商品やサービスの販売時に重要なポイントとなる意思決定の1つに「価格設定」が挙げられます。高すぎると購入を踏みとどまる消費者が増える一方で、安すぎても信頼を失ってしまう可能性があるからです。
今回は、適正価格を調査するための手法である「PSM分析」について解説します。PSM分析の活用法やメリット・デメリットのほか、具体的な進め方が分かるはずです。PSM分析を効果的に活用するためのポイントにも触れていますので、ぜひ参考にしてください。
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PSM分析とは
はじめに、PSM分析の概要と適正価格の調査方法について見ていきましょう。同じく価格に関する調査で用いられるCVM分析との違いを押さえておくことが大切です。
●価格受容性調査の一手法
PSMとはPrice Sensitivity Measurementの略で、価格感度測定と訳されます。より大きな括りでは受容性調査の手法の1つです。
受容性調査とは、商品やサービスに消費者がどのようなイメージを抱いているか調査する手法を指します。その中で、商品やサービスの価格に対して行われるのが価格受容性調査と捉えてください。
価格がイメージよりも安いことは好印象につながりますが、安すぎると消費者は不安を抱く傾向があります。反対に、イメージよりも高いと感じれば購入を躊躇するでしょう。下図のように、消費者が商品の価格に対して抱くイメージを調査するのがPSM分析の主な目的です。
PSM分析の軸となる4つの価格
PSM分析では、4つの価格を軸に適正価格を割り出していきます。4つの価格とは、最低品質保証価格(下限価格)・最高価格(上限価格)・妥協価格・理想価格です。
- 最低品質保証価格/下限価格:消費者が品質面に疑念を抱く下限の価格
- 最高価格/上限価格:それ以上高いと消費者が購入したがらない価格
- 妥協価格:消費者が購入してもよいと感じる価格
- 理想価格:消費者が理想とする購入価格
一般的に、最も購入者が増加しやすいのは「理想価格」といわれています。消費者が不満を抱きにくいことから、理想価格にできるだけ近づけることが大切です。一方で、理想価格はあくまでも消費者にとっての理想であることから、コストや販売数を考慮して価格を設定する必要があります。
●CVM分析殿違い
価格受容性調査には、PSM分析のほかにCVM分析があります。価格に関する分析手法という点は共通していますが、調査の目的が異なる点に注意してください。
PSM分析は、消費者が許容できる価格を探ることを目的としています。消費者にとって高すぎず安すぎない価格帯を明らかにし、適正価格を設定するために用いられる手法です。
一方、CVM分析は設定した価格で期待できる購入率を分析する際に用いられます。価格の違いによって購入率がどのように変化するかを想定することで、売上予測を立てやすくすることが主な目的です。
・CVM分析の設問例
Q:この商品が100円だとしたら、購入したいと思いますか?
はい ➡150円だとしたら、購入したいと思いますか?
いいえ➡50円だとしたら、購入したいと思いますか?
