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「マーケティングとは対話である」

公開日:2023年05月17日 | 更新日:2024年08月07日

元ニールセンジャパン代表 福徳俊弘氏

はじめに

各界でご活躍されているマーケターの方に「マーケティングとは何か」を伺う、本インタビュー企画。
第一回目となる今回は電通・日本マイクロソフト・ニールセンジャパンなどで要職を歴任された福徳さんに、「マーケティングとは何か」「事業会社のマーケターが意識すべきこと」などについて伺いました。(取材・文:マーケティングG・杉山 太一)

 

支援会社と事業会社でマーケティングを経験

 

――福徳さんは支援会社と事業会社、両方でマーケティングに関わってこられたと思います。どのようなキャリアを歩んでこられたのですか?


私のキャリアは、まず電通からスタートしました。キャリアを通していえば、オグルヴィ・アンド・メイザーという代理店、ニールセンというリサーチ会社など、マーケティングを支援する側の経験が半分で、マイクロソフトやスクエア・エニックスといった事業会社側でのマーケティング経験が半分です。他には、マーケティング協会という業界団体で、業界全体の課題解決や中堅マーケターの育成に努めてきました。現在はスタートアップ企業をサポートする会社を経営しています。
電通ではクライアント担当の営業として、広告キャンペーンの制作や、イベントの企画、大型のスポーツイベントや博覧会のプロデュースなどを行なっていました。
その後、それまで経験に基づいて行われていたメディアプランニングを、戦略と実際のデータに基づいて最適化していくということに取り組んでいました。そのためのオプティマイザーの開発なども行っていましたね。当時の日本ではほとんど前例がないことに取り組んだわけですが、その時の経験がその後のデジタルやビッグデータ分野での仕事に生かされていると思います。


――その後は事業会社でのキャリアを積まれていますね。どのような心境の変化があったのですか?


一度は事業会社側に行ってみたかったんですよね。広告代理店はプロモーションだけに携わるということがほとんどで、関わるマーケティングの範囲は限定的です。商品やブランドの、川上から川下までの全ての流れを味わってみたいと思ったんです。
 特にスクエア・エニックス時代にはゲームを創るという、とんでもない「生みの苦しみ」を体感しました。本当に試行錯誤の連続で、大変な労力を費やしてモノを生み出すことを経験しました。


 ――事業会社では、どのような基準で商品やサービスに対して判断をされていたのですか?
 
その業界の専門家ではなかったので、「自分がお客さんだったらどう思うか?」ということを考えていました。自分自身がターゲット顧客の気持ちになりきって、商品サービスに触れたときのイチ生活者としての感覚を大切にしていました。
あとは、いわゆる「勘」というものもありますよね。がっちりとロジックを組んでいるわけではないですが、これはいけそうだなという感覚、これはおかしいなという感覚ですね。その感覚に対して「なぜ?」を深堀していくことを大切にしていました。

 

マーケティングとは「対話」

 

――福徳さんはマーケティングをどのように捉えていますか?

 

マーケティングの本質は「対話」ではないでしょうか。企業やブランドと、生活者との「対話」です。生活者のニーズを把握して、それに応える商品とベネフィットを提供していく、そのサイクルを回して精度を上げていくことが「対話」であり、マーケティングだと考えています。最終的にはこの「対話」のサイクルを繰り返して、ずっと買い続けてもらう仕組みを創っていくということがマーケティングの目的になるのでしょう。


――どうして「対話」という考えに至ったのでしょうか?


