トップマーケターインタビュー

マーケティングとは、最小の資本と、最小の人の命の時間で、最大の付加価値を生み出すための“根本”である|田尻 望氏|トップマーケターインタビュー

作成者: 株式会社ネオマーケティング|8/1/23 3:00 PM

株式会社カクシン 代表取締役 CEO 田尻 望

はじめに

各界で活躍されているマーケターに「マーケティングとは何か」を聞く本企画。今回、ご登場いただいたのは「付加価値経営」を提唱し、さまざまな企業の利益向上や働き方の改善をサポートしている株式会社カクシンの田尻望さんです。「学ぶことこそ人生」と語る田尻さんが、マーケターにとって必要な学びをアドバイスします。

 

キーエンスで学んだ合理性の追求

 

――まずは田尻さんの経歴からお伺いします。株式会社キーエンスで社会人としてスタートされたのですよね。

「何かをなしたい」という思いは特になく、外資系コンサルや証券会社なども受けたのですが通らず、なぜかキーエンスだけはすんなりと内定をもらえたんです。

キーエンスが就活生に配布していた冊子を見ると違和感は一切なく、「頑張ったぶんだけ稼げる“組織”」という僕の希望に合致していました。あと、なにより給与がよかった(笑)。

そんな感じで入社して、コンサルティングエンジニア、販売促進技術を経て、最後に海外販売促進技術と、丸4年間、お世話になりました。

 


――キーエンスの4年間で学んだことはなんでしょう?

ひとつは「上には上がいる」ということです。能力についても、コミュニケーションにしてもなんでも、すごい人がいるんです。その方々の仕事を目の当たりにできたことは、今でも糧になっています。

そしてもうひとつは、付加価値に対する合理性を追求するその姿勢です。入社前から感じていましたが、とにかくキーエンスは合理的。すべての目的はお客様のためであり、意思決定はすべてお客さんに対する「役立ち度」で測られるんです。

 


――「役立ち度」とは、具体的にどういうことなのでしょうか? 


たとえば、私は情報工学を学んできたのでマクロを組むことができます。そこで、「自分にくる仕事をシステム化すれば、めっちゃ効率が上がる!」と上司に相談したんです。でも、その提案は「役立ちが低いよね」と却下されました。

というのも、僕一人の1時間/日が削減できたとしても、それはたった年間270時間です。でも、営業が100人いたとして、その30分/日を削減できたら、年間1万時間以上が削減できる。それは、5人分の人件費削減、そして5人が1年間フルに働けた価値が生まれるという同じ効果になる。

「それが本社の人間、バックオフィスとしての役立ち度だよね」と言われるわけです。

 


――ぐうの音も出ないほど正論で合理的です。

できるだけ少ないコストとできるだけ少ない時間で、最大の役立ち度を作る、というのがキーエンスです。それはいま、株式会社カクシンが大切にしている「最小の資本と人の命の時間で最大の付加価値を創る」につながっています。

 

「人は弱い」だから仕組みで補う

 

――キーエンスを辞めてすぐ独立したものの、失敗されたそうですね。

家なし・職なし・家族ありという経験をしました(笑)。ただ、このときの失敗はすべて僕の責任です。原因は「キーエンスの常識は世界の非常識だ」ということを知らなかったんです。

キーエンスでは営業が「受注してくる」と言ったらほぼとってきます。納期が遅れることなんてありえないし、求めたクオリティ以下のものが出てくることもありません。

 


――でも、世間は違った。

世の中には意外と、「やるやる詐欺」「買う買う詐欺」「それ、できます!詐欺」があった(笑)。
クオリティや能力がともなわなくても、チャレンジする人がいる。そんな仕事の仕方をする人が存在するとか、約束を守らない人がいるとは知らなかったんです。そこからの5年間で、「人は疑わなくてはいけない」ということを学びました。

世の中は「性悪」とは言いませんが、「性弱」である、と。そう思ったとき、キーエンスの仕組みのベースには、この「性弱説」があるんだなとわかったんです。人は「悪い」なのではなく、「弱い」んだ、と。

 


――キーエンスには優秀な方ばかりで、弱い人はいないのではないでしょうか?

