マーケティングに携わっていると「インサイト」という言葉を耳にすることがあります。何となく意味を捉えているものの、具体的な定義や潜在ニーズとの違いなど、詳細については不明点を抱えている方も多いのではないでしょうか。
今回は、ビジネスにおけるインサイトの意味や重要性、効果的なインサイトの創り方についてわかりやすく解説します。インサイトマーケティングの具体的な事例も紹介しますので、ぜひマーケティング施策を検討する際に役立ててください。
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インサイトとは
インサイト(insight)は「洞察・見抜くこと」という意味の英語です。ビジネスやマーケティングで使われる場合は「顧客や消費者の隠れた本音」を表します。また、「顧客インサイト」「消費者インサイト」などと表現するケースもありますが、意味合いとしては同じです。インサイトが注目されている背景やビジネスにおける重要性について整理しておきましょう。
●インサイトの概要
ビジネスにおけるインサイトとは、消費者自身も意識していない・気が付いていない意識/行動・動機全般のことを指します。
たとえば、ご自身がお買い物をしている場面をイメージしてください。店頭で商品を手に取った際、購入を決める理由を明確に説明できるケースは少ないです。「何となく気に入った」「しっくりくる」といった、説明できない感覚や感情にもとづいて行動することもあるはずです。
では、「何となく気に入ったから」という購入理由には何の根拠もないのでしょうか。実は消費者自身も気が付いていないだけで、ニーズが生まれる元となる欲求や願望は深層心理に眠っています。自分でも何が欲しいのかがわかっていないため、欲求を満たしたいという思いと購買行動が結びついていなかったのです。
このように、人の購買行動には本人も言語化できていない購入の動機が隠れています。消費者が購入を決める動機のうち、自覚していない本音・本質の部分がインサイトに当たると考えてください。
●インサイトが注目されている背景
なぜ今、インサイトが注目されているのでしょうか。主な理由として2点が挙げられます。
1つめの理由は、顧客や消費者のニーズに応える商品・サービスが市場にあふれており、すでに飽和状態となっているからです。買い手にとってはどの企業が提供する商品・サービスを選んでも大差はなく、ニーズを一定以上満たすことができます。既存のニーズに応えるだけでは、他社商品との差別化を図るのが難しくなっているのです。
2つめの理由は、消費者の購買行動が複雑化していることが挙げられます。購買チャネルが多様化したことに加え、消費者が手軽に得られる情報量も増加する一方です。消費者が「現状欲しがっているもの」を売る手法から、「本音で実は求めているもの」を提供する手法への切り替えが求められていくでしょう。
従来のように消費者のニーズを探し当てようとするのではなく、需要を創り出す重要性が増しています。顧客・消費者の本質的な願望を深掘りし、「欲しいと気付いていないもの」を先回りして提供するためには、インサイトを創り出していく必要があるのです。
●ビジネスにおけるインサイトの重要性
飽和状態となった市場では、従来のように消費者のニーズを調査して新商品を開発している限り、すでに他社が提供している商品と似通ってしまう可能性は極めて高いでしょう。
競合他社がひしめいているレッドオーシャンで商品を売ろうとすれば、販売の難易度が高まるのは避けられません。消費者としては、類似した商品が多数ある中から、あえて特定の企業が提供する商品を選ぶ理由がないからです。結果として、他社よりも価格を下げることによって競争優位性を確保するようになるため、市場全体が価格競争に突入しやすくなります。
インサイトを重視することは、レッドオーシャン化した市場や価格競争への突入を回避するための有効なアプローチといえます。消費者自身も気付いていない欲求を深掘りすることで新たなニーズを創造し、手つかずの市場を開拓することにつながるのです。
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インサイトと顕在ニーズ・潜在ニーズとの違い
インサイトと混同しやすいのが「ニーズ」です。とくに潜在ニーズとの違いを把握しておくことは、インサイトの理解を深める上で欠かせません。とインサイトの違いを押さえておきましょう。
潜在ニーズ・顕在ニーズの詳しい記事はコチラ
●顕在ニーズとの違い
顕在ニーズとは顧客・消費者がすでに自覚しており、解決したいと考えている欲求や悩みを指します。たとえば、腕時計を購入したいと考えている消費者は、次のような顕在ニーズを抱えていることでしょう。
