自論

「リサーチャーが付加価値を生み出す」組織をつくる。|吉原 慶|自論

作成者: 株式会社ネオマーケティング|May 22, 2024 8:06:00 AM

はじめに

ネオマーケティングで活躍するスペシャリストの、「現在地とこれから」を紹介するシリーズ。今回は、吉原 慶さんに話を聞きました。

吉原さんは、「バリューベースプライシング」や「共感ドミノ™」をはじめとする、新しいマーケティングリサーチの概念を生み出した、ネオマーケティングを代表するマーケターの一人です。いま取り組んでいることや、目指していること、仕事にかける思いを聞きました。

 

リサーチャーが本来取り組むべきは、「入口の設計」と「出口の提案」

 

――吉原さんといえば「ストラテジックリサーチ」のスペシャリストだと思います。まずは吉原さんがいま取り組んでいることを教えてください。


いまは「組織づくり」と「付加価値づくり」の2つに注力しています。

1つ目の「組織づくり」について。
リサーチャーにしかできないことに集中できる組織づくりに取り組んでいます。リサーチャーはマーケティング活動を循環させるためのリサーチを設計しますが、どうしても業務が分散しやすく、価値を生み出しにくいことにリソースが削がれることが多々あります。いわゆる「便利屋」になってしまうのです。
そうなるとメンバーは、「自分は何をやっているんだろう」と自問自答することになります。そういった状況を無くしたいのです。
2つ目の「付加価値づくり」について。
リサーチにおいて、ネオマーケティングらしさをどうつくっていくかです。リサーチは「調査することが目的」になってしまいがちで、「こういう結果が出ました。こんなことが言えます」で終わってしまうことがあります。
しかしリサーチはマーケティング課題を解決する手段の1つであるベきで、お客様が次の一歩を踏み出す意思決定につながらなければ意味がないのです。リサーチを入口として、お客様が向かうべき戦略的方向性を示すことが付加価値だと考えています。

 


――部署名である「ストラテジックリサーチ部」がビジョンを体現していますね。吉原さんが考える、本来あるべきリサーチャーの仕事とは、どのようなものなのでしょうか。


リサーチの「入口」と「出口」をしっかりつくることです。

「入口」とは、お客様が抱えるマーケティング上の課題を理解し、有効な調査プランを提案することです。これが不十分だと、お客様の課題に対して効果的なリサーチ設計ができません。
「出口」とは、調査結果を解釈し、示唆を出したうえで、「次はこれをやりましょう」と一歩踏み込んだ提案につなげることです。リサーチが目的になってしまうとこれができなくなり、マーケティング支援会社ではなく、リサーチ結果を納品するだけのリサーチ会社になってしまいます。

ネオマーケティングはリサーチから始まった会社ではありますが、具体的なPRやコンテンツ制作などを担える部門があり、「リサーチの先」を提案し実行する能力があります。この強みを生かすためには、入口の設計と出口の提案が非常に重要になるのです。

 

ネオマーケティングの強み

 

――「強み」という言葉が出ましたが、吉原さんが考えるネオマーケティングの強みを聞かせてください。


2つあると思っています。

1つは、リサーチ結果に基づいた根拠のあるクリエイティブ・PRの企画提案ができることです。
クリエイティブやPRの提案をする際に、お客様から「なんでその提案なの?」と聞かれた時に、「なぜならば」の根拠を持てることが、ネオマーケティングの付加価値でもあり、提案する際の礼儀だと捉えています。

もう1つは、リサーチャーが幅広い業界知識をもっていることです。
大手マーケティング会社では、日用品メーカー専門の部署、食品メーカー専門の部署、といったように業種・業態・クライアントごとにチームが編成されています。たしかに担当する領域では専門家ですが、他業界の知見は薄かったりします。
ネオマーケティングは業種などで仕切られた部署をつくっていないため、業種にとらわれず幅広い選択肢の中から課題解決策を提案することができます。

 


――お客様と会話するとき、何を大切にされていますか。


サービスの話をいきなりしないようにしています。
お客様に対して「お客様はモノが欲しいのではなく、そこから得られる便益を買っている」ということを伝え続けてきました。
そんな私たちが、いきなりサービスの話をしてしまっては、言っていることとやっていることが違ってきてしまうと思います。サービスの紹介やサービス押しは、モノ売りと同義と捉えています。だからこそ、お客様の真の困りごとはなにか、本当はしたいけどできていないことはなにかをしっかり理解することを意識しています。このコミュニケーションがあるからこそ、ネオマーケティングは、お客様が本当にしたかったことを「できる」に導く提案をすることで価値を出していきたいと思っています。
そのために、マーケティングリサーチの課題整理(与件整理)から入らず、マーケティングの課題から整理をしていくことを強く意識しています。

リサーチのあるべき姿を体現したスキームが「共感ドミノ™」

 

共感ドミノも、言ってしまえばひとつのサービスかもしれません。
ですので、共感ドミノだけの紹介、説明に終始することはしません。
共感ドミノは、あくまでもナレッジの集合体として体系化したものにすぎません。
想起戦略がブランディングに必要不可欠であり、そのためのCEP(カテゴリーエントリーポイント)を創ることこそリサーチ威力が発揮される領域だと考えています。
CEPのつくり方を検証し始めて早2年。ようやくひとつのカタチがみえてきました。
これこそ、ネオマーケティングにしかできない、ネオマーケティングならではのナレッジです。

