近年、事業や経営の改善に役立つ指標としてNPS®が注目され始めています。NPS®という言葉を初めて目にした方や、聞いたことはあるものの詳細は把握していないという方も多いのではないでしょうか。
今回は、NPS®の概要と具体的な分析方法、顧客満足度との違いなどを分かりやすく解説します。NPS®を活用した成功事例についても業界別に紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
NPS®︎(ネットプロモータースコア)とは?
はじめに、NPS®の概要を確認しておきましょう。顧客満足度(CS)やeNPS®との違いを明確にしておくことが大切です。
●NPS®の概要
NPS®(ネットプロモータースコア)とは、顧客ロイヤルティを測るための指標です。従来、企業やブランドに顧客がどの程度の愛着を感じているか、具体的に把握するのは困難とされてきました。愛着や信頼といった顧客の感情面に関わる指標は極めて定性的であり、数値化して測定するための分析手法が確立されていなかったのが実情です。
この問題を解決するNPS®を提唱したのは、アメリカに本社を構えるコンサルティング会社ベイン・アンドカンパニーです。家族や友人といった親しい人々に商品やサービス、それらを提供する企業・ブランドを勧めたいと思うか、推奨度をスコア化する手法として広く使われるようになりつつあります。実際、欧米の株式公開企業のうち3分の1以上がNPS®を活用しているともいわれています。
●顧客満足度(CS)との違い
NPS®とよく比較されるのが「顧客満足度(CS=Customer Satisfaction)」です。顧客満足度は、顧客が商品・サービスや企業・ブランドに対してどの程度満足しているかを表しています。ただし、「満足」の基準や度合いは人によって千差万別のため、顧客満足度が高いからといってリピート購入や顧客単価アップにつながるとは限りません。概念そのものが曖昧であり、業績伸長を実現するための指標として十分とはいえないという意見もあります。
一方、NPS®は業績との相関性が顧客満足度より高いとされています。そのため、NPS®は業績伸長につながる手がかりを得るための指標として、顧客満足度に代わり活用されつつあります。
しかしながら、NPS®も顧客満足度と同様に、不十分であるという意見もあります。
そのためネオマーケティングでは、NPS®に加えNRSという指標も同時に聴取することを推奨しています。
NRSとはどのような指標か、どのように調査を行うのか、興味のある方は下記記事をご覧ください。
>参考「NPSとNRSを合わせた顧客満足度調査とは?」
●eNPS®との違い
eNPS®とはEmployee Net Promoter Scoreを表しており、従業員エンゲージメントを測るための指標として用いられます。NPS®が顧客を対象としているのに対して、eNPS®が従業員を対象としている点が大きな違いです。
顧客ロイヤルティを向上させるには、顧客の要望に応えるきめ細かなサービスの提供が欠かせません。マニュアル化された定型的な対応だけでは、顧客ロイヤルティを高めるのは容易ではないでしょう。従業員が自身の担当業務を自分事として捉え、心を込めたサービスを提供することで顧客ロイヤルティが醸成されていくのです。従業員エンゲージメントは、顧客ロイヤルティを向上させていく上で重要な要素の1つといえるでしょう。
NPS®調査の種類
NPS®の調査には「トランザクション調査」と「リレーショナル調査」の2種類があります。各方法の特徴と、2種類の調査を使い分けるポイントを確認しておきましょう。
●トランザクション調査
トランザクション調査とは、顧客が商品・サービスを利用した直後に実施する調査のことです。顧客は今まさに利用体験を得たばかりのため、鮮明な記憶にもとづいて感想を述べられます。結果として、顧客体験を正確に把握することができるのです。
トランザクション調査は対面で実施することもあれば、Webサイト経由で実施することもあります。商品・サービスの提供形態に応じて、利用直後の体験を調査しやすい方法を選ぶのがポイントです。
●リレーショナル調査
リレーショナル調査とは、ブランドや企業イメージ全般に対する調査を指します。顧客によって商品・サービスの利用頻度や利用回数は異なるため、企業やブランドに対してどのような印象を抱いているのかを総合的に把握できる手法です。