・CVM分析のアウトプット例
PSM分析の活用方法
PSM分析によって割り出される適正価格は、具体的にどのようなシーンで活用できるのでしょうか。商品・サービスに対して消費者がイメージする価格帯を調査しておくことは、次のようなシーンで役立ちます。
●割引キャンペーンの価格設定
割引キャンペーンでは通常価格よりも安い価格を提示しますが、価格を下げすぎると安っぽい印象を与えかねません。ほどよくお得なイメージを抱いてもらい、品質面への信頼を損なわないように注意する必要があります。
キャンペーン期間中の価格を設定する際には、最低品質保証価格(下限価格)を参考にするとよいでしょう。最低品質保証価格を下回らない価格設定にすることで、適度な範囲でお得感を演出できるはずです。
●地域別の価格設定
商品・サービスによっては、地域の状況に合わせて価格を変える場合があります。需要が高い地域では価格をできるだけ上げ、競合商品が強い地域では価格をできるだけ下げることで、売上と収益のバランスを保つことが大切です。
需要が高い地域であっても、最高価格を超える価格設定はすべきではありません。競合商品が強い地域でも、最低品質保証価格を下回ればかえって不信感を招く恐れがあります。価格の変動可能域を明確にしておくことで、適切な価格設定がしやすくなるでしょう。
●スキミングプライス戦略
商品・サービスを新たに市場へ投入する際、導入期にあえて高価格に設定し、高い収益力を確保する手法をスキミングプライス戦略といいます。商品・サービスが市場に浸透するとともに価格を下げることで、不要な安売りを防ぐための戦略と捉えてください。
当初は高価格に設定するとはいえ、最高価格を上回る価格設定は避けるべきでしょう。また、価格を徐々に下げていく際にも、できるだけ理想価格に近づくよう調整することが大切です。時期に応じて適切な価格設定を見極める際に、PSM分析が活用されることがあります。
●ブランディング戦略
ブランド独自の価値観や世界観を打ち出すことで、平均よりも高価格帯での販売を可能にするための戦略です。商品・サービスの特徴や機能性が横並びになりやすい昨今は、とくに重要な戦略として位置づけられるケースが少なくありません。
平均よりも高価格帯で販売することが狙いとはいえ、妥協価格との兼ね合いは慎重に考慮する必要があります。妥協価格以上・最高価格未満の価格設定を意識することにより、消費者に特別感やステータス感を味わってもらえるでしょう。
PSM分析のメリット
PSM分析を行うことで、具体的にどのようなメリットを得られるのでしょうか。簡単なアンケート調査と集計のみで適正価格を割り出せるPSM分析には、主に次の利点があります。
●一般的なアンケートよりも精度が高い
一般的なアンケートで商品・サービスの価格をたずねた場合、消費者は「この価格なら買う」と安易に回答しやすいといわれています。アンケートで「買う」と回答したからといって、実際にその商品を購入するわけではないからです。
PSM分析では、アンケートの回答内容と実際の顧客行動の乖離を緩和するために、次の4項目の質問を設けています。
- いくらから「高い」と感じますか?
- いくらから「安い」と感じますか?
- いくらだと「高すぎて買えない」と感じますか?
- いくらだと「安すぎて買いたくない」と感じますか?
回答者は「高い」「安い」という感覚を4つの視点から捉えることになるため、実際の購買行動と比較的ずれが少ない結果が得られるのです。
●消費者の視点で適正価格を算出できる
PSM分析の大きな特徴として、消費者にとっての適正価格を割り出せる点が挙げられます。あくまでも消費者の視点で「高い」「安い」という判断をするため、販売者側の意図や願望が混在しにくいのです。
適正価格を判断する際の大敵は、「できればこの価格よりも下げたくない」「この価格なら買ってくれるはずだ」といった、売り手側の先入観でしょう。販売に至るまでの苦労を知っているからこそ、フラットな視点で価格を決定するのが難しくなりがちです。販売者側の先入観を排し、消費者の視点で適正価格を算出できることはPSM分析を活用するメリットといえます。
●客観性のある価格設定に役立つ
商品やサービスの価格設定は、競合他社の類似商品の価格帯を参考にするほか、経験則や感覚で決定されるケースも少なくないのが実情です。結果として消費者の感覚との間にずれが生じたり、実際に販売を始めてから値下げに踏み切らざるを得なかったりする事態に陥りがちです。
感覚に頼らないデータドリブンの価格設定をするには、客観性のあるデータが欠かせません。PSM分析を通じて得られた結果は、消費者の感じ方や印象を反映したものです。根拠にもとづいて価格設定をする上で、PSM分析の結果が役立つでしょう。
