海外調査とは、海外市場の特性や消費者動向、競合状況、文化的背景などを把握するために実施される調査です。現地の需要やトレンドを理解することで、市場参入や事業展開の成功確率を高められます。
しかしながら、海外調査のノウハウが蓄積されていない企業では、そもそも海外調査がどのようなものなのかわからない場合もあるでしょう。このコラムでは海外調査の主な目的や実施方法、得られるメリットと課題について解説します。
海外調査とは
海外調査とは、特定の国・地域における市場規模や消費者動向など、さまざまな情報を収集することです。企業が海外進出や事業展開を検討する際に、現地の状況を理解し、適切な意思決定をするために行われます。
国内調査とは異なり、国や地域ごとの法規制やビジネス慣習などを前提として調査を行うのが大きな特徴です。そのため、国内調査に比べて難易度は高めであり、ある程度のノウハウが必要です。不安な場合は、専門会社に調査を依頼する方法もあります。
海外調査と国内調査の違い
海外調査と国内調査の違いは、「時間やコストがかかりやすい」ことです。現地での情報収集やデータ分析には、言語や文化の壁、そして物理的な距離が影響します。調査プロセスが複雑化しやすく、それに応じて時間・コストがかかるのです。
SEC(社会経済階層)の違いも、海外調査特有の要素です。国によって、所得分布や生活水準、教育レベル、職業構造などの経済的階層、社会的階層が異なります。ターゲットとなる市場を正確に把握するには、それぞれの国のSECを考慮した調査が必要です。
海外調査を実施する主な目的
海外調査は、主に下記を目的として実施します。
市場調査・分析
海外調査を実施する主な目的は、対象となる海外市場の規模や成長性、動向を把握することです。「現地市場にどれくらいのポテンシャルがあるか」「競争はどのようになっているか」を理解できると、企業としても海外進出や事業拡大の可能性を検討しやすくなります。
たとえば、ある国の市場で「低糖食品」や「オーガニック食品」が急速に成長しているのがわかった場合、健康志向の商品ラインを投入するチャンスです。もし現地ブランドが価格面で優位性を持っている場合は、品質やブランド力を強調したマーケティング戦略を選択できます。
競合調査
競合調査も、海外調査を実施する主な目的です。現地で活動している競合企業の情報を収集し、戦略立案に役立てられます。具体的には、競合企業の市場シェアや商品ラインナップ、価格設定、プロモーション手法、流通チャネルなどです。
競合調査を実施すると、自社商品・サービスをどのように差別化するかも明確になります。たとえば既存企業がリーズナブルな価格帯の商品を出している一方、デザインや耐久性に難がある場合、その点での付加価値を活かした商品展開ができます。
消費者のニーズ分析
消費者のニーズ分析も、海外調査を実施する主な目的です。現地の消費者の嗜好や購買行動を理解すると、適切な商品開発・サービス設計ができ、結果として自社の競争優位性を高められます。
海外調査の分析結果をもとにした施策は、顧客満足度を向上させ、現地でのブランド認知を高めることにもつながります。リピートや口コミの促進など、さまざまな効果で現地の消費者の信頼を得やすくなるでしょう。
法規制や行政手続きの確認
法規制や行政手続きの確認は、海外進出や現地での事業運営において欠かせません。具体的には、税制や労働法、輸出入規制、知的財産権保護、環境規制など事業に影響を及ぼすさまざまな法的要件をチェックします。
リソースが潤沢な大企業であれば、事前に調査を徹底できるため、基本的には問題ありません。しかし中小企業の場合は、リソースが限られている都合上、「法令を十分に調べきれておらず、法的要件を満たさず罰則を受けてしまう」というリスクもあります。
文化調査
海外調査は、文化調査の側面もあります。具体的には、現地住民が一般的にどのような考え方を持っているか、そしてどのような伝統・習慣があるかを把握します。
たとえば日本はどちらかといえば個人よりも集団を重んじる傾向にありますが、海外の国がすべてそうであるとは限りません。また、時間に対する考え方も違います。海外調査を通して、こうした文化的側面を理解しつつ、現地の人々の価値観を尊重したアプローチを行います。
海外調査のトレンド
近年、インバウンド市場の拡大に伴い、訪日外国人に関する情報収集の重要性が増しています。企業や自治体は、訪日外国人旅行者の消費動向や行動パターンを把握し、効果的なマーケティング戦略やサービス開発に役立てているようです。
たとえば消費動向調査は、訪日外国人旅行者の消費額や消費項目、購買行動などさまざまな要素を分析し、経済効果や市場ニーズを把握するのに役立てられます。すでに発行された調査レポートもいくつかあるため、そちらを参考にするのもよいでしょう。
