商品の価格は、会社の利益に直接的な影響を与えるため、根拠や戦略を入念に考えた上で決定することが重要です。しかし、商品需要を予測し目標の市場シェアを取るために最適な価格設定を行うことは非常に難しいです。アンケート調査とノルム値を組み合わせて価格設定を行う企業が多い中、そのようなノルム値が社内に蓄積されていない場合、難易度は更に上がります。「どのように価格を決めればいいのか」「生活者に聞いた適正価格は、本当に信じていいのか」というご相談をもらうこともあります。今回はそれらの課題に応えるため、価格設定(プライシング戦略)のノウハウと考え方についてご説明します。
プライシングとは
プライシングとは、製品やサービスの価格を決定するための戦略を指します。自社製品・サービスの質や生産、運用コスト、競合など様々な要因から価格設定を行います。そして価格設定がされた商品・サービスに対して、生活者は「価格に見合った質を提供している製品・サービスなのか」という点を優先的に考慮して購入有無を決定する傾向にあります。
※調査実施日:2020年10月22日(木)~2020年10月26日(月)
https://corp.neo-m.jp/report/investigation/itmedia_027/
一方で、価格そのものがその商品・サービスの価値を印象付ける、という側面もあります。価格が相対的に安すぎれば、生活者はその商品・サービスの品質自体に不信感を抱くことになります。また価格が同様の商品・サービスと比較して高く、かつそのブランドが提供している便益に特筆すべきものがない場合、その価格設定はブランドへの不信感に繋がるでしょう。
つまり、プライシングを行う際は、自社の都合のみを要素にするのではなく、「顧客に受け入れてもらえるか否か」という点も留意する必要があるということです。
価格を決定する要素
価格を決定する際に、事業者側が最低限抑えるべきことがあります。
●顧客は誰か
まず把握すべきは、「顧客は誰か」ということです。日用品であれば一般消費者が顧客ですが、大規模なクラウドストレージサービスであれば企業が顧客になるでしょう。
また、一般消費者の中でも、ターゲットとする年齢層や職業によって適正価格は変わることになります。対象の顧客像を明確にして、どのくらいの価格帯が最も受け入れられやすいかを考えることが重要です。
●自社コストの確認
次に、商品を生み出すための自社のコストを確認します。当然ですが、掛かるコストよりも安い価格で売れば、赤字になります。収支のボーダーラインを確認するためにも、どのくらいのコストが掛かっているか、はっきりさせましょう。使用している材料などの原価も変動する可能性があります。さまざまな状況で、掛かるコストをよく把握してください。
●競合商品の価格
最後に、競合商品の価格を確認します。確認する理由は、自社の商品を同程度の価格にするためではありません。自社の商品の相対的な価値を把握するために調査します。例えば、競合する商品と差別化できるようなクオリティや付帯サービスを提供できるならば、より高い価格を設定できます。しかし、他社と比較して劣っている点があれば、低めに設定することが必要です。
プライシングの考え方
では、プライシングはどのように考えればいいのでしょうか?代表的な3つの考え方を紹介します。
①スキミングプライス
商品の市場投入期・導入期に高めに設定し、商品が市場で普及していくにつれて、その商品価格を徐々に下げていく価格戦略です。市場のイノベーターやアーリーアダプターをターゲットに、高価格であっても価値を認識してもらい、購入してもらうことで商品の開発コストを早く回収することを狙います。
②ペネトレーションプライス
商品を低価格で市場に導入することで、商品投入期・導入期から市場シェアを早期に獲得していくことを狙います。特に商品価格による需要の変化が大きい商品カテゴリにおいて、有効な価格戦略です。低価格で市場参入することでシェアを拡大し、それによって限界費用を下げるということも可能です。
市場を獲得した後は、商品の価格を少しずつ上げて利益率を上げていくか、そのまま低価格を維持するか、企業によって対応は変わります。その時も、どのくらい需要の価格弾力性があるのか、アンケート調査等で確認しながら選ぶことになります。
③コストプラス
原価に利益を加えた価格を設定する方法で、最もシンプルな価格戦略といえますが、市場要因を除外して決定している点で、デメリットがあります。
しかし、これらはあくまでも概念論であって、この方法論を知っていたとしても実務への落とし込むまでには、やや時間を要します。そこで、ここからは実際にアンケート調査のデータを活用して商品価格を決定していく方法をお伝えします。
プライシングに活用できるアンケート調査手法
プライシングを行う時、アンケート調査を実施することも多くあります。その調査の分析方法は大きく3つあります。
①CVM分析
CVM(Contingent Valuation Method)分析とは、対象商品について、あらかじめ呈示する価格帯を設定しておき、各価格での購入意向を段階的に聴取し、適正価格を算出する方法のことです。価格をイメージしにくい新規商品・サービスでも対応できるメリットがあります。
しかし、一方で事前にアンケート調査で呈示する価格帯を設定する必要性があり、呈示する価格帯を得るためのプレテストを設けることもあります。
■CVM分析の質問イメージ
■CVM分析結果
CVM分析の質問では、呈示したそれぞれの価格に対して、回答者のうちどの程度の割合の方が購入意向を示したかを表すことができます。
