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人を動かすクリエイティブ

ライター:土田 琢磨

公開日:2024年01月17日 | 更新日:2024年10月24日

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目次

広告やPRの施策に対して、結果や成果が厳しく求められる時代。クリエイティブへの期待は高まり、その重要性は増しています。ただ一方で、よいクリエイティブとは何か?生活者に響くメッセージは何か?正解がわかりにくいのも確かです。
本コラムでは、どのようなクリエイティブが心に届き、人を動かすのか?プロモーションにおけるクリエイティブの目的と合わせて考えていきたいと思います。

クリエイティブ=心を動かす?

映画や舞台、芸術作品なども含め、独創的なアイディアによって制作された「クリエイティブ」は人の心を動かすものです。クリエイティブは「楽しい」「うれしい」「泣ける」「考えさせられる」など、「心を動かすもの」というのが一般的な認識でしょう。ただ、エンターテインメント作品ならそれで十分なのですが、マーケティング活動におけるプロモーションだとしたら「心を動かす」だけでは不十分です。

 

プロモーションのためのクリエイティブは、「人を動かすもの」でなくてはなりません。心が動いた、その一歩先、行動へとつながるものでなくてはならないのです。「商品を購入する」「お店(サイト)に行く」「クリックする」「広告に目を留める」「SNSで『いいね』をする」「広告に目をとめる/立ち止まる」「SNSに投稿する」「友人に話す」などなど。


クリエイティブからつながるアクションはさまざまですが、購入または購入につながる行動へと促すことが、プロモーションにおけるクリエイティブには重要なのです。

クリエイティブ表現を通して考える人の動かし方

「人を動かす」方法はいろいろありますが、「人を動かす」ためには、やはり「心を動かす」のが大前提です。では、心を動かす表現は何かというと、「インサイト」が含まれている表現だと我々は考えています。インサイト(insight)とは、本来、「洞察, (本質などを)見抜く[悟る]こと,眼識;洞察力」といった意味をもつ言葉です(『新グローバル英和辞典』三省堂)。

一方、マーケティグでは「消費者のホンネ」といった意味で使われます。インサイトマーケティングの達人として知られる桶谷功さんは、その著書『インサイト』(ダイヤモンド社)の中で、こう説明しています。「インサイトを見つけ出し、マーケティング活動によって、その『ホット・ボタン』を押すことで、売上を拡大できる」

インサイトとは消費者に購買行動を起こさせる「心のホット・ボタン」のことであり、そのボタンを押されると人は、思わず行動を起こしてしまう。そんな隠れた心理を発掘し活用するのが「インサイトマーケティング」です。

インサイトはブランドの中にも、生活者の中にも、社会や世の中の流れの中にもあります。
こうした「ブランドインサイト」「生活者インサイト」「ソーシャルインサイト」を掛け合わせていくと、購買行動へとつながる「キーインサイト」が見つかります。

キーインサイトとは、既成概念の裏側にある社会的矛盾など「願望」や「不安」への気づきのことです。それを踏まえることで、充足されていない欲求を満たす「発見」や「気づき」を生活者に提案することができます。それは、企業・ブランド・商品からの新たな価値の提案として、生活者に響くはずです。

インサイトがある表現こそが、生活者の行動のきっかけとなる「心を動かす“適切な”表現」なのです。

インサイトがない広告は誰にも響かない

冒頭で述べた通り、ポジティブなパーセプションを強化していくことは、消費者から選ばれる商品にしていく上で重要なポイントです。では、どうすればパーセプションを強化できるのでしょうか。3つの対策について解説します。

 

カテゴリーエントリーポイントの形成

カテゴリーエントリーポイント(CEP)とは、消費者が「〇〇がしたい」と感じた瞬間に、そのカテゴリーを最初に思い浮かべる入り口のことを指します。雨天の日が続く時期に部屋干ししている洗濯物の臭いが気になった際に「部屋干しでも臭いがつかない洗剤があった」と想起されるように、消費者が課題を解決したり欲求を満たしたりする上で第一に思い浮かべるカテゴリーがCEPです。さらに、そのカテゴリーの中で想起される商品の候補が絞られていきます。CEPを特定することで強化すべきパーセプションの方向性が定められ、一貫した訴求活動に繋がります。

 

パーセプションを評価する

自社のブランドパーセプションが狙い通り消費者に認識されているか定期的な確認を行い、意図しない認識をされていることがわかればコミュニケーションを変更しながらPDCAをまわすことが重要です。