一例として、「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査 2024年度版」(公益財団法人日本交通公社・株式会社日本政策投資銀行の共同調査) があります。海外旅行先に関する意識調査や、課題などがまとめられた資料です。
海外調査の方法・種類
海外調査で用いられている調査方法・種類を解説します。
デスクリサーチ
デスクリサーチとは、既存の公開情報を活用して行う調査手法です。インターネットや書籍、研究レポート、統計データなどを用いて情報を収集します。新しいデータを収集するフィールド調査と比べて、コストと時間を抑えた情報収集が可能です。
デスクリサーチが適している場面は、「調査の初期段階」です。プロジェクト開始時の背景情報を集めるのに最適で、問題の全体像を把握したり、大まかな方向性を決めたりするのに役立ちます。
フィールドリサーチ
フィールドリサーチは、現地で直接データを収集する調査手法です。ターゲットとなる人々との対話やアンケート、行動観察などを通じて、新しい情報を集めます。
フィールドリサーチの特徴は、信頼性が高いデータを得られる点です。実際の状況を反映した正確なデータが得られるため、感覚や推測に頼らない意思決定ができます。
具体的な手法としては、アンケート調査やインタビュー調査などが挙げられます。
オンラインリサーチ
オンラインリサーチとは、インターネット上で公開されている情報を収集し、データを分析する調査手法です。「デスクリサーチ」と近いですが、こちらの方法ではオンラインプラットフォームを重視します。
たとえばSNS分析では、XやInstagram、Facebookなどで、ユーザーの投稿内容・コメントをチェックして消費者の意見を収集します。最新の流行や関心事、消費者の行動変化をタイムリーに分析できるのが、オンラインリサーチの利点です。
現地のパートナー企業へのヒアリング
現地の事情に詳しい企業や組織に直接ヒアリングを行い、信頼性の高い情報を得る方法もあります。現地の文化や市場動向、ビジネス慣習などを理解できるだけでなく、人脈形成につながるのが大きなメリットです。
「実際に現地の企業を訪問し担当者・経営者と対話」「リモート環境でビデオ会議を通じて情報収集」など、自社やパートナー企業の状況に合わせてやり方を変えられます。
ヒアリング対象者の立場や利害関係によって情報が偏る可能性もあるため、複数の情報源を活用するのが理想です。
専門の調査会社への外注
専門の調査会社への外注とは、マーケティング会社やコンサルティングファーム、リサーチ専門企業などに調査業務を委託する方法です。自社で行うよりも費用がかかる一方、専門的な知識・スキルを活かした、質の高い調査を実施できます。
調査会社は海外調査の経験が豊富であり、独自のデータベースやネットワークを活用できます。調査の計画立案、実行、分析まで一貫して対応してもらえるため、自社リソースの負担が軽減されるのも大きな利点です。
海外調査の流れ
まずは、「海外調査を通して何を達成したいのか」「どのような情報が必要なのか」、ゴールをはっきりさせます。その目的から逆算するようにして、対象国や地域、調査対象(顧客層、競合企業など)を決定し、具体的な計画を立案しましょう。
前述のデスクリサーチやフィールドリサーチなど、調査方法を決めたら、実際に調査を開始します。その後、収集したデータを分析し、具体的な事業戦略を立てます。
海外調査を実施するメリット
海外市場のニーズやトレンドを理解できる
海外調査を実施するメリットは、ターゲットとなる市場や顧客層が何を求めているのか、どのようなトレンドが現地で流行しているのかを具体的に把握できる点です。こうした情報は、新たな商品開発やビジネスモデルの構築に役立ちます。
さらに海外調査は、イノベーションの基礎にもなります。他地域では見られない現地特有の課題やニーズをヒントに、革新的なアイデアを生み出せる可能性もあるでしょう。
海外進出に伴うリスクを軽減できる
海外進出に伴うリスクを軽減できるのも、海外調査を実施するメリットです。前述のように、日本国内と海外では、ビジネスを取り巻く環境が大きく異なります。現地の商慣習や法規制などを理解していなければ、罰則や現地の消費者の信頼を失うリスクもあります。
海外調査は、ただ市場の状況を調べるだけでなく、政治・経済状況や法規制、文化的要因などを理解するのにも役立つものです。事前に調査を行うことで、突発的な問題や変化に対応できる準備を整えられます。
競合との差別化を図りやすくなる
海外調査を実施するメリットとして、競合との差別化を図りやすくなる点も重要です。差別化は価格競争を避け、付加価値を生み出すための重要な要素となります。
差別化の具体例としては、以下のようなものがあります。
〇現地で不足している商品・サービスを提供する
〇競合がカバーできていない顧客層を狙う
〇品質やデザインで勝負する
差別化ができれば、競争が激しい海外市場でも生き残りやすくなるでしょう。
海外調査のデメリットと課題
調査にかかるコストが高い
