり、社会的な影響を考慮した消費を好む傾向が確認できています。SDGsの概念も広く認知されるようになった昨今、社会的責任への取り組みは消費者が選ぶブランドの必要条件になりつつあります。
グリーンマーケティングを行ない、社会的責任を果たすことだけで多くの消費者からの支持を受けることは難しいでしょうが、ブランド選択のプラスαの要素にはなりえます。消費者への提供価値が前提のもとではありますが、環境配慮の企業姿勢が1つのブランドイメージとなって、共感を呼び、ブランドへのエンゲージメントにつながります。また今後の環境意識の高まりによっては、「環境に配慮された商品、ブランドであること」が購入時の重要な価値要素になることは十分考えられます。
しかし、ここでも一貫性は必要です。消費者は「グリーンマーケティングをやっています」という形だけのアピールを敏感にかぎ分けます。本来は企業のミッションやビジョンなどの、その企業独自の思想と紐づいた哲学として実施されるべきですが、もしマーケティング戦略として取り入れる際には、十分な配慮が必要でしょう。
例えば、アウトドアブランドの「パタゴニア (Patagonia)」の取り組みには、ストーリーとして一貫性があります。
まずアウトドアブランドというカテゴリは、自然環境をイメージしやすく「環境配慮に取り組むブランド」としてのポジションを築きやすいカテゴリといえます。また、アウトドアブランドの顧客は一般の消費者よりも自然環境への思いが強く、環境配慮の姿勢に共感しやすいことも想像できます。自然環境との関わりを楽しむ消費者にとって、自然環境を本気で保護しようとするブランドへのエンゲージメントは高まりやすいでしょう。
そのうえで、パタゴニアは企業としてのコアバリューの1つに「環境主義 (Environmentalism)」を掲げています。
環境主義 (Environmentalism)
故郷である地球を守る。私たち全員が自然の一部であり、私たちが行うすべての判断は人類に困難をもたらす環境危機という状況の下で行われます。私たちは自分たちの影響を減らし、解決策を共有し、リジェネラティブな慣行を採り入れます。私たちは、土地や空気、水を健康な状態に回復させる、化石燃料への高依存を阻止する、そして環境破壊と社会正義の間の深い関わりに対処するために草の根活動を行う組織やその最前線にいるコミュニティと提携します。
パタゴニアのコアバリュー | パタゴニア | Patagonia
そしてそのコアバリューに基づいて、業界が抱える環境課題を指摘し、ブランドが課題に取り組む理由を語り、実際にサプライチェーンの改善、原材料の見直し、また環境団体への寄付などを継続的に行っています。
環境的責任プログラム | パタゴニア | Patagonia
このように、ブランドの哲学と活動が一致し、消費者が重視する価値観とも合致している場合、グリーンマーケティングは強力にブランドのエンゲージメントを高めます。
ネオマーケティングでは、SDGsに関連する自主調査を数多く公開しています。
以下に一部をご紹介します。
・防災に関する調査
・全国の20歳~69歳の男女400人に聞いた「オーガニック、なぜ選ぶ? ~質か環境配慮か~」
未来への展望と戦略の適応
今後マーケティングはあらゆる領域で自動化が進んでいき、マーケターが担う領域はインサイトの把握、提供価値の定義、戦略立案、コンテンツ作成といった本質部分に重点が置かれるようになるでしょう。
ですが、マーケティングの本質は変わりません。売れる必然を作るため、消費者視点でマーケティングを行うことが大前提です。量的質的な顧客理解から始まり、ターゲットを定め、提供価値を定義していくプロセスは変わらず重要です。
一方で、技術や市場環境の変化によりマーケティングの手法は変わっていきます。これまで以上に自社に蓄積したデータを駆使し、ターゲティングとコミュニケーションのパーソナライゼーションも必要になるでしょう。生成AIによる消費者の検索行動の変化などもウォッチしたいところです。
まとめると、マーケティングをめぐる大きなトレンドの変化に備えながら、手法の変化をキャッチアップし続け、変わらない本質を突き詰めることが今のマーケターに求められていることではないでしょうか。
まとめ
本コラムではマーケティングの定義、基本要素、トレンドまで幅広く紹介しました。
l マーケティングとは、商品が自然に売れ続ける仕組みを作ること
l マーケティング戦略ではビジネス目標の達成を目指すために、限られたリソースをどのように投下すれば売れる仕組みを作れるかを考える
l マーケティングプロセスでは誰に(Who)どのような価値を(What)どうやって届けるか(How)を決める
l ブランディングの目的はエボークトセットに入ること
l オンラインでのプレゼンスが重要、コンテンツによるエンゲージメントが求められる
l マーケターは変わらないマーケティングの本質を追及し続ける
少しでも参考になれば幸いです。
最後に、私たちネオマーケティングは、本コラムで触れたすべての領域に対して支援を行っています。マーケティングに関してお困りごとがありましたら、お気軽にご相談ください。