昔は、企業からのマーケティングは一方通行だったと思います。インターネットが普及していない世の中では、マス広告が圧倒的に強く、消費者の声は企業に届かなかった。昔の日本のモノづくりは大変強かったですから、高度経済成長期という背景もあって、必然的にモノが売れてしまう時代でした。そのため企業は、とりあえずいいものを創れば売れる、と思ってしまったのではないでしょうか。
 しかし、今はインターネットやソーシャルメディアが普及したことで、生活者の意見が強く市場に反映されるようになりました。生活者からのフィードバックもすぐ得られる時代になると、やはり生活者との双方向の「対話」というようにマーケティングを捉えないと、ビジネスは成立しないと感じています。

 

マーケティングの難しさはどこにあるのか

 

日本企業には、組織としてマーケティングノウハウをためる潜在的な難しさがあると思います。外資のマーケティングに強い会社では、マーケティングによる汎用化やパターン化、ラーニングの蓄積などは昔から行われていました。しかし、今の日本企業はこのノウハウの蓄積が弱い。
これは根深い問題で、日本企業の場合は人事ローテーションが盛んに行われるため、マーケティング担当者と部署にノウハウがたまりにくく、マーケティングのプロが育ちにくい仕組みになっています。結果、よりマーケティングについて詳しい大手代理店に全て任せる、ということになってしまうわけです。マーケティングのプロを社内に養成するという発想が組織として必要だと思います。


また、「再現性があるようで実はない」ということもあります。全てのケースで状況が違うじゃないですか。過去事例はヒントにはなっても、基本的には再現できないわけです。数年前の成功事例と同じ方法を取ったとしても、状況が変わっているわけですから、また成功するとは限りません。マーケティングは再現性を求めるものではあるけれど、それがなかなか難しいということです。


あとは、人の心を動かす難しさもありますよね。ロジック通りには人の心は動きませんから。マーケティングのロジックやサイエンスがどれだけ精緻化されたとしても、やはり最後は人の心を動かすというところに行きつかないといけない。マーケティングの大きなチャレンジだとも言えますね。

 

マーケターにとって重要なことは?

 

――マーケターのキャリアを考えるうえで重要なことは何でしょうか?


まずはマーケティングとは何をすることなのか、マーケティングの全体像やフレームワークを頭に入れる、ということが必要ですね。そしてブランドや商品を担当したら、そこに全精力を費やし没頭すること。そうしないと何も出てこないと思いますよ。
きちんとした仮説をもって検証することも重要ですね。なぜうまくいったのか、うまくいかなかったのかを考え、それを自分の知識として蓄積していかなければ次に活かせません。マーケターとしての成長は難しいと思います。
あとは、世の中の出来事に対して、腑に落ちないことがあった際には、疑問を抱いて考える癖をつけるということ。そうすると、物事の本質が見えてくるようになります。考える過程が大事なので、必ずしも正解にたどり着く必要はありません。その繰り返しが、人々のインサイトをつかむことにつながります。世の中のマーケティングの裏側・意図を考えるということも有効かもしれませんね。

 

これからのマーケティングで注目しているテーマ

 

1つは「データサイエンス」です。従来のリサーチだけではなく、顧客ニーズを行動データなどのビッグデータから探ることも重要になってきますし、いかにデータを紐解くかということが、企業に益々求められてくると思います。

2つ目はマーケティング発想でのイノベーションを起こす「マーケティングイノベーション」です。世の中的にコモディティ化が進む中で、商品自体での差別化は難しくなっています。そのため、とがったイノベーションを作り出す、そのための発想とチャレンジが求められていると感じます。
 
3つ目は、改めてではありますが、ブランディングです。特に右脳型のマーケティングに注目しています。今後、マーケティングのサイエンスの部分はどんどん精緻化されていくと思います。ただ、それだけでは記憶には残せても人の心は動かせない。
 やはり人の感情に訴える部分がマーケティングでは重要で、人の心を動かせなければ、ブランドは作れません。右脳的なマーケティングを実行できることが必要になってくると思います。

 

 

 

<Profile>

福徳 俊弘(ふくとく・としひろ)氏
東京大学卒業後、株式会社電通入社。メディアプランニング部長等を歴任。マイクロソフトでは、MSN事業部にて営業部門を統括。2011年にニールセン株式会社代表取締役会長兼CEOに就任。ウォートン・スクール(AMP)修了。2020年当社顧問に就任。アジア・マーケティング連盟CPM(公認プロフェッショナル・マーケター)。日本マーケティング協会マイスター。

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