以前のコラムの「ブランド調査とは?方法と設計ノウハウ、結果の活用について」にて、“分析のフレームワーク“のお話をしました。今回は、その中で取り上げた「コレスポンデンス分析」について、ご紹介します。
コレスポンデンス分析とは
コレスポンデンス分析とは、アンケート調査などのクロス集計表を2次元マップに変換する分析手法のことで、多くの情報量を要約できる分析手法です。
クロス表において、集計軸が多くある場合によく用いられます。例えば下記の場合ですと、ブランド毎の分析は可能ですが、ブランドAとブランドBを比較したい場合、非常に分析しづらい状態にあります。
【ブランドとイメージのクロス表(※数値はダミー)】
各イメージ項目ごとに、自社ブランドや競合ブランドの評価を把握することは非常に重要です。しかし、このクロス集計表から、自社と競合ブランドの関係性、市場におけるイメージの違いなどの結果をまとめようとしても、大変な手間がかかってしまいます。
このような場合にコレスポンデンス分析を実施し、その分析結果を2次元マップに変換します。2次元マップに変換されることで、視認性が上がり、結果を解釈しやすくなります。
上記のクロス集計表の場合、コレスポンデンス分析によって「ブランド」×「イメージ」を2次元で表現することで、それぞれのブランドがどのようなイメージに近いか、市場での競合ブランドとの位置関係を直感的に理解することができます。
下記は、クロス集計を参考に、コレスポンデンス分析の結果をマッピングしたものになります。
【コレスポンデンス分析結果(※数値はダミー)】
上記のように、分析結果をマッピングすることで、自社ブランドと競合ブランドのポジション、特徴などが可視化しやすくなります。
以上が、コレスポンデンス分析と分析結果のまとめ方になります。
コレスポンデンス分析の手順
次に、コレスポンデンス分析を行うための手順について紹介します。
コレスポンデンス分析を行うためには、調査設計から考える必要があります。この分析を行うための情報(例えば、調査したい商品カテゴリー利用者、競合ブランド名、特徴としてあがりうる項目など)がなければ、そもそも分析を行うことが不可能であるからです。
■STEP1.分析目的を明確にする
自社と競合のブランドイメージからポジショニングを把握して、
競合ブランドとの差異を明らかにすることを目的とします。
なお、事前に自社と競合のブランドイメージの違いを仮説立てて調査票を設計しておくことで
分析の目的はより達成されやすくなります。
■STEP2.分析対象を選定する
ブランドイメージの集計表を見て、極端にn数が小さいブランドやイメージ項目を除外します。
これは外れ値を除外する考え方と同様で、分析精度を高めることができます。
この際、「その他」や「あてはまるものはない」の選択項目がある場合も除くことを推奨します。
なぜなら、分析目的はブランドイメージの差異を明らかにすることだからです。
■STEP3.統計ツールで分析する
フリーソフトの「R」や有料の統計ソフトウェアを使用して分析します。
有料の統計ソフトウェアは「SPSS」や「JMP」「SAS」「エクセル太閤」
「エクセル統計」「XLSTAT」など様々ありますが、おおよそどの統計ソフトウェアでも対応しています。
■STEP4.散布図を描く
統計ソフトウェアによっては自動で散布図まで出力してくれますが、
お持ちのソフトウェアが対応していない場合はエクセルで散布図を描きます。
下記は、前述したコレスポンデンス分析の結果を散布図にしたものになります。
【コレスポンデンス分析結果(※数値はダミー)】
■STEP5.分析結果を読み取る
上図の分析結果から、以下の内容が導き出されました。
- 「自社ブランド」は手頃で馴染みがあり信頼感はあるが、具体的な機能的イメージを持たれていないことが課題である
- 「ブランドA「ブランドB」は「免疫力」を強みにプロモーションをかけて売上を伸ばしている
- 「ブランドC」は独自の美容成分を武器に「美容に良さそう」というポジションで女性の支持を得ている
以上のことから、自社独自の強みで差別化を図ることが急務であることを認識できました。
本段落の冒頭で、コレスポンデンス分析を行うためには、調査設計から考える必要があるとお伝えしましたが、具体的にどのような設問を用意すれば良いのでしょうか。次の段落でご紹介します。