●調査方法や結果分析がシンプル
調査方法や結果分析がシンプルで、統計学などの専門知識を必要としないこともPSM分析のメリットといえます。PSM分析を行うにあたって用意すべきものは、4種類の質問項目を記載したアンケートと集計表のみです。集計も決して複雑ではなく、エクセルを活用すれば前掲のようなグラフを作成するのは決して難しいことではありません。
社内にデータ分析の知見を持つ人材がいない場合も、PSM分析であれば自社で調査・分析までを完結させられるでしょう。高度な専門知識を駆使することなく、適正価格をシンプルに算出できることがPSM分析の強みです。
PSM分析のデメリット
PSM分析は手軽に活用できる分析方法ですが、デメリットとなりかねない面も持ち合わせています。具体的には、次に挙げる5つのデメリットとそれぞれの対策を理解した上で活用していくことが大切です。
●導き出される適正価格はあくまでも仮説
PSM分析で導き出されるのは、あくまでも理論上の適正価格です。実際に市場で受け入れられる価格設定かどうか、検証を経て算出したわけではありません。したがって、PSM分析によって算出した価格に設定したからといって、現実の市場では通用しないこともあり得るのです。
PSM分析で得た仮説を実証するには、テスト販売などを通じて市場の反応を確認する必要があるでしょう。PSM分析の結果だけを頼りに価格設定を判断するのはリスクがあることを理解しておかなければなりません。
●非現実的な価格が導き出されることがある
PSM分析で算出した価格帯は、アンケート回答者の印象や感じ方を反映した数字です。買う側の受け止め方のみを反映しているため、製造原価や販売原価などは当然ながら考慮されていません。また、「いくらなら高い/安いと感じますか」という聞き方をしているため、どうしても「いまは欲しくない」「お金が無い」といった回答者自身の主観が回答結果に影響を与えてしまいます。
原価割れする価格が算出結果に表れたら、より魅力的な商品・サービスとして消費者に映るよう工夫が求められていると受け止めるべきでしょう。原価に見合う付加価値を実感してもらえるよう、商品・サービスの打ち出し方やアピールの切り口を再検討する余地があるという証しなのです。また、回答者自身の主観を極力排除するには、設問設計に工夫をする必要があります。
ネオマーケティングでは、これらの要因で非現実的な調査結果になることを防ぐことができるように、独自で調査設計をした価格受容性調査をサービス提供しています。ご興味のある方は、下記ページをご覧ください。
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●実際に販売した場合の結果は予測できない
PSM分析では消費者が受ける印象と実際の購買行動の乖離を軽減する工夫がなされているとはいえ、実際に販売した場合の結果を言い当てることはできません。最低品質保証価格と最高価格の範囲内で、どの価格に設定したらどれだけの売上や販売数が期待できるのか、予測を立てるのは困難です。
予測を立てたい場合には、CVM分析を組み合わせてテスト販売を実施するなど、PSM分析の結果を検証するための工夫が求められるでしょう。PSM分析で得られた結果から、販売開始後の売れ行きを予測できるかのように錯覚しないよう注意してください。
●調査実施時の質問の仕方に注意が必要
アンケート調査を実施する際の質問の仕方によって、印象が大きく変わることはめずらしくありません。質問文によって回答にバイアスを発生させることは珍しくありません
調査実施時には、調査員全員の意思統一を図ることが求められます。必要に応じてマニュアルを作成し、質問の仕方を統一するなど、調査員ごとに印象が大きく変わることのないよう工夫することが大切です。
●調査対象が偏る可能性がある
調査対象の選び方によっては、調査結果が偏ってしまう可能性があります。たとえば、対象商品にそもそもまったく興味がなく、今後も購入する可能性がない人が多く含まれていれば、他人事のような回答しか得られないでしょう。調査対象の年齢や生活圏が偏らないようにすることは重要ですが、反対に販売対象とかけ離れたサンプルばかりを選んでしまうと分析の精度が下がってしまいます。
PSM分析に向けた調査段階では、実際の販売対象にできるだけ近いサンプルを選ぶことが大切です。調査を実施する場所や時間帯、対象者の選び方などを事前に共有しておく必要があるでしょう。
PSM分析の進め方
PSM分析の具体的な進め方を紹介します。PSM分析のやり方は決して難しいものではありませんが、基本的な手順を把握した上で着実に実行していくことが重要です。次に挙げる4つのステップに沿ってPSM分析を進めましょう。
