コンセプト調査のカギは「共感」と「標準化」
ライター:吉原慶
公開日:2022年03月08日
| 更新日:2024年10月08日
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リサーチャーコラム
マーケティングリサーチ
あるアイデアを形にしたとして、それが実際に生活者に好意をもって受け入れられるか? 商品化に進むかどうかの分岐点となるのが「コンセプト評価」です。商品開発において非常に重要な調査のひとつではありますが、意味ある評価を取ることができているでしょうか? 本コラムは、じつは多くの企業が抱えているコンセプト評価の課題と改善策について解説します。
その「コンセプト」で大丈夫?
「コンセプト調査」は商品やサービスの特徴や根拠などをテキストでまとめたシートを提示し、その印象を調べるものです。
「商品に目新しさを感じるかどうか?」「商品を購入したいと思うか?」といったことを確認し、開発ラインへとのせるかどうかを判断したり、商品開発の方向性を調整したり、重要な決断材料となります。
ネオマーケティングでもコンセプト調査をサポートしていますが、課題を感じることがあります。その1つが、コンセプトとして機能ばかりを推すケースが少なくないことです。
たとえば、洗濯洗剤であれば「汚れがきれいに落ちる」「白くなる」「生地を傷めない」といったことを謳い、食品メーカーであれば、「国産○○を使用」「ビタミンCがレタス○個分」「独自開発の製法」など、成分ばかりを強調する、といった具合です。
それがただちに悪いとはいいません。が、作り手側が誇りたいことだけを提示しても、生活者側にしてみたら、「だから、なんなの?」という話です。自分たちに何のメリットがあるのか、その商品を通じて、何ができるのか、どうなるのかなど、具体的なベネフィットは伝わりません。厳しい言い方ですが、機能や成分など企業側のエゴを押し出したコンセプトで取った評価に、たいした意味はないのではないでしょうか。
「コンセプト」に必要な3要素
コンセプト評価が成立するための条件は、誰が読んでも同じようなもの・商品がイメージされることです。AさんとBさんの解釈がそれぞれまったく異なり、たとえば、お茶なのに、ジュースや炭酸飲料など別のものをイメージしてしまうようなコンセプトでは、ミスリードしてしまい、誤った評価になってしまいます。それを踏まえつつ、コンセプトには次の3つの要素を盛り込むべきと考えます。
1)ニーズを喚起するメッセージ
商品を手にとって、購入してもらうためには「共感」が必要です。コンセプト調査は言い換えれば、共感を生むかどうかを確認するためのものです。
「こんなことはありませんか?」といった生活者のニーズを呼び起こすメッセージがコンセプトには絶対的に必要です。
2)生活者へのベネフィット
共感してくれた人に対して、どういうベネフィット(どうなれるのか)を提供できるのか。それを、具体的に提示をすることこそ最も重要です。
その商品を使うことでニーズが満たされることを示さなくてはいけません。
3)説得力のある根拠
ニーズが満たされるといったとしても、なぜ? どうして? という根拠がなければ、説得力がありませんし、信頼もされません。機能や成分など、実現できる根拠を忘れずに提示します。
この3つの要素はコンセプトをまとめるうえで、マスト項目です。コンセプトシートをまとめる際には、是非、意識をしてみてください。
「ヘルシア緑茶」のコンセプトが優れている理由
非常によくできたコンセプトとして知られているのが、花王さんの「ヘルシア緑茶」です。ヘルシア緑茶を例に、3つの要素を具体的に見ていきましょう。
まず、ニーズ喚起にあたるのが、「最近、おなかの周り気になりませんか?」「内蔵脂肪・体脂肪が気になる方へ」というメッセージです。そもそも、おなか周りが気になる人がターゲットですから、メッセージがダイレクトに響きます。
そして、その人に対して何を提供できるのか、ベネフィットについて
テレビCMでは「毎日1本飲むだけで、気になる体脂肪にガツンと」といった表現がされました。薬事法の関係で「効く」とは断言できないため、「ガツン」という表現になっていましたが、毎日1本飲むだけで体脂肪にアプローチできるというのが、生活者のベネフィットになるというのがわかりやすく伝わります。
そして、その根拠として、高濃度の茶カテキンが豊富に含まれていることが示されています。お茶のジャンルとしては初めて「特定保健用食品(特保)」として認められたということも、より信用できる商品として伝わります。
ニーズ喚起メッセージで「自分もそうだ」と思い、ベネフィットを見て「すごくいいな」と好感をもち、示された根拠を見て納得と信頼が生まれる。加えて、容量や価格、売っている場所などの情報も提示され、「160円ぐらいでコンビニ買えるんだったら試してみたいな」という具体的なイメージがもてる。
内容も構成も含め、素晴らしいコンセプトだといえるでしょう。
評価指標を標準化する
コンセプト評価における課題の2つ目は、評価方法とその判断基準が標準化されていないケースが多いことです。
コンセプト調査は商品ごとに行われ、1つの会社でもさまざまな部署・担当者が調査を行います。そのため、アンケートで何を聞くのか、その内容や聞き方、選択肢などが部署ごと、担当者ごとに異なることがほとんどです。
コンセプト評価は、開発ラインにのせるかどうか、次のフェーズに進むかどうかを決める重要なものです。それなのに、調査設計も判断基準も統一されていなければ、意思決定の基準を標準化するはできません。
会社として同一指標にするのが理想ですが、せめて部署として、次の3項目は標準化してもらいたいと考えています。
・生活者に何を提示するのか=コンセプトシートの仕様
・どうやって聞くのか=アンケートの項目と選択肢
・結果をどう判断するのか=意思決定指標
この3点が標準化されることで、誰が見ても「このプロジェクトはGOだ!」「NO GOだよね」というジャッジができる。逆に言えば、標準化できていないということは、企業として意思決定がぶれている、ということです。
標準化のメリット
標準化の最大のメリットは意思決定が統一できることですが、それだけではありません。経営
面のメリットとして、商品開発の成功確率を上げることができます。
どんなに素晴らしい商品を作っても、どんなに一生懸命マーケティングを行っても、「絶対売れる」とは限りません。言葉は悪いですが、新しい商品を世に出して、それがヒットするかどうかは博打のようなものです。
新商品販売という博打が、一か八かの大博打になるのか、勝算のある投資になるのか。コンセプト評価を標準化することは、リスクを標準化することにつながります。新商品の開発は勝つ可能性を高めながら世に送り出す必要があるわけで、標準化はその重要なポイントになるはずです。
もう1点、実務者レベルでのメリットもあります。それは、調査にかける労力を減らせる、ということです。コンセプト調査は重要な調査ですが、調査そのものは担当者の主たる業務ではありません。
担当者が担っているのは、売れる商品の開発や売上の拡大です。調査はあくまでも、そのための意思決定の材料を得る手段でしかありません。そこに、多くの時間を費やす必要はありません。調査のたびに、「どうしよう?」と考えこんでいてはいけないのです。
標準化された調査のパッケージがあり、調査のための労力を省けたなら、そのぶん、別の業務に時間を割くことができます。
コンセプト評価の標準化について問題意識を持っている担当者は少なくありません。しかし、標準化はそれまで踏襲されてきたある種の文化を一新させることですから、なかなか踏み切れないようです。
しかし、コンセプト調査の重要性を真に理解しているのならば、まずは部署ごとからでもいいので、標準化を進めてもらいたいと考えています。
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