- おしゃれな腕時計が欲しい
- 高機能な腕時計を使ってみたい
- 豪華な腕時計を身に付けたい
いずれも消費者が自覚しており、すでに言語化されている欲求です。メーカーや小売店は消費者のニーズに応えるべく、デザイン性の高い時計や機能性に優れた時計、高価な宝飾時計などを製造・販売しています。消費者の欲求と提供する価値が直接結びついているのがポイントです。
一方、デザイン性・機能性に優れた時計や高級時計は市場にあふれています。大手メーカーが高いシェアを占めており、消費者側もブランドの知名度を元に購入する商品を決めるケースが少なくありません。競合他社も多く、新規参入のハードルは高くなりがちです。顕在ニーズに応える商品を各企業が次々と市場に投下するため、レッドオーシャン化しやすい傾向があります。
●潜在ニーズとの違い
潜在ニーズとは顧客・消費者が明確に自覚しておらず、言語化されていない深層意識の欲求を指します。たとえば、腕時計を購入したいと考えている消費者の潜在ニーズとして、次のものが想定できるでしょう。
- 人から魅力的だと思われたい
- 快適なライフスタイルを手に入れたい
- 高級品を身に付けて優越感を味わいたい
上記はいずれも、消費者の内面に潜んでいる欲求や願望に根差しています。欲求を満たすためには必ずしも腕時計を購入する必要はなく、他の商品で代替できる場合もあるのが特徴です。
消費者の潜在ニーズを満たすことが、人気商品やヒット商品を開発する上で重要といわれています。一方で、顕在ニーズと比べて潜在ニーズは抽象度が高く、消費者自身も明確に意識していないことから、ニーズを特定するのは容易ではありません。消費者の購買行動や他社商品の動向を定性的・多角的に分析し、消費者の内面を探っていく必要があります。
●インサイト・顕在/潜在ニーズの関係性
インサイトと顕在/潜在ニーズの関係性は、次のようにまとめることができます。
消費者は自身の潜在ニーズを明確に自覚していないものの、「薄々気付いている」「指摘されれば納得する」状態といえます。一方、インサイトに関しては欲求そのものに気付いていません。欲求を満たす商品を目にしてはじめて「求めていたものはこれだ」と知るのです。
ヘンリー・フォードは、世界初の量産型自動車「T型フォード」を製造するにあたって「消費者が望むものを尋ねたら、彼らはもっと速い馬が欲しいと答えただろう」と述べています。消費者は馬の存在を知っているため、より速い移動手段を手に入れるには足の速い馬が必要と考えるでしょう。当時、大多数の消費者にとって遠い存在だった自動車は、消費者自身も気付きようのないインサイトの典型例といえます。
インサイトの例
インサイトへの理解を深めるために、身近なケースを考えてみましょう。現在、あなたがダイエットに挑戦したいと思っているとします。ダイエットの顕在ニーズ・潜在ニーズ・インサイトは、それぞれどのように説明できるでしょうか。ぜひ一緒に考えてみてください。
●ダイエットの「顕在ニーズ」
ダイエットに取り組むとすれば、具体的に何をしたら痩せられるのかを考えるはずです。間食を控えたりスポーツジムに通ったりするなど、自身が取るべき行動について検討するでしょう。
この時、あなたがイメージする行動は「すでに知っている情報」にもとづいています。既存の知識や情報の中から、ダイエットに役立つと思われるものを引き出している状態です。課題の解決策に役立つと思われる商品やサービスを探し、購入・利用を検討する場合もあるでしょう。しかし、検討の対象となるのはあくまでも「知っている商品・サービス」の範囲内に留まるはずです。
ダイエットに役立つサプリメントなどの商品や、スポーツジムといったサービスは世の中にあふれています。訴求の仕方を工夫することはできるものの、顕在ニーズに応えようとすればレッドオーシャンで闘うことになるのは避けられません。
●ダイエットの「潜在ニーズ」
では、ダイエットの潜在ニーズに焦点を当てた場合はどうでしょうか。潜在ニーズを突き止めるには、「現状よりも痩せたい」という直接的な願望を生み出している理由を探っていく必要があります。
たとえば「似合う服を増やしたい」「他者からより美しいと思われたい」など、ダイエットの動機となった隠れた願望があるはずです。しかし、こうした願望を明確に自覚しているとは限りません。
「あの頃の体型を取り戻しませんか?」といったキャッチコピーは、ダイエットの潜在ニーズに気付いてもらうことを意図して創られています。消費者は自身の隠れた願望を鋭く言い当てられたと感じ、提案された商品・サービスが自分のために提供されていると実感するのです。ただし、潜在ニーズは消費者の購買行動や購買心理を分析して導かれたものに過ぎません。すでに存在するニーズを深掘りしているため、消費者自身も気付いていない願望を分析するのは容易ではないのが実情です。