 

パーセプションを変える

現状の自社のブランドパーセプションが競合と比較して類似してしまい選ばれにくい、ネガティブなパーセプションによって新規ユーザーが獲得できない場合は、狙うべきパーセプションを再設定しパーセプションチェンジを行うことが有効です。

人を動かすクリエイティブが動かしていたもの

インサイトがいかにクリエイティブに必要か?それは、インサイトのないコピーを見るとよくわかります。以下は、実際に世の中に出ている広告を一部、アレンジをしたものです。

たるみ予防しませんか?
お鍋でプチ贅沢な忘年会
キャンプを楽しむすべての人へ

一見、違和感のないコピーです。しかし、これらのコピーで多くの人の心が動くかというと難しいでしょう。
「たるみ予防しませんか?」「キャンプを楽しむすべての人へ」と呼びかけてはいるけれど、あまりにも対象が広すぎて、「あ!自分のことだ!」とは思わないでしょう。

「お鍋でプチ贅沢な忘年会」にしても、まず出てくるのは「ふーん」「だから?」といった感想です。

誤解のないように言い添えておくと、これらの広告はビジュアルやデザインなどはとてもしっかり作られています。決して、適当に作られた広告ではありません。

ただ、「インサイト」という視点が欠けていたため、ターゲットとなる人たちの潜在的な心をくすぐることもなく、結果、誰にも届かない広告になってしまっているのです。

インサイトのない広告は、集客やアクセスなどの効果を期待できず、結果として予算の無駄遣いになってしまいます。さまざまな意味でもったいない、残念な結果になってしまいます。

インサイトとクリエイティブの両輪を動かす

クリエイティブだけでは届かないし、インサイトだけでは伝わりません。人を動かすための、「心を動かす“適切な”表現」は、インサイトとクリエイティブの両輪を動かすことで実現します。

もうひとつ、事例を見ていきましょう。外食チェーンや駅などのトイレでよく見かける、こんな張り紙についてです。

「いつも、きれいに使っていただき、ありがとうございます」

じつは、これもインサイトがあるメッセージです。多くの人の中に「自分は公共心のある人間だと思われたい」「マナーがいい、配慮ある人間に見られたい」といった潜在意識があります。
この張り紙は「ありがとう」という言葉で、その潜在意識に働きかけ、「きれいに使う」という行動へと誘っているわけです。

人の行動を強制ではなく自然に良い方向へ誘導することを行動経済学で「ナッジ」といい、その理論を活用した呼びかけです。実際、「**に注意」「**してください」といった押しつけのメッセージよりも効果的であることがわかっています。

また先ほど、「インサイトがそのままクリエイティブになるわけではない」と言いましたが、それも、この張り紙からよくわかります。
いくらインサイトだからといって、そのまま「公共心のある人、マナーのいい人だと思われたいですよね」と呼びかけたところで、一切の効果がないことはわかるでしょう。
インサイトを見つけ、それをどう変換して表現するか、それが大事なのです。

【まとめ】インサイトのアウトプットにはプロの力を

プロモーション領域でのクリエイティブは心を動かすだけではだめで、人を動かす必要があります。人を動かすことができるのは、「心を動かす“適切な”表現」です。

それには「インサイト」が不可欠であり、見出したインサイトを「心を動かす“適切な”表現」にアウトプットしていくのはプロフェッショナルの力です。

「もう一工夫したクリエイティブにしたい」
「これまでいろいろと展開しているけれど、いまひとつ効果につながらない」

そんなときは、以下を確認してみてください。

・生活者に響く「インサイト」はあるか?
・インサイトは“適切な”表現に変換されているか?
・生活者に伝わるクリエイティブになっているか?

インサイトの発掘にはマーケティングリサーチが有用ですし、それを適切な表現にし、洗練させていくのはクリエイティブの力です。どちらが欠けていても、「心を動かす“適切な”表現」になりませんし、人を動かすことはできません。
「インサイト」と「クリエイティブ」の両輪で考える。それが、効果のあるプロモーション施策には不可欠なのです。

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土田 琢磨
WRITER
土田 琢磨
コピーライターとしてキャリアをスタートし、国内広告会社にてクリエイティブ部門責任者・シニアクリエイティブディレクターを務めた。主に、広告クリエイティブのディレクション・コピーライティング・CMプランニングを担当。医薬品・新聞社・官公庁・教育・家電などのクライアントワークに携わる。

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