 


――「解釈」や「提案」と聞くと、主観が入ってくるイメージがあります。「客観的な数字だけでいいじゃないか」と考える人もいそうですが、「共感ドミノ™」はまさにリサーチ結果を解釈し、提案につなげるスキームですね。


そうですね。共感ドミノはリサーチから商品開発・リブランディングまで、事業の方向性を一体的に提案するスキームです。

私は以前から、「従来型の誰でも模倣できるアンケート調査の手法に一矢報いたい」という思いがありました。そこで注目したのがアンケートの自由回答です。自由回答から本気で考察を得ようとするリサーチ会社は、ほとんどいませんでした。自由回答は定性的な情報であり、そこから考察を得ることは手間がかかるので、どこもやりたがらなかったのです。
さらに定性的な情報は本来、インタビューなどにより1.2カ月かけてようやく得られる貴重なものです。これをフルに活用することにしたのです。

アンケートの自由回答から少数意見を拾い上げ、あらためてアンケートの回答者に対して提案し、共感の有無を確かめます。少数意見に対して示される共感が大きかった場合、その意見には潜在的な市場があるということです。私はこれを「定性的定量調査」「定量的n1調査」と呼んでいます。
定量調査=仮説検証、定量調査=量的傾向をみるものというアタリマエを変え、新たな価値を創造しようとする取り組みです。

 

リサーチを起点に具体的な施策やクリエイティブにつなげる経験を、組織のメンバーに積ませたい。

 

――これからの話を聞かせてください。


2つ、やりたいことがあります。

1つ目は、スタッフが自分自身を磨ける組織づくりです。リサーチャーだけでなくすべてのスタッフが、ネオマーケティングを最大限活用して、自分を高めていってほしい。そして、「それでもネオマーケティングで働きたい」と思える社風をつくりたいと考えています。そうなることでお客様、会社、スタッフ、すべてが幸せになるはずです。

 


――リサーチについて、なぜ個人のスキルとしてではなく、組織づくりに注力しているのでしょうか。


私一人の力ではやれることに限界がある、というのもありますが、それだけではありません。
物事に対する解釈は人によって異なります。性別による解釈の違い、年齢による違い、そして生きてきた人生や価値観などによって、目の前の現象の捉え方が違うのです。また、お客様が言っていることに対する解釈も違ってきます。これらが混ざり合うことで化学反応が起き、良い提案につなげられるようになります。
組織のチカラを最大化するには、個の連携・共有が最適解であると考えます。
強みや好きを伸ばすことに注力し、苦手は克服ではなく相互フォローすることで、個の成長が加速し、結果的に強い組織になると考えます。
「会社」のためより先ずは「自分」のため。
自分を高めた結果プロフェッショナルが増えることで、会社のためになるという考えです。

2つ目は、「リサーチとクリエイティブの連携」という言葉を無くし、「連携は当たり前だよね」という状況をつくりたいと考えています。当たり前のように2つの担当者が連携し、お客様の次なる一歩をどんどんと支援できるようにしていきたいです。

 


――リサーチ部隊とコミュニケーションプランニング部隊の連携には大きな可能性がある、と。


どうしてもリサーチ部隊だけだと、お客様と会話する際に「調査結果はどうだったか。どう解釈するのがよいか」という話から抜け出しづらくなります。それだけでも建設的なのですが、次のステップにシフトさせることが大事です。
そこでコミュニケーションプランニング部隊が会話に入ることで、お客様の意識がコミュニケーションプランニング部隊や、ターゲットとのコミュニケーションといったアウトプットに向きやすくなります。リサーチ部隊とコミュニケーションプランニング部隊が連携することで、お客様との会話の粒度が変わるのです。

ここまで紹介してきた「リサーチ部隊が起点となって具体的な施策やコミュニケーションプランニング部隊につなげる経験」を私個人としては積んできた自負があります。今後は、一人でも多くの後輩に経験させてあげたい。きっと、仕事のやり方が180度変わると思います。
このような新体験を得ることで「楽しい」が生まれ、自分が楽しいと思えるからこそ、自信をもって提案できるようになると信じています。

さいごにひと言。「ストラテジックリサーチという言葉を広めたい」

大きなことを言いますが、「リサーチ」という言葉を世の中から無くしたい。
「リサーチ」と聞くと、調べごとのようなイメージをもちます。更に「調査」になるともっとチープになり、マーケティングの概念から離れていきます。

我々がやっているのは「マーケティングリサーチ」であり、戦略的なリサーチ「ストラテジックリサーチ」です。これを共通言語化したいと考えていますし、そのために試行錯誤を繰り返してきました。マーケティングの中にリサーチ機能があって、リサーチャーがマーケティングの戦略的方向性を導く世の中にしていきたいです。

プロフィール

ストラテジックリサーチ部 部長
吉原 慶

 


マーケティング会社を経て、上場企業のマーケティングリサーチ会社に移籍。リサーチャーのチームを立ち上げ、マネージャーとして従事。新サービスの開発を担当。リサーチの書籍も出版。
2022年ネオマーケティング(エキスパートグループ)に合流、同年10月 リサーチ組織を新設。2023年10月 ストラテジックリサーチ部を新設。
(ミッション)
「リサーチとコミュニケーションプランニング部隊とのシナジーを生み出し、リサーチを起点とした総合マーケティング支援を加速させる」