自論

「インサイト」は自ら生み出すもの。|中島 孝介|自論

作成者: 株式会社ネオマーケティング|May 23, 2024 8:18:00 AM

はじめに

ネオマーケティングで活躍するスペシャリストの、「現在地とこれから」を紹介するシリーズ。今回は、消費者インサイトの洞察を起点として新商品の開発に取り組んでいる、中島孝介さんに話を聞きました。

 

インサイトを「創り上げる」。

 

――はじめに、現在の中島さんの取り組みについて紹介してください。

 

新商品やソリューションの開発に取り組んでいます。
具体的には、リサーチを交えながら生活者の潜在的なニーズを洞察します。そのうえでワークショップを実施してインサイトを創り上げ、新商品やサービスのコンセプトをまとめる、という流れです。

 


――インサイトを「創り上げる」とは、どういうことでしょうか。


多くの人はインサイトを「見つけるもの」だと考えています。しかし、そもそもインサイトは消費者自身も気づいていません。アンケートやインタビューをしたとしても、明確な形で出てこないことが多いです。だからこそ、各種調査で得た気づきやヒントをかき集めて「インサイトってこういうものだよね」というものを「創り上げる」姿勢が大事なのです。

こんなことを言ってもよいのかわかりませんが、多くの人は調査に答えを求め過ぎています。あくまで調査は探索する時や確認すべき時に活用するものであり、答えは出てきません。答えは自分たちで作っていくものなのです。

とはいえ、インサイトを創り上げても「それってあなたの主観だよね」と言われてしまい、新商品の開発は前に進みません。そこで、ワークショップ形式で周りを巻き込んだ手法を提案しています。

 

イノベーションにはアイデアだけでなく「共創」が必要。

 

――ワークショップについてうかがいます。どのようなお悩みやご相談を受けて実施することが多いでしょうか。


「商品開発でアイデアが出ない」
「何を作ればいいのかわからない」
といったご相談が多いと思います。

決して、商品開発やマーケティング部門の方々が怠けているわけではありません。多くの企業では、新商品開発業務と既存事業のバランス調整ができていないのです。日本企業の多くの担当者さんは既存の仕事が忙しくて、なかなか新商品の開発に腰を据えて向き合えないことが多いのです。

 


――ワークショップをやることのメリットは何だと思いますか。


大前提として、1人で考えるより複数で考えた方が多様なアイデアが出ます。
ワークショップの参加者は意図的にさまざまな属性を選んで参加してもらいます。いろいろな企業、部署、専門性をもつ人が参加することで、いろいろな角度からアイデアを拾い上げられます。

ワークショップは「共創」です。参加者全員が当事者になるため、開発の推進力になるのです。少人数でいきなり新しいものを作っても、周りの人はピンと来ず必要性を感じられないことがほとんどです。しかしワークショップで「これならいけるよね!」と合意できていれば、組織として前に進みやすくなります。

人はすべて、何かしら「長けている」ものをもっている。

 

――ここからは「自論」を聞いていきたいと思います。中島さんは、ワークショップの前に生活者の自宅訪問などもされています。変わった取り組みだと思いますが、理由を教えてもらえますか。


インサイトをより深く洞察するためです。たしかにアンケートなどの定量調査や、インタビューなどの定性調査でも洞察はできるのですが、言語情報よりも視覚や聴覚、嗅覚などから得られる情報量の方がもっと多いのです。

またアンケートやインタビューは“うわべ”で回答をすることもでき、必ずしも回答が本音ではないことも多いです。しかし自宅訪問してみると本音が見えてきます。

 


――新商品の開発にあたり、中島さんはよくエクストリームユーザーの行動観察をされています。詳しく教えてください。


エクストリームユーザーとは、企業側が想定していない極端な方法・思考で商品を利用するユーザーのことです。

以前、カップ麺のエクストリームユーザーの調査をしたことがありました。お金に余裕はあるのですが、毎日カップ麺を食べている方でした。東洋水産の「赤いきつね」に「緑のたぬき」の天ぷらを入れて食べていました。そして残った「緑のたぬきのそば」は全部捨ててしまう。あまり褒められた食べ方ではないのですが、こうしたエクストリームユーザーの行動から「かやくの別売りシリーズ」を構想しました。

それをエクストリームユーザーの方にぶつけてみると「それじゃあ単なるフリーズドライじゃん。定番ブランドのものでないと意味がない」とフィードバックを受けました。その人のインサイトは「定番へのこだわりがあるが、やはり飽きがくる。定番を食べたい、もっといろんな食べ方をしてみたい(既製品のためあきらめている)というインサイトを導き出し、商品案を作っていきました。

どうしても新商品にはリスクがありますが、こうした調査でコンセプトの検証を重ねていくことで、より洗練されたものができあがっていくと考えています。

 


――自宅訪問やエクストリームユーザーの観察など、手間と時間もかかりそうです。なぜそこまで熱心に「人」を見るのでしょうか。


私の前提として「人って何かしら長けているものをもっている」という考えがあります。

「自分は普通だ。平凡だ」と思っていても、必ず尖ったものがあるのです。それぞれが違うものをもっていて、それが表に出ているかどうか、社会に役立っているかどうか、だけだと思うのです。その「長けているもの」にしっかりフォーカスしていけば、世の中すべての人が素敵になるんじゃないか、と思っています。

実は昔、友人と起業しようと考えていました。
何物でもない若者たちが集まる場を作る、というアイデアでした。それぞれの得意分野をヒアリングして、マッチングするのです。得意分野を活かしあい、いろんな事業を立ち上げていけたらおもしろいと思っていました。
そのときは実現できなかったのですが、その後、オンラインサロンが流行り、コミュニティから事業を生み出す事例が生まれていきました。

人は財産です。
ワークショップしかり、自宅訪問やエクストリームユーザーの観察しかり、いま取り組んでいることは、こうした考えを1つの形にしたものです。

イノベーションの下地となるコミュニティを作りたい。

 

――中島さんがこれからやっていきたいこと、挑戦していきたいことを聞かせてください。


ネオマーケティングに入社した当初から変わっていなくて、イノベーションを生み出すことに挑戦していきたいです。そのために、コミュニティ作りをしていこうと考えています。

いくつか取り組んでいるうちの1つは、異業種が集まって事業を興していく場です。
先日、ワークショップ形式のセミナーをやりました。異業種の方々が集まりチームになって進めるものだったのですが、「他の業種の人と話すのは新鮮だった」という意見が多く、可能性を感じました。アイデアを出すだけでは事業にならないので、事業化していく仕組みづくりを今後していきたいです。

周りの方々と力を合わせて、すこしずつ形になりつつあると感じています。自分1人では何もできませんが、コミュニティの運営や世話人のような形で、人を繋ぐハブの役割を担っていきたいですね。

プロフィール

インサイトリサーチG エキスパート
中島 孝介
リサーチ歴20年。主にメーカー、サービス事業会社向けにマーケティング課題から一緒に解決プランをつくるリサーチを実施。
2013年からデザイン思考を取り入れ、商品・サービス開発のサポートに携わる。2019年よりネオマーケティングに加入。デザイン思考セミナー講師/行動観察セミナー講師/TOKYO DESIGNERS WEEK2013「発想の種」ワークショッププレゼンターとしても活躍している