実際、顧客ロイヤルティは商品・サービスを利用した瞬間の「点」では評価できない面もあります。顧客が抱くイメージや印象は、アフターサービスの対応や他の消費者によるレビューなどによって左右されるからです。総合的な顧客ロイヤルティを「線」で把握したい場合に適した調査方法といえるでしょう。
●2種類の調査を使い分けるポイント
トランザクション調査とリレーショナル調査は、どちらか片方を実施するだけでは取得できるデータが偏ってしまいます。前述の通り顧客の感情は常に揺れ動いているため、何らかのきっかけで顧客ロイヤルティが大きく変化する可能性も十分にあるからです。
2種類の調査を並行して実施することにより、どの時点での顧客体験がブランドイメージに影響を与えたのかをより正確に把握できます。トランザクション調査による「点」の評価と、リレーショナル調査による「線」の評価をバランスよく分析することが重要です。
NPS®の調査方法
NPS®の具体的な調査方法を紹介します。調査実施前の準備と、実施後の集計方法を押さえましょう。
●質問項目と10段階の回答を設定する
一般的に、NPS®調査では「この商品(サービス)を身近な人に紹介する可能性はどのくらいありますか?」といった質問項目を設けます。質問に対する回答は、0点~10点の11段階で設定しましょう。
- 推奨者(9~10点):高い満足度を得ている顧客層。継続的な購入が見込まれるため、売上伸長につながる可能性も高いと考えられる。
- 中立者(7~8点):商品・サービスを受動的に利用している顧客層。状況次第では他社商品に乗り換える可能性もあるため、サービス品質の向上が求められる。
- 批判者(0~6点):商品・サービスに不満を抱えている顧客層。企業・ブランドに対して否定的な顧客も含まれているため、不満の原因を分析して改善を図る必要がある。
●NPS®スコアを計算する
NPS®は次の計算式で算出します。
NPS®=(推奨者数-批判者数)/(回答者総数)×100
例)回答者200名・推奨者40名・批判者80名の場合
(40−80)/200×100=−20
9・10点と回答する推奨者よりも0〜6点と回答する批判者のほうが必然的に多くなることから、NPS®はマイナスとなるケースがほとんどです。スコアがマイナス=良くないというわけではない点に注意してください。
NPS®を調査・分析するメリット
NPS®の調査・分析を通じて、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。主な4つのメリットについて見ていきましょう。
●価格や品質に対する評価を判定できる
NPS®調査で設定する質問項目の大きな特徴として、「身近な人・親しい人に紹介する」ことが前提になっている点が挙げられます。友人や家族といったごく身近な人に商品・サービスを紹介する以上、多かれ少なかれ相手に対して責任を感じるものです。いい加減なものを紹介できないという心理が働くため、価格や品質に対するシビアな評価を得られます。
回答者の深層心理に訴えることで、無意識のうちに商品・サービスの評価を自分事と捉えてもらえることにより、正確な評価を得られることは、NPS®による調査・分析のメリットといえるでしょう。
●売上増強につながるヒントを得られる
NPS®は単発で実施するのではなく定期的に実施することにより、商品・サービスの改善点がどのように受容されているのかを把握できます。改善効果を客観的に示す指標を得ることで、売上増強につながるヒントを得られるでしょう。
●従業員のモチベーションにつながる
講じた施策が好意的に受け入れられていることがスコアに表れれば、普段は顧客と直接関わる機会の少ない部門の従業員にとって励みになります。このように、NPS®スコアは営業・販売担当者以外の従業員のモチベーション向上にも寄与するのです。
NPS®を活用する際の注意点
NPS®を活用する際に注意しておくべき点を紹介します。NPS®の意味や特徴を適切に把握し、効果的に活用していきましょう。
●NPS®スコアはマイナスになるのが一般的
NPS®のスコア区分は、推奨者よりも批判者のほうが多くなるように設定されています。必然的にスコアはマイナスになるケースが多いことを理解しておく必要があるでしょう。
とくに日本においては、中庸を好む国民性も相まって、中程度の評価を選ぶ人が多くなりがちです。10段階のうち「5」は批判者に属することから、全体として批判者が高い割合をしめやすい傾向があります。スコアがマイナスになったとしてもネガティブな捉え方をしないよう、事前に理解しておくことが大切です。
