ビジネス・マーケティングで重要な認知バイアスの種類
ビジネス、マーケティング分野において身近な認知バイアスには、数多くの種類が存在します。
バイアス=悪というわけではなく、人間の心理を利用したマーケティングに利用できるという方法も。
こちらでは各バイアスの特徴と共に、対策やマーケティングに使用するアイディアをご紹介します。
アンカリング効果(Anchoring Effect)
アンカリング効果効果とは、最初に情報や数字を与えることで相手の判断に影響させるという認知バイアスの一種です。
その代表的な使用例が「割引」。
「定価10,000円のところ、今週末まで限定特価6,000円!」というように、最初に提示した価格よりも安い数字を表示させることで、消費者の購買欲を刺激するという定番のマーケティング手法です。
ただ、こうした二重価格表示はやりすぎは厳禁。
消費者庁からガイドラインが発表されているので、順守しましょう。
ハロー効果(Halo Effect)
ハロー効果とは、ひとつの優れた成績/才能を持つ人の事を総合的に高く評価したり、賛美してしまう認知バイアスのことです。
過大評価と訳されることも多いですが、過大評価には「本来はその価値がないのに高く評価されている」という意味もあり、優れた1つのことで他のことについても総合的に高く評価されるハロー効果の役としては必ずしも正確ではありません。
音楽界、お笑い界などで人気の高い人が専門性の高い他分野についての発言をして評価されたり、プロダクトの品質ではなく企業の知名度で判断するなど、総合的に優れていると判断する行為をポジティブハロー効果と言います。
反対に、炎上やスキャンダルなどで企業全体のダメージが下がるなど、悪いイメージがついてしまうことはネガティブハロー効果と呼ばれます。
マーケティング、ブランディングによく利用されるハロー効果ですが、知名度や名声、好感度を利用するだけにト
ラブル発生時には弱く、リスクヘッジも並行して力を入れておく必要があります。
バンドワゴン効果(bandwagon effect)
バンドワゴン効果は、「流行に乗りたい」という理由で需要が増える消費者の動きを意味します。
バンドワゴンとは、パレードなどで使われる楽隊(バンド)を乗せて飾り立てた大きな車のことで、「人気」「流行」の代名詞として使われます。
つまり、プロダクトやサービスそのものでなく、「流行っている」ことそのものがニーズ拡大するということで、「〇〇でも大人気!」「〇〇年ベスト売上!」などのコピーを付ける方法や、インフルエンサーマーケティングなどが代表的です。
投資や政治などでもこのバンドワゴン効果が働くとされますが、
・ファンコミュニティが排他的にならないように風通しを良くする
・信頼性の高い数字や業績を用いる
といった点に注意すべきでしょう。
確証バイアス(confirmation bias)
確証バイアスは自分の意見や仮説が正しいことを証明したいがために、偏った情報を優先してしまうこと。
確証バイアスが効いた状態だと客観的にデータを集めたり、反証することができず自分に都合の良い情報にしか目が行かなくなってしまうので、マーケティング分析をする際は特に気を付ける必要があります。
対策としては、調査結果に偏りが出ないように対象を狭めないこと、複数人体制で調査をすることなどが挙げられます。
一方、確証バイアスをマーケティング広告に用いることもあります。
不特定多数に向けたディスプレイ広告や、サイト訪問者をターゲットにしたリターゲティング広告もこの確証バイアスも利用した方法とされます。
内集団バイアス(in-group favoritism, in-group bias)
内集団バイアスは、人が持つ帰属意識がもたらすバイアスです。
自分が所属している集団や組織、またはかつて所属していた集団を他の集団よりも高く評価することを意味します。
現在広がっているファンコミュニティの
ただ、内集団バイアスが行き過ぎると外の集団に対して攻撃的になったり、差別的な考えを持つことも少なくないのでバランス感覚には注意しましょう。
帰属意識や仲間意識を刺激するためには、共通項の提示や共有が有効だとされます。
• 好きな物
• コンプレックス
• 悩み
などが、共感を呼びやすいトピックスとして使用されることが多いようです。
ただ、あまりニッチすぎるとアプローチできる層が狭まるので、用いる表現やカテゴリーはある程度大きくするとよいでしょう。(例:夏なので〇〇kg痩せたい→夏で露出が増えるのですっきりさせたい)
コンコルド効果(Concorde Effect)/サンクコスト(sunk cost effect)
コンコルド効果とは、「損失が予想される(あるいは収益が見込めない)のに、これまで投資した分が無駄になるのを恐れて投資を続ける」という心理を意味します。
語源となったコンコルドとは、イギリスとフランスの企業が共同開発した超音速旅客機のことです。
唯一の超音速旅客機という特徴はあったものの、燃費が悪く一度あたりの定員数も少ない上に、2000年代初頭の飛行機事故や911の影響で航空業界全体が低迷。