「人は弱い」ことを前提にしているからこそ、弱い人でもちゃんと動けるようにひとつひとつの行動管理をするわけです。そして、人のクオリティで担保できないところはシステムやツールで補う。これがキーエンスの仕組みなんです。私自身これに気づいたのが3〜4年前で、「なんてすごい組織なんだ!」と改めて思いました。

 

マーケティングを学び、手に入れた“無限の可能性“

 

――田尻さんが現在のキャリアを構築までに、意識して取り組んできたことを教えてください。

「学習力」ですね。「学ぶことこそ人生」と言っていいくらい学んできました。マーケティングやセールスはもちろんですが、その時々のトレンドや興味関心に従い、学び続けてきました。

気になったものが出てきたら、それをとことん突き詰めるんです。そして、「こういうことか!」という発見が新しいメソッドになり、仕事にいきるんです。誤解を恐れずにいえば、僕にとって、学ぶことが主で、ビジネスはその検証・実践になっているのかもしれません。

おそらく、もっと早く学んできたことを仕組み化して販売していたら、うちの売上は現在の3倍〜5倍になっていると思います。でも、「いつまで続けるねん?」と自分でも思うぐらい続けて学んできたら、それぞれの分野で誰も追いつけないくらい深いところにまで到達でき、独自の価値にまで高めることができた。これはこの先、いつでも販売展開していけると考えています。

 


――マーケティングは、どのように学んだのでしょうか?

ちょうどキーエンス辞めた前後、26歳ぐらいのときにジェイ・エイブラハムさんの経営塾に行ったんです。そこで初めて、マーケティングについて深く触れました。そのとき、「価値を広げる方法は無限大なんだ!」と感動したんです。

それまで、「どう展開したらいいんやろう?」と、いわば狭い金魚鉢の中で悩んでいたのですが、マーケティングの可能性を知り、「大きな可能性の中で生きることができるんだ!」と感じましたね。

 


――実際にマーケティングを取り入れて、ビジネスは変わりましたか?

独立に失敗した後、飲食グループの創業家の方に拾っていただき、企業向け研修会社の立ち上げに携わることになったんです。その研修会社が創業して丸1年くらいのタイミングで、帝国データバンクのコンサルティング部門と事業提携ができたのですが、それはまさにマーケティングの知識のおかげです。帝国データバンクの営業部門が僕たちの商材を企業に紹介してくれるようになったんです。

 


――それはすごいです。

マーケティングの知識がなかったら、「天下の帝国データバンクさんに対して、どうしたらいいだろう?」と臆してしまったかもしれません。

でも、マーケティング理論を使って相手のベネフィットを考えるなど、すべてのお膳立てすることができました。マーケティングへの深い理解があれば、創業1年、社員2名の会社が大会社と組むことだってできるわけです。

 

「学ぶ」ことは真似ること、行動すること

 

――マーケターとしてこれから力をつけていきたい方にアドバイスをするとしたら、やはり「学習力」でしょうか?

そうですね。マーケターになりたい、なろうとする方にお伝えしたいのは「基礎をすべて学びなさい」ということです。マーケティングにはさまざまな理論があります。それらをいったん網羅して学習すれば、アイデアは出てくるはずです。そして、生まれたアイデアに対し、とにかく早くPDCAを回していくんです。

ただ、気をつけていただきたいのは、「本を読んで理解する」「見て覚える」は学びではありません。「学ぶは真似ぶ」ーー真似るということは、「やる」ということです。やってみるのが学ぶということ。やってみると知識は自分のものになります。僕はそれを繰り返してきました。今でもそうですが、良いマーケティング案が思いついたら当日~翌日にはテストマーケティングが始まっています。

 


――「学習」のほかに、意識してきたことはありますか?

哲学的になってしまいますが、「真理の探求」です。これは僕の使命といってもいい。「真理の探求」とは何かというと、「人とは何か?」「世界とは何か?」「自分とは何か?」の3点について考えつづけることです。

たとえば、「人とは何か?」を考えることは、人は何を欲しているのか? どんなときに感
動するのか? どんな言葉に反応するのか? 何に対してお金を使うのか? を探ることにつながります。

それは、まさにインサイトの掘り起こしでもあるし、コピーライティングの考え方でもあります。「人とは何か?」を突き詰めるとマーケティングが成り立つんです。

僕が今、BtoCもBtoBもどちらも経営指導することができるのは、心理学を学びながらこうした感情の理論を突きつめてきたからだと思います。

 

優秀なマーケターは「1人の顧客」が見える人

 

――田尻さんにとって「優秀なマーケター」とはどういう人でしょうか?

