「なんのために自社でInstagramを運用しているのか?」と考えると、さまざまな答えはありますが、最終的には「売上」や「利益」を求めての施策となることも多いでしょう。
ブランドの認知向上、ブランドイメージの発信、ロイヤリティの向上、新規顧客の開拓、エントリー、アップセル…。いろいろなKGIの捉え方はありますが、究極的に言ってしまえば「For Profit(利益のため)」につながっていくのが、多くの企業にとって一般的な在り方となるでしょう。
また、営利企業ではないNPO法人等であっても、寄付受けや支援のお願い、署名のお願いなど、ユーザーに「何か行動を起こしてもらうこと」が、Instagram運用の目的となる場面も生じるはずです。しかし現実には、Instagram運営に力を注いでいても、なかなか成果につながらないケースも多くなります。
「なかなか売上につながらない」
「呼びかけて応えてもらえない」
「思ったほどの成果にならない」
こうした問題の原因は何か、そしてどう対策すればよいのか、今回はこのテーマで解説をお届けしていきます。
Instagramはパーソナルな社交場!「売り感」は敬遠されがち
まず認識しておきたいのは、Instagramが「どのような場であるか」ということです。
Instagramには2019年時点で3300万人のユーザーがいますが、この人々は一体何を目的に利用しているのでしょうか。その答えは、決して「企業の宣伝を見るため」ではないはずです。Instagramは、SNS=ソーシャルネットワーキングサービスです。その言葉の通り、ある種の「人と人との交流の場」と言えます。
■社交パーティの会場で、企業の宣伝をしていたら、人々からどう思われるか?
社交パーティの場面を想像してみましょう。それほど格式は高くなく、ドレスコードも緩やかです。たくさんの人々が集まり、グラスを手に、ところどころで談笑に花を咲かせています。さて、そうした社交パーティに、大きな宣伝パネルを持ってきて、「みなさん見てください!これが弊社の新製品!どうです?すごいでしょう!今ならお値段たったの〇万円!ご購入はこちらから!さあさあ、どうぞお気軽に!」
…大ひんしゅくを買ってしまいますよね。
こうして想像すれば、「Instagramでは”売り感”が敬遠されがち」という感覚も、把握しやすいかと思います。Instagramも、「人と人との交流の場」だからです。
■ 売り感を出した途端に、フォロワーが一気に去ってしまうことも
残念なケースとして、「売り感」を出した途端に、せっかく集まったフォロワーが一気に去ってしまう場合もあります。
「フォロワーが増えたから次は販売だ」と意気込んでセールスやキャンペーンを展開したら、それまで順調に増えていたフォロワーの気持ちが一気に冷め、アカウントから離れていってしまう現象です。
この現象の正体は、ユーザー目線に立ってみれば明らかです。そのアカウントに集まっていたユーザーは、「宣伝やセールス情報を見たいわけではなかった」ということでしょう。どれだけ魅力的なコンテンツが豊富に揃っていても、セールスという「期待していない情報」が入るようになれば、すぐに見切りをつけてフォローを外してしまいます。
SNS広告の基礎については、こちらのショートウェビナ―動画をご覧ください。
それでもInstagram運用は、売上に貢献できる!重要になるマーケティングの考え方
こうして考えると、「せっかくInstagramを自社で運用しても、セールスに結びつけるのが難しいのであれば、SNSなんて運用しなくても良いのでは?」という考え方もあります。
しかし、「Instagramで直接的に売り込みを掛けること」が難しいのであって、「Instagram運用が売上に貢献しない」わけではありません。
それでは、「直接的に売り込むこと」と「売上に貢献すること」の違いは何でしょうか?
