自由回答質問の内容によって、回答にどのような特徴が表れやすいか
生活者起点のリサーチ&マーケティング支援を行なう株式会社ネオマーケティング(所在地:東京都渋谷区)では、今の時代に即したマーケティングリサーチのあり方を検討するべく研究チーム「NEO Research Lab」を立ち上げ、独自で調査を行なっております。
今回プロジェクト第4弾の調査として、一般的な手法FAと新手法FAを聴取&解析を実施し、オンライン調査における自由回答(FA)の適性と有効性を検証すべく、インターネットリサーチを実施いたしました。
<調査背景>
消費者の意見を自由回答ベースで聞いていくには、定性調査が有効な手法の一つです。一方で、定性調査に忌避感があったり、予算の関係で実施が難しいクライアント様もいらっしゃいます。また、新型コロナウイルスの影響から、オフラインの定性調査は実施が難しいケースもあります。その中で、定性調査だけでなく、定量調査の自由回答からでも課題解決のヒントとなるデータを得られないか検証するため、今回の調査を実施いたしました。
調査目的:定量調査の自由回答方式は様々な方法があります。例えば、満足度理由、推奨理由、購入理由などです。
今回の調査目的はこれらの自由回答の適性と有効性は何かを把握することです。調査目的に応じて使い分けことが可能か、それとも、得られる回答結果は同じなのか。定量調査の自由回答の適性と有効性を把握し、各自由回答の使い分ける指針を作成することで、定量調査をより有意義なものにします。
<調査概要>
調査の方法:株式会社ネオマーケティングが運営するアンケートサイト「アイリサーチ」のシステムを利用したWEBアンケート方式で実施
調査の対象:アイリサーチ登録モニターのうち、全国20~69歳の男女を対象に実施
有効回答数:1500名
調査実施日:2021/7/26(月)~2021/7/29(木)
調査内容:他の設問の影響を完全に排除するためにFA×ブランド群を作り、各設問を回答させています。今回の調査では、調査時期の影響が少なく、機能性や高級といった様々な商品ラインナップのある、チョコレートブランドを選定しました。また、チョコレートブランドのうち特徴が異なる、「大衆向けP」「機能性チョコレートQ」「高級チョコレートR」をブランド対象としました。
調査データのダウンロードはこちら
割付
回答させるFA質問によって、回答者をA群からE群の5グループに分け、更にその中でPQRのうちどのブランドに回答するかによって3グループに分け、計15グループに対して調査を実施しています。
用語解説
■アフターコーディング
自由回答の選択肢化のことです。選択肢化とは、自由回答の中から似ている回答をまとめ上げてカテゴリーに分類することを意味します。自由回答の定性情報を定量化する点がメリットです。
一方で、アフターコーディングは自由回答1件1件の目視に比べて、情報が集約されてしまうため、大まかにしか把握できないというデメリットがあります。
なお、本記事ではアフターコーディングを実施し、選択肢化した項目をキーワードと呼んでいます。
手法FAについて
手法FAは以下の通りです。
・一般的な手法FA:満足度理由、推奨理由、購入理由 等を聴取する
・新手法FA:ブランドの存在、擬人化FA を聴取する
総括
自由回答(FA)の適性と有効性は、各FAによって分かれることがうかがえました。具体的には、満足度理由/推奨理由/購入理由のFAには機能的ベネフィット、ブランドの存在のFAには情緒的ベネフィット、擬人化のFAにはブランドパーソナリティが表れやすいといった大きな特徴が見られました(下図)。
機能的ベネフィットに属する“満足度理由/推奨理由/購入理由”の違いは大きくないものの、以下の傾向の違いが見られました。
・購入理由はややキーワードの広がりが少ない
・推奨理由は満足理由に比べ、他者を意識した意見があったため、“人”への推奨を課題に挙げているブランドでは、推奨理由を取得することが課題解決に有効になりえるかもしれない
今後は上記の特徴を意識して、調査目的に応じて調査設計を実施することが肝要になるでしょう。各FAの適性と有効性が見えたことによって、オンライン調査におけるFAの使い分けの指針になれば幸いです。
結果詳細
■分析フレーム
まず、ブランド合算ではFA全体の特徴を把握し、ブランド別ではブランド毎に各FAの内容に違いがあるのかを確認します。
各FAの基礎情報(ブランド合算)
●各FAの文字入力数は「ブランドの存在」が多く、「擬人化」が少ない
多くの内容を語ってもらいたい場合は「ブランドの存在」、端的に表現したい場合は「擬人化」が適しています。
ただし、「ブランドの存在」は文章量が多いため、アフターコーディングに加えて、1件1件の目視も必要になると考えます。
●1FAあたりの品詞数は、「ブランドの存在」が最も高く、「擬人化」が最も少ない特になしの回答率は「推奨理由」「擬人化」が最も高い
“人”に推奨したり、例える設問で高くなっていることから、回答が難しいと考えるモニターが一定数存在したと思われます。
ただし、それは「FAの有効性がない」こととイコールではなく、その他のモニターで多く品詞が出現すれば問題ないと考えられます。
●キーワード数(≒アフターコーディング後の項目数)は「擬人化」が多く、それ以外はほぼ同等
「擬人化」は、より多様なキーワードを抽出できます。
●ネガティブ系の回答率(ニュートラルも含む)は「満足理由」「推奨理由」が突出して高い
ネガティブな内容を抽出したい場合は、「満足理由」「推奨理由」。また、“人”に例える「擬人化」ではネガティブな内容が出づらいようです。
一人当たりの品詞数