膨大な開発費とメンテナンス費用が回収できないまま引退することにりました。
コンコルド効果が現れやすいのは、ギャンブル性の高いものです。
競馬などギャンブルビジネスだけでなく、投資や課金するゲームなどが例として挙げられます。
マーケティングにおいては、
• 利用金額や継続期間でランク付けされた会員制度
• 毎月1つのパーツを付録にして定期購読させる雑誌(パートワーク誌)
などでコンコルド効果が用いられています。
しかし、コンコルド効果に注意すべきなのは企業も同じ。
回収見込みのない事業を無理やり続けたり、無謀な拡大を行って会社に打撃を与えることは、どんな分野でも起こり得るリスクです。
意味のない損益を可能な限り減らすためには、
• 計画時の綿密な試算
• 定期的な見直し
• 客観的な視点からの分析
などが有効だと考えられます。
正常化バイアス(Normalcy bias)
正常化バイアスは、不測の事態が発生した時に「大したことはない」「自分は大丈夫」と思いこんでしまう認知行動です。
強いストレスから心を守るための行動でもあるのですが、正常化バイアスは特に企業が気を付けた方がいい認知バイアスと言えます。
例えば、
・仕事で大きなトラブルがあった
・大きな案件がなくなった
・アンケートや分析の結果が想定よりも悪かった
などのシチュエーションで正常化バイアスが働きやすくなる可能性があります。
正常化バイアスが働いたまま事業を継続していると事態が悪化する恐れがあるので、不測の事態にも適切な対応ができるよう平時から複数のシナリオを用意しておきましょう。
後知恵バイアス(Hindsight bias)
後知恵バイアスは、事前に予想していなかったにも関わらず何かが起こった後で「そうなると思った」「予測できていた」とする心理のことです。
流行したものに対しての評価、スポーツの試合など。
マーケティングにおいてこの後知恵バイアスが働くと、アンケート調査の結果や分析データをきちんと把握できず、その後の戦略にも影響が出かねません。
どんな内容の調査でも軽んじず、結果や数字をきちんとまとめることが大切です。
ピーク・エンドの法則(peak end rule)
ピーク・エンドの法則は、ある出来事についての印象が「ピーク(最も盛り上がる場面)」「エンド(最後の場面)」で決められるという認知バイアスです。
この法則を提唱した行動経済学者のダニエル・カーネマンが、以下の内容の実験を行ったことに由来します。
A:冷水に60秒間ずっと手を入れる
B:冷水に60秒間、若干温度が上がったが冷たい水に30秒の計90秒間手を入れている
結果的に冷水に手を入れている時間が長いのはBなのですが、被験者の8割以上が「再度経験するならBを選ぶ」と答えました。
つまり最後が良ければ、その事象全体に対する印象が良くなるのですね。
実店舗での接客で重視されていた考えですが、近年注目されているECサービスの多くが、このピーク・エンドの法則を取り入ていると考えられます。
たとえば、ブランドを知る→ストーリーや世界観に共感する(ピーク)→購入→購入後のサポートや製品についての積極的なコミュニケーション、SNSを通じてブランドのファンが繋がる(エンド)といった流れです。
マーケティングでピーク・エンドの法則を取り入れるなら、顧客満足度を高めるためにピークとエンドをどこにもっていくか、どんな内容にするかをよく吟味する必要があるでしょう。
アポフェニア(apophenia)
アポフェニアは、少ないサンプルや一部の意見と結果に規則性を見出してしまう作用のことです。
新書や実用書のタイトルで用いられることが多く、たとえば学業やスポーツで立派な成績を残した親の子育て論や、1~2例程度を根拠にした極端なビジネス論などが例として挙げられます。
マーケティングとしてあえてそこを狙うなら良いのですが、ビジネスにおいてはアポフェニアのように少ないサンプル数を一般化させるのは危険です。
確率論や統計学の基礎知識を学ぶことで、アポフェニアに陥ることが避けられると考えられます。
因果関係と相関関係の混同
因果関係と相関関係の混同とは、複数の要素に因果関係があると思いこむ認知バイアスです。
因果関係とは、「原因と結果だと明確に分かっている事柄」を指します。
一方、相関関係は「ひとつが変化すると、同じように変化する2つの事柄」という意味。
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、
「アイスの売上が伸びたのは気温が高くなったから」は、原因と結果が結びついているので因果関係を意味します。
「気温が高くなって、アイスの売上も伸びた」という場合は、2つの事象が同じように変化して原因を特定していないので相関関係です。
相関関係がある事象が因果関係である、とは限らないという事を念頭に置いてマーケティングに取り組まねばなりません。
まったく関係がなく、異なった原因であっても関連しているように見えることもあるので、「因果関係がある」と早合点しないように多角的な視点でデータを分析するよう心がけましょう。