この観点を捉える上で重要になるのが、“カスタマージャーニーマップ”というマーケティングの考え方です。
■カスタマージャーニーマップとは
カスタマージャーニーマップとは、一人の消費者が製品やブランドを知ってから購入に至るまでの一連の消費者体験を俯瞰して捉える、マーケティングの考え方の一つで、すでに取り入れている企業も多いでしょう。しかし、そのカスタマージャーニー、どの程度創りこめているか、自信はあるでしょうか。
多くの消費者は、製品やサービスについて、認知してすぐさま購入を決意するわけではありません。以下のように段階を踏みながら、購買意欲を高めつつ行動していきます。
■認知する>興味関心を持つ>比較検討する>購入する
実際には業態や業種により異なりますが、大きく捉えれば、上記のような各段階があると考えて良いでしょう。たとえば、「テレビCMを見て製品を認知し、SNSで口コミを調べて興味関心を深め、レビューサイトを閲覧して比較検討を行い、ECサイトから購入する」といった流れです。
実際にはより詳細かつ具体的に、ユーザーが各段階でどのような考えを持つか、どういった気持ちになるか…といったことを実際のユーザーの行動、心理を理解したうえで作成します。こうして一連の顧客体験をデザインすることで、広報宣伝・流通・販売などの施策の精度を高め、顧客満足度の向上や売上アップを実現していく考え方が、カスタマージャーニーマップの根底にあります。
カスタマージャーニーマップがうまく機能していないケースに、運用担当者やマーケターが想像するカスタマージャーニーマップを作成してしまっていることがあります。その状態では、ユーザーの実態を正しく反映しているとはいえず、うまくいかなかった際も、マップに問題があるのか、コミュニケーションに問題があるのか、検証することもできません。カスタマージャーニーは、実際のユーザーの行動、心理の正しい理解をもとに創りあげる必要があります。
■自社のInstagramをカスタマージャーニーマップのどこに位置付けるか
それでは、Instagram運用の話に戻りましょう。
自社のInstagramアカウントを、売上などの成果につなげていくためには、「アカウントをカスタマージャーニーマップのどこに位置付けるか」と考えることが重要になります。
たとえば、比較的よくあるケースが、アカウントを「認知」の段階に位置付けるパターンです。「ブランドの認知拡大」を意識してInstagramを運用していけば、そのアカウントに集まるフォロワーも、カスタマージャーニーマップの一番最初である、「認知」の段階にいるユーザーが多くなるでしょう。では、この「認知」段階のフォロワーが多いアカウントで、積極的なセールスを展開した場合、何が生じるでしょうか。
多くのユーザーは、まだカスタマージャーニーマップの一番最初の「認知」段階にいます。そうしたユーザーに「購入」を促しても、ユーザーから見れば、唐突な印象になってしまうでしょう。「認知」と「購入」の間にあるべき「興味関心を持つ」「比較検討をする」といったステップが飛ばされてしまうためです。このように、自社アカウントをカスタマージャーニーマップに位置付けていないと、購入を促しても顧客は“置いてけぼり”にされてしまいます。
「まずはたくさんの人に自社ブランドを知ってもらおう」(認知)
「たくさんのフォロワーが集まったから、製品やサービスを売り込もう」(購入の促進)
という考え方では、顧客体験の流れがつながっていないためです。
カスタマージャーニーマップが適切に設計されていれば、Instagramアカウントも売上に貢献できる
逆に言えば、「Instagramは売り感が敬遠される」とは言っても、カスタマージャーニーマップ上に適切に位置付けられていれば、売上に貢献することは十二分に可能です。
いくつか方針の例を見てみましょう。
■例1:アカウントの運用目的を切り替えながら、顧客体験を深めていく
たとえば、事業の段階に応じて、アカウントの運用目的を柔軟に切り替えていく方法があるでしょう。まず立ち上げ当初は認知拡大を目的に運用し、ある程度アカウントが育ってきたら、次は興味関心を高めることを目的に切り替えて…といったように、カスタマージャーニーマップを意識しながら、時期に応じてアカウントの目的と投稿内容を変化させていく方法があります。このように、目的を柔軟に変えながら運用することは、企業SNS運用の成功の秘訣のひとつです。
⇒【第3回】Instagram運用は目的が大事!目標に合わせたKPI/KGIの設定方法
■例2:Instagramアカウントは認知拡大に徹底し、オウンドメディア等への送客する
たとえば、「自社Instagramアカウントは認知拡大と位置付け、さらに興味関心を引き立てるコンテンツは自社オウンドメディアで展開する」といった考え方です。
この場合、Instagramの役割としては、フォロワーを増やしてオウンドメディアへ送客することになります。
■例3:投稿コンテンツで興味関心を高め、需要を喚起してECへ送客する
たとえば、「認知拡大はマス広告で担い、Instagram投稿で興味関心を高め、需要を喚起してECへ送客する」といったような方針です。
・マス広告を見てブランドを知ったユーザーを、SNS検索でキャッチするための検索対策
・興味関心を深められるような、製品やサービスの写真や情報の充実
・魅力的なブランドに見えるような、興味深い豊かなコンテンツ
といった要素が揃ったアカウントに育てば、たとえばInstagramのストーリーリンク等を使って、そこからECサイトに「見込み度の高いユーザー」を送客することも可能でしょう。
■購入を煽るのではなく、「欲しい」「買おう」と思った時に、そこに自然に購入導線がある状態に
カスタマージャーニーマップは、業種や業態、顧客のセグメント、全体的なマーケティング戦略の取り方などにより様々に変わります。そのため、カスタマージャーニーマップ上の位置付けも、実際にはもっと様々な形があります。
しかし重要なポイントとしては、「購入を煽る」のではなく「ユーザーの気持ちに寄り添い、自然なかたちで需要を喚起する」ということです。