満足理由/推奨理由を聞くFAでは「形容詞」「名詞一般」、ブランドの存在を聞くFAでは「動詞」、擬人化を聞くFAでは「形容動詞語幹」の出現率が相対的に高くなりました。動詞は「食べる」「する」「癒す」など。「する」は~してくれる等も含んでおり、一部、設問文の影響も出たと考えられるため、動詞の特徴に関する解釈は留意しておく必要があります。
ただし、「食べる」「癒す」といった動詞はそのブランドの特徴として捉えることができ、ブランドの存在は、「~する」といった行動まで記述されていることがうかがえます。
擬人化の「形容動詞語幹」では、「親切」「健康」「気軽」といった言葉が上位に挙がりました。
※「特になし」を除外し算出
※「ブランドの存在」は『〇〇な存在』といった表現が多く、“存在”を除外して集計
※「擬人化」は『〇〇な人』といった表現が多く、“人”を除外して集計
満足理由と推奨理由の違い
出現頻度の違いは大きくありませんが、満足理由では「包装」、推奨理由では「配りやすい」「罪悪感」といった違いが見られます。
満足理由は自分向けの理由、推奨理由は自分向けの理由+他者向けの理由の傾向がやや見られました。
※「特になし」を除外し算出しています。
スコアが高い単語を複数選び出し、その値に応じた大きさで図示しています。 単語の色は品詞の種類で異なっており、青色が名詞、赤色が動詞、緑色が形容詞、灰色が感動詞を表しています。
※ユーザーローカル(https://textmining.userlocal.jp/)を使用
各FAのキーワードランキング(ブランド合算)
満足理由/推奨理由/購入理由のFAで出現したキーワードは類似したものが多く、いずれも「美味しいから」が最も高くなりました。購入理由は2%以上の項目が少なく、キーワードの広がりが弱いです。
ブランドの存在のFAでは、「癒されるから」「リラックスできるから」「疲れた時に食べる」といった情緒的なキーワードが上位にきています。擬人化のFAでは、他のFAと異なり、キャラクターのキーワードが並んでいます。ただし、最も出現率が高い「優しい人」でも12.0%にとどまり、多様な回答をしている様子がうかがえます。
満足理由/推奨理由/購入理由は機能的ベネフィット、ブランドの存在は情緒的ベネフィット、擬人化はキャラクターワードがそれぞれ出現しやすいことがわかりました。
※2%以上の項目を表示
各FAのキーワードランキング(大衆向けチョコレートP)
満足理由/推奨理由/購入理由のFAでは「美味しいから」「食べやすいから」が上位2つになっています。購入理由は「価格が安いから」も高く、“価格”に関する理由は、購入の理由を聞かれると、「価格」の要素が出やすいためと考えられます。「価格」の理由以外を取得したいのであれば、満足理由や推奨理由を取得した方が良いかもしれません。
ブランドの存在のFAでは、「癒されるから」「疲れた時に食べる」「リラックスできるから」といった情緒的なキーワードが上位となりました。擬人化のFAでは、大衆向けのチョコレートらしく、「優しい人」「温厚・穏やかな人」「普通の人」といったキーワードが上位となりました。
ブランド合算の傾向と同様に、満足理由/推奨理由/購入理由は機能的ベネフィット、ブランドの存在は情緒的ベネフィット、擬人化はキャラクターワードがそれぞれ出現しやすいことがわかりました。
※2%以上の項目を表示
各FAのキーワードランキング(機能性チョコレートQ)
満足理由/推奨理由/購入理由/ブランドの存在のFAでは「美味しいから」「乳酸菌が入っているから」が上位2つになっています。「美味しいから」「乳酸菌が入っているから」は推奨理由では同率1位、購入理由は順位が入れ替わり、傾向の違いが見られます。ブランドの存在のFAでは「罪悪感が少ないから」も上位に挙がっています。他には、「癒されるから」「リラックスできるから」といった情緒的なキーワードは中位。擬人化のFAでは、「健康志向の人」「優しい人」「健康的な人」が上位3つで、“健康”といった特徴が見られます。
機能性チョコレートQは、ブランド合算とやや異なり、ブランドの存在の上位が機能的なベネフィット、中位が情緒的なベネフィットとなっています。
各FAのキーワードランキング(高級チョコレートR)
満足理由/推奨理由/購入理由のFAではいずれも、「美味しいから」が突出して高く、ほぼ一択という結果になりました。ブランドの存在のFAでは「美味しいから」に加えて、「癒されるから」「リラックスできるから」「疲れた時に食べる」といった情緒的なキーワードが上位にきています。擬人化のFAでは「エレガントな人」「おしゃれな人」といった高級を連想させるキャラクターワードが上位となっています。
ブランド合算と同様に、満足理由/推奨理由/購入理由は機能的ベネフィット、ブランドの存在は情緒的ベネフィット、擬人化はキャラクターワードがそれぞれ出現しやすいことがわかりました。
※2%以上の項目を表示
最後に
各FA「満足理由」「推奨理由」「購入理由」「ブランドの存在」「擬人化」を聴取すれば、アーカーのベネフィットとブランドキャラクターが、オンライン調査で取得可能であることが示唆されました。
調査目的に合致したFAを選択することで、定量調査のFAからでも課題解決のヒントを得ることが分かり、オンライン調査の守備範囲も広がったのではないでしょうか。最後までご覧いただき有難うございました。
■この調査で使用した調査サービスはコチラ
ネットリサーチ:https://neo-m.jp/research-service/netresearch/
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<例>「生活者を中心にしたマーケティング支援事業を提供する株式会社ネオマーケティングが実施した調査結果によると……」
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