海外調査を実施するデメリット・課題は、調査にかかるコストが高い点です。国内調査の場合、自社のオフィスからの移動や、国内の市場・顧客へのアクセスは比較的簡単です。交通費や宿泊費も最小限に抑えられるケースが多いでしょう。
しかし海外調査の場合は、現地への出張費、通訳や翻訳の費用、現地での宿泊費や交通費など調査にかかるコストが高くなります。とくに調査対象国が複数にわたる場合、自社のリソースだけでは対応しきれない場合もあるため、注意が必要です。
時間がかかる
時間がかかるのも、海外調査を実施する際に考えるべきデメリット・課題です。国内調査では、移動や現地調整の手間が少なく、データ収集から分析までスピーディに進められます。
一方で海外調査の場合、現地特有のデータや信頼性のある情報を探すには、国内調査に比べて時間がかかります。翻訳・ローカライズの作業が、必ず間に挟まる点にも注意が必要です。
オンラインツールや現地パートナーの活用によって、作業工程の短縮や効率化を行うとよいでしょう。
言語や文化の壁がある
前述のように、海外調査を実施する際の大きな壁となるのが「翻訳・ローカライズ」の問題です。国内調査の場合、当然ながら言語や文化が共通しているため、調査対象者とのコミュニケーションが簡単に行えます。
しかし海外調査の場合、言語や文化の違いが調査の障壁となります。単純に質問や資料を翻訳するだけでは不十分であり、現地の文化や習慣に合わせた「ローカライズ」が必要不可欠です。
海外調査を失敗しないためのポイント
海外調査を失敗しないために、下記の点に注意しましょう。
適切な調査手法を選ぶ
海外調査を失敗しないためには、まず適切な調査手法を選ぶのが重要です。オンライン調査、現地でのフィールドワーク、デスクリサーチなどさまざまな方法が考えられます。
適切な調査手法を選ぶためには、海外調査の基本的な流れに沿って、まず調査の目的を明確にしましょう。デスクリサーチで予備調査を行い、専門会社に依頼するなど、複数の方法を組み合わせるのもおすすめです。
スケジュールに余裕を持たせる
スケジュールに余裕を持たせるのも、海外調査を実施する際のポイントです。海外調査では、現地の状況によってスケジュールに変更が生じ、予定よりも時間がかかってしまうケースが珍しくありません。
現地の祝日や文化的行事にも配慮が必要です。たとえば中国の旧正月(春節)は、約1週間続く大型連休で、物流や商談にも影響が出ます。調査対象国に関する下調べを徹底し、スケジュールの遅延がなるべく発生しないよう注意しましょう。
実績のある専門調査会社を選ぶ
海外調査を実施する際、自社にノウハウが蓄積していない場合は、実績のある調査会社に依頼するのがおすすめです。海外調査などを専門とする会社は、長年の経験と実績に基づいたノウハウを持っており、自社で行うよりも効率的かつ信頼性の高い調査ができます。
過去に同じ業界・地域での調査経験があるかを確認しつつ、対応エリア、調査方法について自社の方向性と合っているかをチェックしましょう。
外注する際の費用
海外調査を専門会社に外注する場合の費用は、調査の規模や内容、対象地域、調査手法などによって大きく異なります。相場としては、数十万円から数百万円です。費用対効果を最大化するために、事前に調査範囲や目的を明確にし、適切な会社を選定しましょう。
海外調査の実施概要例
過去にネオマーケティングで請け負った海外調査の事例をご紹介いたします。
【アメリカにおける「観光おもてなし」に関する消費者調査】
調査手法 |
Web調査 |
性別 |
男女 |
年齢 |
20歳以上 |
条件 |
1年以内に宿泊を伴う観光旅行に行ったことがある人 |
対象地域 |
アメリカ |
サンプルサイズ |
500 |
出現率 |
30%程度を想定 |
費用 |
50万円 |
【訪日外国人_街頭調査】
調査手法 |
街頭調査 |
性別 |
男女 |
年齢 |
20歳以上 |
条件 |
浅草で観光をしている外国人 |
サンプルサイズ |
100 |
費用 |
150万円 |
【北海道に関するタイ・シンガポール調査】
調査手法 |
Web調査 |
性別 |
男女 |
年齢 |
20歳~59歳 |
条件 |
なし |
対象地域 |
タイ・シンガポール |
使用言語 |
英語 |
サンプルサイズ |
1,000 |
費用 |
160万円 |
まとめ
海外市場への進出や事業展開を検討する際、海外調査は現地市場の理解を深めるための重要なステップです。
現地消費者のニーズやトレンド、競合他社の戦略、法規制や文化的背景を把握することで、海外進出の成功確率を高められます。
海外調査にはさまざまなメリットがある一方、時間やコストがかかり、言語や文化の壁などの課題も伴います。まずは調査の目的を明確にし、デスクリサーチやオンライン調査、現地でのフィールドワークなど、最適な手法を選択しましょう。
専門の調査会社に外注すれば、より質の高い調査を実施できます。