ユーザーが「欲しい」「買おう」と思った時に、そこに自然と販売ページへのリンク等、購入導線が用意されている…といった形であれば、フォロワーにも敬遠されず、自然な流れで購買促進に繋げることができます。
このように、ユーザー視点で設計していくことが、もっとも大切なポイントになるでしょう。
■ アカウントを限定公開にし、「お客様限定のインセンティブ」にする方法も
方法の一つとして、Instagramアカウントを非公開にし、それ自体をインセンティブにする方針もあります。たとえば、「Instagramアカウントを非公開で運用し、定期購入コースにお申込みいただいたお客様だけが閲覧できる」といったような形です。アカウントを閲覧できること自体を、購入の動機付けにする発想です。そのブランドのファンにとっては、とても魅力的な施策になるでしょう。購入した人だけが見れるリッチで特別なコンテンツを、Instagramを通して提供していけば、顧客のロイヤリティの向上や、リピート、アップセル等にもつながっていくと期待できます。
こうした方法も、企業Instagramの運用方針の一つになります。
自社のInstagramアカウントが売上にどう貢献しているか「見える化」する
ここまで見てきたように、Instagramを通した販売促進には、直接的な施策だけでなく、間接的な施策もあります。認知を広める、興味関心を高める等、こうした間接的な施策が、どのように売上に貢献しているか、「見える化」していくことも重要です。
たとえば、Instagramアカウントから直接ECサイトに送客する形であれば、ECへのリンクのクリック率やクリック数などで効果を計測することができます。
また、販売チャネル側で計測する方法もあるでしょう。たとえばGoogleアナリティクスと紐づければ、「流入経路」を可視化できます。Instagramから何人のユーザーがサイトに訪問したか、購入ページへ遷移したか…といったことも分析可能です。
他にも、ユーザーアンケートを定点的に取り、自社Instagramアカウントのフォロワーと、そうでない人の行動の違いを「見える化」する、といった方法もあります。
このような「見える化」を行えば、間接的な施策でも、売上への貢献度を把握し、PDCAサイクルを回していくことが可能です。
Instagram運用は、「売上」に囚われない姿勢が中長期的に大きなメリットにつながることも
さて、企業Instagram運用について「売上」という観点から解説してきましたが、一方で「集客」も見落としたくないポイントです。
Instagramでの集客の要点は、「ターゲットとなるユーザーにとって魅力的なコンテンツを備えた、“フォローする価値のあるアカウント”に育てること」です。
⇒【第5回】集客が伸びない原因はこれ!Instagram企業アカウントのフォロワー増加施策
この観点で考えた時、集客に資するコンテンツと、売上に貢献するコンテンツとは、必ずしも一致するとは限りません。また、SNSは企業の宣伝の場ではなく、人と人との交流の場であること、あからさまな売り感が敬遠されること等も考えると、必ずしも「Instagramで売ろう」といった方針は、決して簡単なものではありません。
こうした観点から見ると、「売上は結果」と割り切ってしまい、売上に囚われない運用を行ったほうが、中長期的にはかえって利益につながってくるとも言えます。
ブランドの価値を高め、ストーリーや世界観を発信し、ユーザーに魅力的なコンテンツや、豊かな話題を提供していくことで、次第に人々の注目も集まってきます。そうした中で、徐々にブランドのファンが醸成され、間接的に売上に貢献していきます。
■Instagram運用を中心とした施策で、旧来の2倍の売上を達成!パナソニック「オーブントースタービストロ」の成功事例
実際にInstagram運用を中心とした施策により、売上アップを実現した事例もあります。
たとえば、パナソニック社の「オーブントースタービストロ」は、Instagramを中心にキャンペーン施策を展開。「パナソニッククッキング」ブランドのInstagramアカウントを立ち上げ、料理の写真を中心とした、魅力的なコンテンツの投稿を続けました。
また、投稿トレンドの分析や、見込み客のセグメンテーション分析など、Instagramアカウントを通して集まったデータを、他の施策に反映する等の取り組みも行われました。
こうしたきめ細かなInstagram施策により、同社の「オーブントースタービストロ」は、旧モデルの2倍の売上を達成しています。
このように短期的な利益に囚われず、中長期的な目線で、他の施策と連携しながら取り組むことで、爆発力が生まれる可能性を持っています。
以前の記事で、「ターゲットユーザーに響けば、広告費換算で何百万円・何千万円もの効果を生み出す」とご説明しましたが、まさにその好例と言えるでしょう。
⇒【第1回】Instagram運用に成功すると?期待できるメリットや利益と、成果を得るためのポイント
こうした成果を生み出すために、目先の利益にとらわれない運用も非常に重要になります。
「売上を上げる」のではなく「ユーザーの気持ちに寄り添う」ことが、結果として売上につながる
それでは最後に、まとめに入ります。
企業のInstagram運用で売上につなげるために、求めるべきものは「目先の売上」ではありません。もっとも追求すべき事柄は、「ユーザーの気持ちに寄り添う」ことです。
ユーザーの気持ちに寄り添い、製品やサービス、ブランドのファンになってもらう。そして、購入を煽るのではなく、「欲しい」「買いたい」という気持ちになった時に、自然とそこに購入導線がある。そうしたアカウントを形作って行くことが、遠回りに見えて一番の近道です。しっかりと品質を高め、ブランドのコンセプトを磨き上げて発信し、一人一人のユーザーを大切にしてコミュニケーションをはかっていけば、売上という結果は後から付いてきます。その「結果」が、想像以上の爆発力を発揮する例も珍しくありません。