「1人の顧客」が見える人ですね。どうしても、マーケティングを考えると総論やデータ頼りになりがちで、それは仕方がないのですが各論が浅くなってしまうんです。ペルソナにしても、「そんな人、実際いる⁉︎」という想定になりがちだったり、深くインサイトまでわかっていれば「~というお客様も買いたいと思うよね」というのを見逃しがちだったりします。

たった1人の顧客のライフスタイルや感情の面まで深く理解しているかどうか。そこから逆算してマーケティングを組める人は、とても優秀なマーケターだと思います。

他方で、それとは真逆になるかもしれませんが、「すべてを数値で判断できるマーケター」や「大衆の心を動かせるマーケター」もすごいと思います。

人1人がわかり、大衆の心を煽ることができ、そして数値分析が完璧。この3つの力を持ちえたら、最強のマーケターでしょうね。

 


――「1人の顧客」が見える、N1の重要性はよく指摘されることですが、どんなビジネスでも同じですか?

BtoCであれば、まさにたった1人の人のライフスタイルを理解するという話ですし、BtoBも同じです。

たとえば、「DXのシステムを販売します!」って言っている人は売れません。でも、「パソコンの~ソフトにひとつひとつ入力している、あなたのその作業・・・なんで私に全部来るの!?って思っているあなた、わかります。めっちゃ大変ですよね?」と言える人は売れるんです。

ひとつの部署の、たった1人のたったひとつの作業まで特定できるまで、細かく捉えることができるかどうか。これが「顧客理解」なんです。

 

マーケティングは「できることは全部やる」

 

――では、マーケティング活動で成果を出すために重要なことはなんでしょう?

まずはその「成果」は何か、定義を明確にすべきですね。よく、「成果=売上」と考えている人がいますが、売上はコストをかければ上がるんですよ。

マーケティングにおける「成果」は「変化」です。コンバージョン率の変化であり、CPO (Cost Per Order)の変化であり、その後の、LTV(Life Time Value)の変化です。それを、どれだけ少ない資本と少ない期間で変えられるかが、マーケティングなわけです。

 


――でも、その変化=成果をどうしたら出せるのかを、皆、悩んでいます…。

ここまでの話を聞いて、具体的な方法が思い浮かばないのだとしたら、まさに、先ほどの「基礎をすべて学びなさい」という話に戻るわけですが(笑)、簡単に言えば、できることは全部やってみる、ということです。

たとえば、LTVについていえば、そもそも、LTVを上がるような商品設計になっているのか?
複数回購入の商品になっているか?その後のアップセル・クロスセル施策は?チャーンが起こらないような施策はいくつ打たれているか? 
こうしたことを確認して、すぐに改善する。すると、変化=成果は上がっていくはずです。

 


――なるほど。何かを改善はしていても、“すべて”はできていない気がします。

成功しているマーケターはチャレンジなどしていません。その前に、基礎ややるべきことをちゃんとすべてやろうとしているからです。やるべきマーケティング施策を全部やろうと思ったら・・・全部が終わることなく1年が過ぎていくんです。それくらいたくさんの基礎施策があります。

組織の中には新市場開拓というチャレンジをしなくてはならない人はいるでしょうが、それは全従業員の中の一部です。基本的には、「みんながやるべきことをちゃんとやる」ことです。振り返ってみると、やはり、キーエンスはやるべきことをちゃんとやっていた組織なんですよね。

 


――やるべきことを、すべてちゃんとやる、というのは、じつはとてもハイレベルなことなのかもしれません。

そう思います。そして、やるべきことが、わかっていない、ということもあるかもしれませんね。少し横道にそれますが、広告の成果を上げるため、媒体を変えたり、購入ルートを最適化させたりするマーケターは多いと思います。でも、ABテストをたくさんやる人は意外と少なく、じつはこれをやっている企業はうまくいきます。

キャッチコピーを1000から2000変えて、反応率がいいものを試している企業は、ちゃんとどこかで当たるんです。

 


――なぜ、媒体や購入ルートではなく、ABテストのほうがいいのでしょうか?