●定期的・継続的に測定する必要がある
NPS®は定期的・継続的に測定していくことで効果を発揮する調査・分析手法といえます。時系列のスコアから、マーケティング施策の妥当性や効果を判断できるからです。
裏を返すと、NPS®を実施する時期や頻度をあらかじめ計画しておくことが求められます。計画的にNPS®を測定していくことで、スコアの推移を把握しましょう。
●競合他社のスコアも併せて測定する
NPS®は定型の質問項目とシンプルな計算式で算出できることから、自社だけでなく競合他社の商品・サービスについても調査が可能です。自社商品について調査する際には、比較対象として競合他社のスコアも併せて測定しましょう。
自社と競合他社のスコアを同時に調査することで、業界内での相対的な立ち位置を把握できます。差別化戦略が功を奏しているかが、競合他社とのスコア比較によって明らかになるのです。
NPS®業界別ランキングに見る成功事例
NTTコムオンラインが2016年より実施している「NPS®業界別ランキング&アワード2022」の結果から、業界別の成功事例を紹介します。
部門 |
企業名 |
NPSスコア |
業界平均 |
ロイヤルティ/醸成ポイント |
通販化粧品 |
ハーバー研究所 |
-2.0pt |
-12.0pt |
効果・効能、使い心地の良さ |
アパレル・ECサイト |
MAGASEEK |
-13.7pt |
-20.1pt |
品揃えの良さ、形成情報の多さ・正確さ |
都市ガス(関東・中部・関西) |
東京ガス |
-34.8pt |
-48.7pt |
利用料金の適切さ |
ネットスーパー |
Amazon フレッシュ |
-6.2pt |
-14.3pt |
企業イメージの良さ、商品の探しやすさ |
ネット証券 |
SBI証券 |
-8.1pt |
-27.3pt |
取扱商品の豊富さ・魅力、コストパフォーマンス |
対面証券 |
野村證券 |
-48.1pt |
-53.9pt |
企業イメージの良さ、取扱商品の豊富さ・魅力 |
セキュリティソフト |
ESET |
-12.7pt |
-30.1pt |
防御率の高さ、機能の分かりやすさ、購入先の分かりやすさ |
QRコード決済 |
PayPay |
-24.5pt |
-38.2pt |
ポイントの使いやすさ、企業イメージの良さ |
MVNO・サブブランド |
IIJ mio |
-16.2pt |
-21.9pt |
データ通信の速度、通話品質 |
人材派遣(BtioB) |
マイナビワークス |
-18.4pt |
-35.3pt |
候補者提案の早さ、候補者提案の豊富さ |
クレジットカード |
JALカード |
-18.4pt |
-38.7pt |
会員向けイベントやキャンペーンの充実度 |
動画配信サービス |
Netflix |
-2.0pt |
-22.7pt |
オリジナルコンテンツの豊富さ・クオリティ |
銀行 |
ソニー銀行 |
-22.9pt |
-44.1pt |
お客様に寄り添う姿勢、企業イメージの良さ |
ダイレクト型損保 |
ソニー損保 |
-23.2pt |
-27.7pt |
お客様に寄り添う姿勢、安全運転の促進や交通事故防止の取組 |
代理店型自動車保険 |
東京海上日動 |
-41.1pt |
-44.5pt |
保険商品の魅力・充実度、お客様に寄り添う姿勢 |
プレステージ化粧品 |
日本ロレアル |
3.6pt |
-7.9pt |
効果・効能、使い心地の良さ |
電力(関東・関西) |
東京ガス |
-32.0pt |
-48.3pt |
企業の信頼性、サービスの信頼性/安定性 |
生命保険(アフターフォロー) |
ソニー生命 |
-35.1pt |
-46.7pt |
お客様を大切にする姿勢、プロとしての信用度 |
生命保険(請求体験調査) |
ソニー生命 |
-18.2pt |
-32.4pt |
請求から入金までの流れ、手順の分かりやすさ |
参考:https://www.nttcoms.com/service/nps/report/
まとめ
NPS®は顧客ロイヤルティを測るための指標として、日本国内でも導入・活用する企業が増えつつあります。有益なデータを低コストで得られるNPS®を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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