消費者に自社ブランドを「思い出してもらえる瞬間」をどれだけつくれるか。それは、すべてのブランドに共通するテーマです。
商品が売れない最大の理由は、「嫌われている」からではありません。「関心を持たれていない」からです。
だからこそ、“買わない理由”をなくすよりも、“買う理由”をつくることの方がずっと重要。
その“買う理由”を言語化したものこそが、カテゴリーエントリーポイント(CEP)です。
そもそもカテゴリーエントリーポイントとは?

カテゴリーエントリーポイント(CEP)とは、消費者が商品カテゴリーを思い浮かべるきっかけになる「状況」や「目的」のこと。
たとえば、
「集中したいとき」→ エナジードリンク
「疲れて癒されたいとき」→ バスソルト
「仕事を頑張ったご褒美に」→ ハーゲンダッツ

この “〇〇したいときに△△” という連想がカテゴリーエントリーポイント(CEP)です。
思い出してもらえなければ、検討リストにすら入らず、当然選ばれる可能性は低くなります。
だからこそ、「どんな瞬間に、なぜ自社ブランドを思い出してもらいたいのか」を設計することが、マーケティング戦略の出発点になります。
なぜ「みつける」だけでは不十分なのか?
多くの場合、既に存在しているカテゴリーエントリーポイント(CEP)を調査や定性分析で“みつける”ことに注力します。もちろんその視点も大切です。
けれど、既存に乗るだけでは、競合と同じ土俵で争うことになりがちです。
特にコモディティ化した市場やシェアの小さいブランドにとっては、想起されるチャンスすら得にくい。だからこそ必要なのが、カテゴリーエントリーポイント(CEP)を“創る”という視点です。
まだ顕在化していないニーズや、隠れた感情のトリガー、見過ごされている使用シーンに光を当て、 「この瞬間には、このブランドだ」と思い出してもらえる文脈を設計することが求められます。
どうやって創るのか?(3つのアプローチ)

1.パーセプションを変える(価値の再定義)
たとえば、
「冷凍食品=手抜き」というイメージを
「冷凍食品=手間を省く賢い選択」に変えた、味の素の「手間抜き」戦略。
“ネガティブな認識”を“前向きな選択肢”に変えることで、新しい使われ方や、選ばれる状況が生まれます。
2. 新しい使用シーンを提案する(用途の拡張)
例:
「ラムネ=子どものお菓子」だったものを、
「大人の集中力チャージアイテム」として再解釈。
SNSで広がった“ブドウ糖で仕事に集中できる”という生活者の声をもとに、森永製菓は「大粒ラムネ」を発売。
新たなカテゴリーエントリーポイント(CEP)=「働く大人のデスク横のお供」を創り出しました。
3.独自価値を“CEP化”する(YOLUの事例)
ヘアケアブランドのYOLU(ヨル)は、「夜用シャンプー」としての機能訴求ではなく、
“一日の終わりに、心と髪を整える時間”
というナイトケア文脈での想起=カテゴリーエントリーポイント(CEP)をつくり出しました。
香りや保湿成分、低刺激設計といった製品特長を、“眠る前にストレスをリセットする”というシーンに結びつけることで、「夜にYOLUを使う理由」を消費者の中に根付かせたのです。
「カテゴリーエントリーポイントを創る」とは、戦略を再定義すること
カテゴリーエントリーポイント(CEP)を創ることは、単なるプロモーションではなく、ポジショニングとターゲティングの再設計でもあります。
- 誰の
- どんな未充足ニーズに
- どんな場面で応えるのか?
この「Why Me?」の答えを描き切ることで、ブランドは“想起される理由”を獲得できます。
おわりに:想起はつくれる
これからのブランド成長に必要なのは、「買われる状況を見つける」よりも、「買いたくなる状況をつくる」という発想です。
消費者の中にある「本当はこうだったらいいのに…」という小さな声に目を向けて、新しい視点や使い方、価値観を提示できたとき、その場面そのものがカテゴリーエントリーポイント(CEP)として機能しはじめます。
補足:想起を創るための“視点”
カテゴリーエントリーポイント(CEP)を創るうえでの思考補助線として、次のようなアプローチも役立ちます。
- 潜在的諦め™:すでに“仕方ない”とあきらめられている未充足ニーズに光を当てる
- インサイトドリブン®:本人も気づいていない感情・動機から逆算する
- 共感ドミノ®:たった1人の「わかる…!」から始めて、共感の連鎖を広げる
これらはすべて、想起される文脈を生活者の心の中から発見・設計する技術です。
“選ばれる理由”は、もっと創れる。そう信じて、問いを続けていきたいと思います。