媒体特性や購入ルートだけで頑張っても「変数」の数も振れ幅も少ないからです。お客様の中には感情的で動く人がいれば、数値的な人もいる。多様な人たちが見るLPに感情の要素だけ、あるいはデータしか入っていないのはあまりにもったいありません。そして、感情もデータも見せ方は無限大に出てきます

感情を揺さぶる言葉も、納得させられる数字も両方ともあれば、両方の層を取れますよね。両方取れるようになっていないのは、変数を持っていなかったということです。

うまくいくための変数をどれだけ持ち、その変数に対して効果を発揮できる施策をどれだけ持てるかが、マーケティングで成果を上げることでもあります。

変数をたくさん持つことは、マーケターにはとても重要なことだと思います。

 

導入事例ではなく見るべきは「成功事例」


――その他、マーケターが見すごしている点などありますでしょうか? ぜひ、アドバイスをお願いします。

マーケティングで絶対重要なのが、「顧客の成功事例」です。 “導入”事例ではなくて、“成功”事例こそが大切です。

広告記事に「これは個人の感想です」と前置きしながら、「肌がプルプルでうれしい」といったお客さんの成功例がでているものがありますね。若干の胡散くささはあるものの、顧客が本当に欲しがっているものは“成功”ですし、それは同時に、マーケティングに携わる人たちのいちばんの喜びです。だって、自分の売ったものでお客さんが喜んでくれたら、嬉しいじゃないですか。

それを、イケていないマーケターは、導入ばかりに目がいって、その後のお客様の成功に目がいかない。「***さんに使っていただきました」なんて、中途半端な事例を出したりするわけです。

 


――「使うこと」が価値ではない、ということですね。

顧客を幸せにすることが価値でありゴールです。「使った後にどうなったか?」を突き詰めているとマーケティングはうまくなりますよ。

余談ですが、最近、マーケティングとセールスを並列で考えている人がいるのが気になっています。「マーケティング」と「セールス」は並列しているのではなく、マーケティングの中にセールスという手法があるんです。そして、マーケティングの究極の目的はセールスを不要にすることです。

もちろん、セールスが不要にはなりきらない部分も多いのですが、「セールスをなくす!」と言い切れるくらいの施策を打つ気で取り組むと成功します。なぜなら、そのためにはセールスとの濃いコミュニケーションが必要になるからです。

 

ChatGPTはコミュニケーションも変える

 

――田尻さんがマーケティング関連で注目をしているトレンドについて教えてください。

ありきたりな答えになりますが、やはりChatGPTや生成型AI全般ですね。実際のシンギュラリティは量子コンピュータの完成時だと思うので、もう少し先になると思いますが、生成AIのインパクトも十分強烈です。ここ1〜3年で仕事の仕方や働き方などすべて変わります。

その中の大きな変化のひとつとして考えられるのが、「コミュニケーションのラストワンマイルが埋まる」ということです。これまでIT技術がもたらしてきたものは、「距離のラストワンマイル」を埋めることでしたが、ChatGPTは距離ではなく、コミュニケーションのあり方自体を変えるでしょう。

これまで会社本体からお客様のまでの間には、営業やコールセンターなど、コミュニケーションのポイントがいくつもありましたが、それらすべてが消えるかもしれません。

 


――コールセンターはAIに仕事を奪われる…。

もちろんすべてのコールセンターというわけではないですが、問い合わせ系コールセンターなどは大量に置き換わっていくでしょう。これは間違いありませんが、ネガティブに考えるのではなく、前向きに捉えるべきです。ChatGPTで効率化されることはたくさんあるでしょうし、新たなビジネスもたくさん生まれていきます。

もちろん、マーケティングの世界も変わります。商品企画や施策を立てる速さは人間とGPTでは段違いですから、GPTを使いこなせるかで大きな差もつくでしょう。※
必要なのは変化に対応し、トレンドを読んで生き残ることです。

 

大企業から日本を変える

 