コレスポンデンス分析を行うための調査設計
コレスポンデンス分析を行うための設問設計とはいっても、決して独自の設計をするわけではありません。あくまでも、「コレスポンデンス分析を行うにはこのような設問設計が必須である」という認識でお読みいただければと思います。
コレスポンデンス分析がよく活用されるアンケート例が図1のような、各項目についてそれぞれのイメージを取得するマトリクス形式の質問です。
■マトリックス形式の設問
【図1】マトリクス設問
■複数回答の設問×他の設問(性別・年代・住居など)
図1では、1つの設問で集計軸と分析項目がまとまっていますが、下記の図2のように複数回答のみの設問の場合でも分析は可能です。
図2は、複数回答の設問を、集計軸を性年代とした場合の例になります。(性別や年齢といった基本的な情報は、アンケートの冒頭で聴取してることが前提です)
【図2】複数回答設問
図2の複数回答の設問の集計軸を性年代にした場合、下記のようなクロス集計表になります。
【図3】複数回答設問×性年代設問
最終的に、クロス集計表(≒「表側」と「表頭」の形式)の形式であれば、理論上コレスポンデンス分析が可能です。
コレスポンデンス分析のメリット・デメリット
これまでコレスポンデンス分析の手順と調査設計を紹介しましたが、デメリットもあります。
ここで、メリット・デメリットを整理していきましょう。
■メリット
- 2つ(以上)の変数の関係を分析することができる
- 結果を散布図(マップ)に表現し、直感的に理解することができる
- 自社・競合ブランドのポジショニングがわかる
繰り返しになりますが、何よりのメリットは「クロス集計分析では結果が読みきれない場合に、情報を整理することができる」ということです。
例えば、20ブランド×20項目のクロス集計表があった場合に、コレスポンデンス分析を行うことで”400情報⇒40情報”に集約できるため、結果を直感的に理解することが可能になります。
■デメリット
- 視認性を高めることで情報ロスをする可能性がある
- どの項目が好まれているのかまでは判断ができない(選好性が不明)
マッピングして視認性を高めるという事は、その分細かい情報をロスする可能性があるともいえます。
例えば、ブランドの軸が20個、項目が20個ある場合、クロス集計では20×20の400の結果を得ることができます。それをコレスポンデンス分析によるマッピングを行うと、20ブランド+20項目の40情報になります。誤解を恐れずに言うと、「マッピングではザックリとした情報を一目で分かるが、1項目毎などの細かい分析はクロス集計の方が適正である」ということです。
また、マッピングすることで各ブランドのポジショニングは分かりますが、どの項目(おしゃれ、かっこいいといったイメージ)がターゲットに好まれているのかという情報は不明です。「そのブランドに対して持っているイメージ=好きなイメージ」ではないからです。
コレスポンデンス分析のデメリットの対処方法
前段で、「情報ロス」「選好性の不明」という2つのデメリットを挙げましたが、デメリットをカバーする対処法があります。
■「情報ロス」の対処法
至極単純な対処方法ですが、「コレスポンデンス分析の結果」と「元のクロス集計表」の両方を確認することです。決して、コレスポンデンス分析だけで判断しないことが重要です。
【図4】クロス集計表
■「選好性の不明」の対処法
こちらも単純な対処方法ですが、これまで紹介したコレスポンデンス分析と同じ要領で「選好マップ」を別途作成します。
これまでは、「ブランドイメージ」を例にコレスポンデンス分析を解説してきましたが、それと同じ作業工程で例えば「ブランドの使用感」について聴取します。
項目を変えることで「ブランドの選好性」が分かります。
【図5】コレスポンデンス分析マッピング
ここまで、手順、調査設計、メリット・デメリットについて紹介し、コレスポンデンス分析をマッピングすることで視認性が高まり、自社・競合ブランドのポジションが明確になるとお伝えしました。
しかしここまでの説明だけでは、「自社ブランドは価格が手頃だと思われている」という結果が分かりますが、
それだけわかっても「ふ~ん、それで?」となりかねません。
下記では、それだけでは終わらないように、もうちょっと詳しく「解釈の仕方」について紹介します。
コレスポンデンス分析結果の解釈の仕方~基礎~