●ダイエットの「インサイト」
ダイエットのインサイトを探り当てるには、発想の転換が必要です。そもそもなぜダイエットに興味をもつのか、消費者自身も意識していない本質的な欲求を分析していくことが求められるでしょう。
似合う服を増やしたいという願望は、「もっと積極的な生き方をしたい」「健康的なライフスタイルを実現したい」などの欲求に支えられている可能性があります。痩せるための直接的な手段に限らず、自然由来の健康食品や必要な栄養素を手軽に摂取できる低カロリーの完全栄養食にも関心を寄せる可能性は高いでしょう。
一例として、プロテインパウダーをはじめとするたんぱく補給食品の国内市場は2022年時点で2,500億円規模に達し、2027年には3,000億円を超えると予測されています(※)。従来、主にアスリート向けに販売されていたプロテインを、ダイエットや健康維持を目的とした商品に取り入れたのです。こうして新たな市場を開拓し、一般の消費者にも広く知られるプロテインブームを創出することに成功しました。インサイトを創り出し、新たなビジネスチャンスへとつなげた好例といえます。
※出典:富士経済「拡大続くたんぱく補給食品の国内市場を調査」2022年9月6日
インサイトの創り方
ここでまずお伝えしたいのは、ネオマーケティングではインサイトを「見つける」ではなく「創り出す」と表現しています。自身が欲求に気付いていない=答えが分からないものを「見つける」と表現するのは違和感があるからです。
それでは、インサイトはどのように創り出していくのでしょうか。創り出すにはまずそのためのヒントが必要で、そのヒントを得る方法として以下の2つを紹介します。
- インタビュー調査
- エスノグラフィー(行動観察調査、訪問観察調査)
●インタビュー調査
インタビュー調査はアンケート調査と比べて、「なぜそのように思うのか」や「調査対象者自身の環境や生い立ち」などといった、細かく・深く聴取することができます。しかし、前述したようにインサイトとは「欲求自体に気付いていない」ものです。そのため、インタビュー調査で対象者が言語化して回答したものは、「インサイトではありません。あくまでも「インサイトに繋がるヒント」として捉えましょう。
インタビュー調査の詳しい記事はコチラ
●エスノグラフィー
エスノグラフィーとは、行動観察調査または訪問観察調査ともいい、調査対象者の行動を直接観察する調査のことです。また、気になった行動があればその場で質問することが出来るので、インタビュー調査の役割も兼ねています。
「どこで観察するのか」については、調査対象者のご自宅に伺うのが良いでしょう。詳しく説明すると長くなってしまうので、詳しく知りたい方は以下の記事を参照ください。
エスノグラフィーの詳しい記事はコチラ
また、ネオマーケティングでは、インサイトを創り出し、それを商品開発に活用するリサーチサービス「インサイト・ドリブン」を提供しております。上記に挙げた調査方法以外にも、インサイトを創り上げるには幾つかポイントがあります。ご興味のある方は、ぜひご覧くださいませ。
インサイトマーケティングの事例紹介
実際に「インサイト・ドリブン」を導入いただいた事例を紹介します。
ぜひご覧いただき、「インサイトがどのように商品開発に活用されるのか」についてイメージをつけていただければと思います。
●株式会社セブン&アイ・ホールディングス様
- 課題:様々なカテゴリーのブランディングを行っている中で、競合他社のPBと「同質化」している
- 実施内容:ネットリサーチ、エスノグラフィー、ワークショップ
- 結果:課題があったカテゴリーのリブランディングのヒントを得ることができ、商品開発に活用することができた
まとめ
インサイトとは、顧客・消費者自身も意識していない本音や本質を指します。ニーズを探し当てようとするのではなく、新たに創造することでレッドオーシャンや価格競争からの脱却を図るためのアプローチとして注目されている概念です。市場にモノやサービスがあふれている現代だからこそ、インサイトを創り出す視点はいっそう重要性を増していくでしょう。
今回紹介してきたポイントや事例を参考に、ぜひ商品開発やマーケティング戦略にインサイトの概念を取り入れてください。ネオマーケティングでは約1,983万人のモニターを活用したマーケティングリサーチをはじめ、インサイトの分析に役立つマーケティング支援サービスを提供しています。インサイトを創り出し、新たな市場を開拓したい事業者様は、ぜひネオマーケティングにご相談ください。