――会社として田尻さん個人として、今後の展望をお聞かせください。

会社としては、これまで培ってきたコンサルティングセールスやマーケティングについてのノウハウをコンテンツ化したラーニングシステムを展開すること。そして、より多くの人が高いレベルのコンサルティングセールスとマーケティング教育を一律で受けられるようにすることです。コンサルティングセールスをマーケティングと並列で出していますが、どの企業のマーケティングもそこまでうまくいっていない理由の一つがコンサルティングセールス力の欠如です。

そして、その会社の代表として、コンサルタントとして、僕は大企業のマーケティングを成功させていきたい。「カクシンさんのマーケティングの力で、めっちゃうまくいった!」という大企業の実績をまずは3社作るのが目標です。

 


――ターゲットは大企業、なのですね。

僕が目指しているのは「大企業革新からの日本革新」です。中小企業を蔑ろにしているわけではなく、なんだかんだ言って日本の世の中を動かしているのは大企業です。しかし残念ながらマーケティングやコンサルティングセールスについてのリテラシーと実行力はびっくりするくらい低い。大企業ですから数万人も人がいる会社も多々あります。その社員のうち、本当にマーケティングに精通しているといえる人は、一社につき1%(数百人)もいないんじゃないでしょうか?
この国の意思決定にかかわる大企業が変わらない限り、日本を変えることはできません。逆にいえば、大企業が変われば、その影響力は他の中小企業にも広がっていきます。

大企業にアプローチできれば、日本人の働き方・生き方を変えることができるとおもっています。そんな影響力を与える自分になりたいと思っていますし、そのために必要な力のひとつがマーケティングだと考えています。

マーケティングがうまくできれば、セールスが断られる確率は減ります。そして、商品を提供したあとに、「これ買ってよかった! ありがとう!」と言ってもらえます。そうなれば、「今日も楽しく働けた!」と思うじゃないですか。

 


――「楽しく働く」っていいですね。

はい。働きやすさも大切ですが、重要なのは「働きがい」です。「働きがい」はどこから生まれるかというと、相手の「役に立つ」ことです。

アドラーも「自己受容」「他者信頼」そして、「他者貢献」が人の幸せの3要素だと言っています。人間は誰かに貢献できていることで幸せを感じるんです。それをビジネスの仕組み上で生み出し続けられたら、そのビジネスはすごくうまくいくし、かかわる人は幸せになれます。

 


――現在の日本とは違いすぎる世界です。

日本は今、逆になっていますよね。売る側が「どうか買ってください」とお願いをして、
買う側が「買ってやったぞ」と優位に立っている。

この関係だと、売れば売るほどしんどくなるんですよ。お客さんから「欲しいから、買わせて!」と言ってもらえ、買ってみて「やっぱり買って良かった。ありがとう!」となれば、お互いにうれしいじゃないですか。

加えて、企業が「最小の資本と人の命の時間で最大の付加価値」を実現できれば、働き手の給料も増やせられますし、自由な時間も増やせられます。明るい未来を思い描くこともできるわけです。そうなれば、世のビジネスパーソンはもっともっと笑顔になれるはずです。

 


――最後の質問です。田尻さんにとって「マーケティング」とは?

マーケティングを定義するならば、「最小の資本」と「最小の人の命の時間」で、最大の付加価値を生み出すための“根本”である、ということでしょうか。

これはカクシンの事業そのものですが、マーケティングがなければ実現は不可能なことです。マーケティングを使って、最小の資本と最小の人の命の時間で、最大の付加価値を生み出し、人が幸せに働ける社会に少しでも近づけられればと考えています。

 

 

<Profile>

田尻望氏
株式会社カクシン代表取締役 CEO
京都府京都市生まれ。大阪大学基礎工学部情報科学科卒業後、株式会社キーエンスに入社。コンサルティングエンジニア、販売促進技術、海外販売促進技術を担当し、2012年に退社。その後、研修会社の立ち上げに参画し独立。株式会社カクシンの前身となる株式会社戦略革真研究所を設立し、経営戦略コンサルティングを実施。著書に『構造が成果を創る~価値を構築するストラクチャリング思考と手法~』(中央経済社)、『付加価値のつくりかた 一番大切なのに誰も教えてくれなかった仕事の本質』(かんき出版)。