コレスポンデンス分析の解釈は、「軸」と「距離」という2つの概念で整理されます。
■軸
ここでいう軸とは、X軸・Y軸のことを指します。軸に意味づけをすることで、結果の解釈がしやすくなります。
今回のケース(図6)では、健康美容⇔味、馴染み⇔品質といった軸が読み取れます。
そして、健康美容と馴染みの間のポジションには、どのブランドも布置されていないため、ポジションが空いていることが分かります。
ただ、軸の意味付けは、主観的であるため、無理に実施する必要はありません。
(下の図では、「自社ブランド」は「価格が手頃」が近く、「品質が良い」が遠いといったことが分かります。)
【図3 各ブランド認知者 ※数値はダミー
距離:
X軸とY軸の座標に数値的な意味はありません。MAP上で距離が近いものは、相対的に関連が強い(似ている)ことを示します。逆に、距離が遠いものは、関連が弱い(似ていない)ことを示しています。マップの中心付近には平均的なイメージ(いずれにも備わっているイメージ)が布置されます。
つまり、軸は主観的に意味づけを行いましたが、距離は客観的で、距離から解釈を進めていくイメージです。
図3においては、「自社ブランド」は「価格が手頃」が近く、「品質が良い」が遠いといったことが分かります。
コレスポンデンス分析の解釈の仕方~応用~
次に、各ブランドの認知者と主飲者(今回例として活用しているのは飲料ブランドの例)でコレスポンデンス分析を実施してみます。
すると、それぞれ下記の内容を知ることができます。
1 各ブランドの認知者(非飲用者を含む)は、どのようなイメージを各ブランドに持っているか
⇒各ブランドのイメージポジションの理解
2 各ブランドのロイヤルユーザー(主飲者)は、どのようなイメージを各ブランドに持っているか
⇒各ブランドの価値理解
2の“各ブランドの価値理解”とは、その名の通り、ブランド価値を理解することです。
ブランドの価値≒ロイヤルユーザーの持つブランドイメージとします(ここでは、ロイヤルユーザー≒主飲者としています)。ブランド主飲者の持つブランドイメージこそ、ブランドの価値と表しているためです。例えば、プレミアムビールの主飲者は「ご褒美」のイメージが高かった場合、プレミアムビールの価値は「ご褒美」となるわけです。
一方、“認知者の持つブランドイメージ”は主飲者ではないので、価値とまでは言えません。あくまでも、一般的な人に対して、ブランドがどう思われているかになります。
この一般的な人に対して、ブランド価値を伝われば、主飲者化する可能性があります。
そこで、各ブランド認知者の分析と、各ブランド主飲者の分析の違いを見て、各ブランドの主飲者化させる要因を探ります。
【<図3>各ブランド認知者 ※数値はダミー
【図4 各ブランド主飲者 ※数値はダミー】
図4の各ブランドの主飲者になると、「価格が手頃」だけでなく、「美容に良さそう」「栄養量が多い」といったものと近くなります。
つまり、自社ブランドは主飲者(図4)になると、図3の認知者では、ポジションの空いていた“健康美容と馴染み”をポジション獲得に成功していることが分かります。
したがって、これが主飲者にたらしめる要因と考えられ、ブランド非主飲者に対して、主飲者が感じている“健康美容”の価値を訴求することが次の一手になりそうです。
★コーヒーブレイク ~情報ロスについて~
本をイメージしてください。本の全文を要約すれば、情報量としては少なくなります。当たり前ですが、それが情報ロスです。
情報ロス自体が良いか悪いかについて質問を受けることが多いですが、情報ロス自体を良いか悪いかで考えてはいけません。
本を要約すること自体を、良いか悪いかでは考えないですよね。
それと同じで、要約することで情報ロスが起こる一方で、多くのメリットも享受できます。つまり、一長一短というわけです。
先程お伝えした“「本の全文(≒元のクロス集計表) 」と「本の要約文(≒コレスポンデンス分析の結果)」の両方を確認すること”が、要約による情報ロスを極力排除する行為なのです。
おわりに
以上がコレスポンデンス分析の説明になります。
本コラムでは、コレスポンデンス分析について説明しました。当社では、コレスポンデンス分析の実施から、更には分析結果の活用のご提案まで行っています。調査についてご興味のある方は、是非お気軽にお問合せください。
お問合せ:https://corp.neo-m.jp/