①質問項目を設定し、調査票を作成する
前述の通り、PSM分析に必要な回答を得るための質問は4つです。質問項目を調査票に落とし込み、アンケート用紙を準備しましょう。
【アンケート調査票の作成例】
- 質問1:この商品を買う場合、いくらだと「高い」と感じますか? ___円
- 質問2:この商品を買う場合、いくらだと「安い」と感じますか? ___円
- 質問3:この商品がいくらだと「高すぎて買えない」と感じますか? ___円
- 質問4:この商品がいくらだと「安すぎて不安」と感じますか? ___円
回答を選択式にする方法もありますが、先入観を与えないようにするには自由記述式のほうが適しています。上記の作成例を参考に、アンケート用紙を作成してください。
②調査を実施する
次に、商品画像や商品説明など、「どのような商品なのか」が分かる情報を提示した上でアンケートに回答してもらいます。回答者を選ぶ際には、実際に商品を買ってほしいターゲット層などをスクリーニング調査で抽出することが大切です。ターゲットとかけ離れた層は除外できるよう、「商品カテゴリーの使用頻度/支出額」といった情報を事前に確認しておくとよいでしょう。
③調査結果を集計する
調査が完了したら、調査結果の集計に移ります。エクセルで累積度数分布表を作成し、調査結果を可視化しましょう。
【Excelで使用する関数の例】
COUNTIF(範囲,検索条件)/COUNT(範囲)
- 範囲:該当するアンケート項目のデータを指定
- 検索条件:〇〇円以上または以下を指定(例:1,000円以上の場合は「”>=”&1,000」)
上記の関数によって、全体のデータ数に対する該当するデータ数の割合を算出できます。商材の価格帯に応じて100円刻み・50円刻みなど、適切な検索条件を設定しましょう。
すべての回答が集計できたら、集計表を全選択して折れ線グラフを表示させます。縦軸には消費者の割合、横軸には価格帯を指定する点に注意してください。
【PSM分析の集計グラフ】
④許容可能価格帯の範囲内で価格を決定する
作成したグラフの交点から、次の価格をそれぞれ確認します。
- 最低品質保証価格:「安すぎて買えない」と「高いと感じる」の交点
- 最高価格:「高すぎて買えない」と「安いと感じる」の交点
- 妥協価格:「高いと感じる」と「安いと感じる」の交点
- 理想価格:「高すぎて買えない」と「安すぎて不安」の交点
一般的には、最低品質価格と最高価格の範囲内が適正価格と考えます。妥協価格と理想価格を参考にしつつ、製造コストや販売コストも加味して価格を決定しましょう。
PSM分析を実施する際のポイント
PSM分析を実施する際に、いくつか押さえておきたいポイントがあります。次に挙げる2点を意識して、PSM分析の効果を最大限に引き出してください。
●価格の相場をある程度把握している層を調査対象とする
調査対象となる人が商品の相場をまったく把握していない場合、PSM分析の精度が下がる恐れがあります。調査する商品カテゴリーを購入した経験が一度もない人や、購入を検討したことがない人は調査対象から除外するほうが望ましいでしょう。
調査に先立ち、対象商品の購入頻度や購入経験について簡単にヒアリングを行うなど、相場の認知度をチェックしておくことが大切です。明らかに相場を把握していない様子であれば、調査対象から外すことを調査員にあらかじめ徹底してください。
●商品やサービスの特徴や仕様を詳しく伝える
商品やサービスの価格を具体的にイメージしてもらうには、該当商品の特徴や仕様をできるだけ詳しく伝えることが大切です。素材や大きさ、機能性といった特徴をまとめた商品紹介パンフレットなどを用意するか、可能であれば実物を見てもらうとよいでしょう。
実際に見たことがある商品・サービスかどうかは、回答の精度に大きく影響します。見聞きした情報のみにもとづいて回答した場合、自分自身が商品・サービスを利用している姿をイメージしにくいからです。実感を伴った回答を得るためにも、商品やサービスの特徴や仕様をきちんと伝えておくことを徹底してください。
まとめ
PSM分析は、消費者が商品・サービスの価格をどう捉えているのかを知る上で有効な分析手法です。価格設定に客観性がもたらされ、感覚や先入観にもとづく決定を回避しやすくなります。
一方で、PSM分析は決して万能な分析手法ではありません。PSM分析のメリット・デメリットや調査時の注意点を把握しておくことが大切です。今回紹介したポイントや注意点を参考に、ぜひPSM分析を価格設定に有効活用してください。
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