上の図で、例えば呈示商品価格が\100だった場合は75.0%の方が購入意向を示し、\200だった場合54.8%の方が購入意向を示している、ということがわかります。200円以下の場合に、約半数以上の方がその価格を受容する、その価格で購入してもよいと回答しています
②PSM分析
PSM分析とは、対象商品について、適正だと思う価格を4つの視点(安いと思う/安すぎて品質が不安/高いと思う/高すぎて買わない)で、自由に記述(数値入力)してもらい、数値データから適正価格を算出する方法のことです。価格をイメージしやすい日用品等で、特に分析精度が上がると言われます。
一方、高額すぎる商品の場合は価格レンジが広くなり、安価すぎる商品の場合は価格レンジが狭くなりすぎるため、PSM分析には不向きとされます。また、価格のイメージが全くつかない専門技術や画期的技術なども不向きとされています。
■PSM分析の質問イメージ
あなたは、「○○」を、いくらぐらいから「高い」と感じ始めますか。
あなたは、「○○」を、いくらぐらいから「安い」と感じ始めますか。
あなたは、「○○」を、いくらぐらいから「高すぎて買えない」と感じ始めますか。
あなたは、「○○」を、いくらぐらいから「安すぎて品質が疑わしい」と感じ始めますか。
※自由記述(数値入力)で取得します。
■PSM分析結果
PSM分析の質問では、最低品質保証価格・利用価格・妥協価格・最高価格を掛け合わせて分析します。回答者が受容できるとする価格を「受容価格帯」、適正だと考える価格を「適正価格帯」として表すことができます。
上図では、「受容価格帯」は\193~\257、「適正価格帯」は\205~\208となっているように、ある程度の幅を持った適正価格を算出するための分析方法です。
③一般的な価格受容性をはかる手法の分析結果
シンプルに、○○というコンセプトの商品がいくらなら購入したいと思うか、と聞く質問です。コンセプトは文章や絵・図等でできるだけイメージしてもらえるように呈示し、アンケート調査を実施します。
■直接質問法の質問イメージ
直接質問法では、「購入したいと思うか」という質問について、ある金額以下の回答をした人の割合を、その金額の「受容率」として表すことができます。上の図では、商品価格が\100であれば、95.8%の方の購入意向金額が\100よりも上回っており、\200であれば60.2%、\300であれば37.8%が受容しています。
CVM分析とPSM分析、どちらを活用すればいいかについては、以下のページで実際の検証調査と一緒に紹介しています。是非ご覧ください。
ネオマーケティングが提唱する「PSM分析の在り方」
これまで一般的に行われてきたPSM分析の結果を振り返ると、価格が想定よりも低い結果として表れる傾向にある印象があります。その要因として「調査対象の中に、その商品・サービスカテゴリーの価値を理解している人とそうでない人がいて、後者に属する調査対象が低い価格を提示しているのではないか」という仮説が上がりました。
そこでネオマーケティングでは、価値ベースのプライシングの実現を目標として「バリューベースプライシング研究」と題して自主調査を行い、仮説検証しました。
調査の結果「商品価値を理解していない人は、商品価値を理解している人と比べて、価格を低く見積もる傾向にある」ということが分かりました。
PSM分析を用いてバリューベースプライシングを実現するためには、「調査対象者を適切にセグメントして調査を行う必要がある」という事をネオマーケティングは提唱します。
新製品と既存製品でプライシング戦略に用いるデータが違う
今見てきたように、アンケートデータを活用したプライシングの考え方がありますが、データを活用したプライシング戦略の方法は、既存製品か新製品なのかという違いが、結果に影響すると言われています。
■既存製品の場合
新商品と同様の手法を取ることも可能ですが、売上データなどの小売りパネルデータから推察できます。小売りのパネルデータから、平均価格の推移を見ることにより、値崩れしてきている時期、変化点を確認します。これにより、小売りの現場で、実際に値引きしないと売れていないのか、小売り側で値引きを行っても、売れていないのかなどを把握することができます。そのような“生きた”データを見ることができるわけです。
小売り側で値引き戦略した結果、商品が売れていないのならば、ブランド価値やイメージを下げないために、効果の薄い値引きは避けるべきです。価格を上げるテストを一部の店舗で行い、価格分析を実施することもあります。
■新製品の場合
新商品や今まで設定したことがない価格帯を検討したい場合には、実データが存在しないため、製品コンセプトを呈示したアンケート調査で直接質問法・PSM分析・CVM分析を用いて消費者に聞きます。
その後、データから分析した結果から、「スキミングプライス」「ペネトレーションプライス」「コストプラス法」等の考え方を活用して、プライシングを実施する方法があるでしょう。
まとめ
特に新商品の場合、商品価格を決定するプライシングは大変難しい分野の一つです。しかし、適当に決めるわけにもいかないため、様々な市場に関するデータ、生活者に関するデータ、自社商品への評価データを活用して検討していくことになります。
自社のノルム値があればそれと比較しての需要予測が行えますが、ノルム値がない場合、データを積み上げていく他ありません。
ノルム値の蓄積、またプライシングを行うアンケート調査等についても、ご興味ある方は気軽にご相談ください。